ここ3回、女性起業家が主人公になったドラマが続いているNHKの朝ドラ。女性の実業家が珍しかった明治大正の時代に、ヒロインが生命保険会社や女子大を作る「あさが来た」(2015年度下半期)とか、戦後の喪失感をバネに出版社を立ち上げて成功させる「とと姉ちゃん」(2016年度上半期)とか。
時代が違うにしても、この2つのドラマには多少のダブり感がなくもなかった。というのも、ヒロインのキャラはどちらもパワフルで前向きな、“バリキャリ”タイプ。舞台が、それまで男性が主役だったビジネスの場に移っただけで、考えてみるとこの2人のヒロインって伝統的な朝ドラキャラ、そのまんまだったと思う。
そうそう。「とと姉ちゃん」が大プッシュしたのにぜんぜん流行語にならなかった、日本昔話みたいなセリフ「どうしたもんじゃろうのう」が象徴するように、ドラマ後半はヒロインたちが女性の着ぐるみを着た“おじさんモーレツサラリーマン”に見えてきたところも、2つのドラマの共通点。
ヒロインはモーレツでない“ゆるふわキャラ”
そんな2作の“バリキャリ”ドラマに続くことになった、現在放映中の「べっぴんさん」。これがまたしても女性起業家が主人公のドラマなのだが、前評判からして、かなり前二作とは毛色が変わっていた。なにせ主人公は戦前の富豪のお嬢さんで、そのお嬢さんが女学校のお友達ら3人と子供服の会社を成功させるっていうじゃないの。
ちなみにヒロインのすみれちゃんのモデルは、子供服ブランド「ファミリア」の創業者で、その父は、アパレルブランド「レナウン」の創業者とされている。アイビーで一世を風靡した「VAN」みたいな会社も出てくるし、舞台も身近で、自分のまわりの元“昭和キッズ”の期待値はかなり高かった。
さらにドラマが始まってみると、すみれちゃんは、あんまりしっかりしてない“ゆるふわキャラ”。だいたい、このドラマで流行語物件としてプッシュされているっぽいセリフは、すみれちゃんが何か違和感を感じたときに言う「なんか…なんかな…」だし。とにかく前2作の、前進あるのみのパワフルヒロインとは大きく違う。
自分の知り合いのことを考えると、ビジネスで成功する女性のほとんどは、成功に向かってガンガン道を切り開いていく「とと姉ちゃん」の常子タイプ。ただしごくたまに、真性お嬢さんの成功者もいる。
出世欲も、やる気もあんまりなくて、ぽやーんとしてそうなのに、育ちの良さで磨いた嗅覚と頭の良さで、ぐいぐい運を引き寄せる。ガツガツしたバリキャリがあまり好かれない自然体志向の昨今、ある意味、女性にだけ許される理想の成功者像かもしれない。