トランプ米大統領が予告通り、12カ国による環太平洋パートナーシップ協定(TPP)からの離脱を表明した。今後は、相手を一本釣りする形で、2国間の貿易交渉を目指すようだ。
さて、日本はどうするか。
「米国を除く11カ国ででもTPPを実現させよう」「中国や韓国を加えてもいい」--。オーストラリアやチリ、ペルーなどから提案が相次いでいる。
ところが、同様の提案が日本政府からは聞こえてこない。「米国抜きでは意味がない」(安倍晋三首相や萩生田光一官房副長官)ということらしい。
確かに、米国が外れたら経済的意義は損なわれる。再構築が簡単でないのも理解できる。
とはいえ、米国抜きのTPPに意味がないとは決して思わない。むしろ、他国の犠牲のもとに米国第一主義をゴリ押しするトランプ氏の時代になるからこそ、前進させる必要がある。
ここで自由貿易推進のエンジンが弱まると、2国間の貿易戦争が起こりやすくなるだろう。保護主義の向かい風に対抗する理念を多数の国が共有し、米国を含む世界に発し続けるところに、残りの国々でTPPを実現する最大の意味があるのだ。
中国などの参加も本気で模索したらいい。中国を入れず、日米主導でゲームのルールを決めるところにTPPの狙いがあったとするなら、中国の参加は論外と言えるかもしれない。だが、トランプ時代の米国はそれ以前の米国と全く違う。地球規模の経済発展を目指すパートナーになるとは考えにくい。
対中国と対韓国を合わせた日本の輸出額は対米のそれをしのぐ。近隣国との緊密化は、安全保障面でも利益となるだろう。
安倍首相は参院での答弁で、「トランプ氏も自由で公正な貿易の重要性は認識していると考えている」と述べた。6年近い難交渉の末、やっと達した合意を、就任4日目にして一人で破壊した相手をなぜ擁護するのか、理解に苦しむ。
トランプ政権は日本に2国間交渉を迫るだろう。安倍首相も「我々はしっかり交渉していきたい」と否定していない。
だが、日本がTPPを放棄し、米国との2国間交渉に乗り換えるとすれば、理不尽な要求を突きつけられるばかりか、トランプ政権による一方的な国際ルールの書き換えに同調することにもなる。日本までが米国第一主義をとることはない。
米国の不参加は国益に反する、とトランプ政権に思わせるような自由化の枠組みを、価値を共有する国々で築く。日本はその司令塔こそ目指すべきだ。