第67回 睡眠研究のための“異時間空間”「隔離実験室」
雑誌やネット上には睡眠に関するさまざまな情報が載っているが、その元ネタを提供している睡眠研究がどのような場所でどのようにして行われているかご存じの方は少ないだろう。私の所属する国立精神・神経医療研究センターには国内外から多くの見学者が訪れるが、睡眠や体内時計の機能を正確に測定できる睡眠実験室(隔離実験室)も見学コースに入っていることが多く、物珍しいのかなかなか好評である。
隔離実験室は、窓もない分厚い壁に四方を囲まれて、外部から完全に隔絶された空間である。実験室のある研究棟を新築するときに特注で作られた。室内照度、温度や湿度も管理され、遮音もバッチリなので何日間も入室していると昼夜が分からなくなる。
なぜこのような施設が必要なのかと言えば、睡眠や体内時計は光や温度、心理的影響などさまざまな環境要因で影響を受けるため、正確な研究データを得るにはそれらを厳密にコントロールする必要があるからだ。以前はまかり通っていた学説が、実は計測ミスや解釈の誤りであったということもしばしばある。
本サイトの連載企画「「研究室」に行ってみた。」でも話題にのぼった「体内時計25時間はウソだった!」というのもその1つである。体内時計の周期が25時間という話はいまだに記事やネットで見かけるが、これは実験が行われた1970年代当時は人の体内時計に関する知識が不足していたため、実験室の照明の影響を過小評価していたことによる測定ミスなのである。今では厳密な測定法が確立されて新しい測定値が出ている。この話題については後でも触れる。
さて、隔離実験室についてもう少し詳しく紹介しよう。大きさは施設によっても違うが、私の実験室の場合は、大き目のリビングルーム(約68平米、37畳)を取り囲む形で、バス、トイレ、寝室用の個室が6室設置されていて、かなり広い。時には数週間から1カ月を超える長期滞在試験が行われるが、よほどの閉所恐怖症でなければ問題なく生活できる。
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