理系学生のための企業研究(4)効率良く就活するにはビジネスモデルの理解から
会社の価値観を知ることこそが、理系学生にとっては最も重要でなおかつ現実的にできる企業研究であることを説明してきました。その価値観と応募する学生がどうマッチングするかを見てみます。なお、本稿でいう「ビジネスモデル」は、経営学上の定義ではなく、理系学生が就活において認識すべき簡易な定義として用いています。
ビジネスモデルを知る
第2回「仕事を詳しく見て企業の知識を広げよう」では、新日鉄住金株式会社を例に、製鉄メーカーと思われる企業が、実はバイオマス事業まで含めた、幅広い事業展開をしていることを調べました。新日鉄住金クラスの巨大企業となると、さまざまな事業展開があります。製薬会社のビジネスモデルはどうでしょう? 当然ですが薬を製造して販売するのが商売です。
ではまた実際に、今回は武田薬品工業のホームページを見てみます。同社の「会社情報」から「会社概要」、「事業内容」に進むと、「医薬品等の研究開発・製造・販売・輸出入」と書いてあります。当然ですが、これで武田薬品は薬を研究するだけの研究機関ではなく、薬を研究開発し、製造し、販売し、さらに輸出入もしていることがわかります。
なぜ製薬会社を例にとったかというと、薬学部や薬学研究科だけでなく、化学やバイオなど広く理系学生が製薬会社を志望することが多い中、びっくりするほど研究開発職「だけ」に集中する傾向があるからです。
ビジネスモデルを知ることで超人気業界でも可能性が上がる
製薬会社の研究開発職は素晴らしい仕事ですから、それを志望するが悪いのではありません。しかし採用されるのはごくごくわずかな人数です。薬学研究科の修士や博士学生でも簡単ではない競争に、さらに薬学以外の専攻学生も集まるのですから、それはきわめて激しい競争になるのです。
一番恐れるべきことは、そうした確率・競争率も考えずに製薬会社の研究職だけを志望することです。武田薬品の事業内容には研究開発以外に、「製造・販売・輸出入」がありました。「薬学の勉強をしている、化学合成の知識がある、バイオ関係の研究を実社会で活かしたい」のであれば、それは製造でも、販売でも、輸出入でも果たすことはできないでしょうか。
超人気職である製薬会社の研究職、とんでもない競争率での勝負ではなく、同時に製造や販売でも、もしくは海外学会に参加したり、研究室の外国人留学生との交流など、英語にも多少自信があるのであれば、輸出入関係でも、「製薬会社に貢献」できるかも知れません。
製薬会社が理系学生を販売や輸出入関連で採用しているかどうか保証するものではありませんから、それはご自身でしっかり会社研究をして確かめてください。しかし、研究開発職一本で応募するより可能性は広がるでしょう。当然これは武田のようなトップ企業だけでなく、中小企業や少し業界範囲を広げて試薬、アニマルヘルスまで同じように事業内容を調べることで、選択肢は劇的に広がります。これこそが理系学生がやるべき企業研究なのです。
学生の限られた企業知識だけで志望先企業を決めることは避け、事業の仕組みを調べて、そこにおいて自分が貢献できるかどうかを判断して進めるのが戦略的就活です。
企業研究をした上での活動は効率が何倍にも上がる
大学では早ければ年内、ほとんどのところでは年明け早々には学内で企業の人を招いて「キャリア説明会」や「OB・OG交流会」「仕事研究セミナー」のような呼称での交流情報交換会があるでしょう。少なくとも外部の就活情報会社が主催する同種の催しは多々あります。そういった催しに参加する前に、ここで述べた企業のビジネスをある程度理解して臨んだらどうでしょう。
OB・OG訪問も同じく、ゼミや研究室に先輩が来る場合も同じです。事前準備をして臨むのと、その場で初めて情報を聞くのでは、すでに雲泥の差が出ています。ほとんどの学生は、そうした交流の場に来てからやっと企業情報を知ることになります。研究の合間にでも、今回説明したようなホームページの一部情報を見ておけば、「なぜ〇〇業なのに〇〇事業に取り組んでいるのか」のような本質的な疑問をもって臨むことができます。
当然その場でこうした実のある質問をすれば、何も準備せず臨む他の学生の「福利厚生は何がありますか?」「30歳の平均年収は?」「○○専攻の人のキャリアパスは?」というような、知りたいのはわかりますが、企業の人も答えようのない質問や無為な質問と断然差ができます。
難しい財務情報を勉強せずとも、日々の研究室やゼミで忙しく時間を拘束されていても、ホームページを見て、企業の事業内容を知るだけでもここまでできます。まずは見るべき会社情報、企業情報、事業内容を見るようにしましょう。
マッチング
企業は日々成長し、変化する存在で、人間(学生)もまた日々変化し成長します。キャリアにおけるマッチングとは、固定した数値やデータを付け合せて判断できるものではなく、日々変化する変数と変数、非線形なデータで最適化を判断することです。
その企業の商売の仕組みと自分の能力や可能性が適合するならマッチングが成り立ちます。あくまで可能性であって、日々変化成長する学生の皆さんの今現在だけで決まるものではありません。
専門分野と商売の仕組みが合致する部分が大きければ可能性が高まり、小さければ低くなります。しかしあくまでそれは可能性なので、企業も学生の可能性をしっかりと見て判断します。だから専門外分野への就職も可能になるし、基礎系など産業と直結しない勉強をしている学生も、そうした可能性をしっかり訴えられれば十分成功の目があるのです。