世界を驚かせた国民投票から半年以上経過し、英首相がようやく欧州連合(EU)離脱について詳細な方針を語った。中途半端な離脱ではなく、単一市場からの完全な撤退になるという。
EU域内における人、モノ、カネ、サービスの移動や取引を自由にするのが単一市場で、EUの中核的な部分を占めている。「EUから離脱する」といいながら、単一市場にとどまるということ自体、もともと矛盾があった。人の移動(移民)は独自に制限しながら、非関税措置などの恩恵は受け続けるという部分残留を期待する声もあったが、そもそも虫の良過ぎる話だった。
EU離脱の選択をする以上、単一市場からの撤退はやむを得ないことと言えよう。
問題は、その先である。
離脱後の英国とEUの関係は交渉が終わってみないとわからない。メイ首相はEUと新たな自由貿易協定を結び、人口約5億人の巨大市場と、今とあまり変わらない条件で経済取引を行いたい考えだ。
しかし、そのための交渉は相当難航し長期化は必至とみられる。EUとの離脱交渉は原則2年とされるが、期限が近づいても、新たな貿易協定が展望できないといった事態に陥れば、英経済は動揺しかねない。そこに至る前に、英国に進出している外国企業が撤退の動きを活発化させることもあり得る。
楽観が失望に変わり、国民の政治不信が一段と強まれば、極右や排外主義といった過激な思想を勢いづかせかねない。メイ政権は、英国がEU離脱により得るメリットとデメリットを国民にわかりやすく説明し、理解してもらえるよう努めることが大事だ。
交渉開始を前に、英・EU双方に望みたい。両者の対立が先鋭化することで、外国への嫌悪や国際協調を妨害しようとする動きが欧州全体に連鎖することがあってはならない。理性的な対応を心がけてほしい。
米国では間もなく多国間の協調に冷ややかなトランプ氏が大統領となる。欧州では今年、主要国で重要な選挙が相次ぐ。国民の不満や不安を利用し、他を犠牲にしてでも短期的な自国の利益を追求しようとする風潮を十分、警戒しておく必要がありそうだ。
一方、単一市場だけがEUではないことも忘れてはならない。
EUは、外交、安全保障、対テロ・組織犯罪などでも、連携を取り、世界に重要な影響を与えてきた。離脱交渉を巡る対立が飛び火し、欧州の安定や安全が脅かされるようでは困る。第二次世界大戦後、苦労して築いてきた統合の資産を台無しにしてはならない。