「ねほりんぱほりん」から。ゲストのブタ(左)、ねほりん(中央)、ぱほりん=NHK提供
「攻め過ぎててヤバい」。インターネット上でそう話題になっているNHK・Eテレの番組がある。昨年10月からレギュラー放送が始まったトークバラエティー「ねほりんぱほりん」(水曜午後11時)だ。重視しているのは視聴率アップより、テレビを見ない「ネット民」らにも関心を持ってもらうこと。その魅力を根掘り葉掘り聞いた。【庄司哲也】
人形劇で「訳あり」赤裸々トーク
登場するのは人形で、聞き手役の「ねほりん」と「ぱほりん」と、ゲストのブタ。一見、NHK伝統とも言える可愛い人形劇に見えるが、ブタの声は匿名の一般人で、「偽装キラキラ女子」「二次元しか本気で愛せない女たち」など、訳ありの人ばかり。そして話の内容はあまりに過激だ。
例えば、昨年の放送では、覚醒剤にはまりながら子どもを育てた「元薬物中毒者の女性」が、薬を断って社会復帰した今も「やりたくないと言ったらうそになる」と赤裸々なトークを繰り広げた。また最近の放送では「ナンパ塾」に通う男性が登場し、その本音に迫ったりもした。堅いイメージがあるNHKの番組なのかと疑ってしまうほどだ。
攻めている理由について同番組デスクの萩島昌平さんは「Eテレは総合テレビと違って、美術や福祉など特定のニーズに応えるチャンネル。どんな分野の人を出しても許される。だからこそ、とがったテーマや冒険ができる」と説明する。
番組のコンセプトを考えたのはディレクターの藤江千紘さん。「ネット上で話題になったブロガーらの過激な発言をトーク番組でも流せないかと考えたのが出発点。でも、出演者の顔を出すと発言が丸くなり面白くない。ならば顔出しできない人を人形に置き換えて出しちゃえと考えた」。この方法によって、ストレートすぎる発言が、ほのぼのとした人形で緩和され、視聴者を不快にさせない効果が生まれた。
「ねほりん」の声を担当するお笑い芸人の山里亮太さんは「モグラになっているので、自分じゃないという気持ちが働いてゲストの話に突っ込んで質問できる。Eテレは攻めの番組を作っていると周りから言われるが、その先頭を走らせていただいている」と語る。
視聴率は1%未満だが、「ネット民に刺さる番組」を戦略に掲げる。電車の移動中でも無料視聴できるように、5分間の短縮版を動画配信サイト「ユーチューブ」にアップ。スマートフォンによる視聴を想定して大きな文字でテロップを入れた。これがネットで話題になり、有料配信サービスのNHKオンデマンドには「スマホから20代女性が大量に入ってきたことがある。今までにない動き」(藤江さん)が出ている。
人形は表情の豊かさと演出が評価され、2016年度のグッドデザイン賞を受賞。優れた番組に贈られる昨年10月のギャラクシー賞月間賞にも選ばれた。
「ねほりんぱほりん」だけが攻めているわけではない。Eテレでは昨年8月、障害者が出演するバラエティー番組「バリバラ」で、障害者を感動の対象にすることを「感動ポルノ」と呼び、疑問を投げ掛けた。同じ時間帯には、日本テレビ系のチャリティー番組「24時間テレビ」が放送されていただけに、真正面からの批判が話題になった。
阪南大国際コミュニケーション学部の大野茂教授(メディア表現論)は「民放ならばスポンサーの意向を気にしなければならないが、『ねほりん』はその制約がないからこそできるEテレらしい番組。また、ゲストの話を無理にまとめようとしたりせず、視聴者に委ねる姿勢も評価でき、断定を嫌いがちな若い視聴者やネット民にも受け入れられているように見える」と話している。