カオス化するトランプ政権 |
さて、昨日の話のつづきとして、トランプ政権への移行チームが難題に直面していることを指摘した興味深い記事がありましたので、その要約を。
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トランプはショーマンでありマネージャーではない:カオスに気をつけよ
by ドイル・マクマナス
1月20日の就任式に向かってトランプの政権移行チームからは色々な動きが報じられている。
次期大統領はわずかな数の閣僚しか指名しておらず、その何人かの候補者は今週から連邦議会の公聴会に参加しはじめている。
その合間にトランプ・タワーからは、ホワイトハウスで働くスタッフや、新たな主席補佐官となる共和党委員長のレインス・プリーバス、それにテレビのリアリティ番組の司会者であるオマロサ・マニゴールドまで、多くの人材登用のニュースが発表された。
ところがそこにはいくつかの危険信号が見えてくる。両党の実務経験者たちは、トランプ政権がカオスに確実に直面することを警告しているからだ。
政府機関のマネージメントについての研究では最も優れた専門家の一人である、ニューヨーク大学のポール・ライト教授によれば、
「トランプは官僚チームづくり関していえば、近代のどの大統領の政権よりもスケジュール的に遅れている。もちろん彼自身は就任式を無事に迎えることはできるだろうが、政権チームはオバマ政権の決まりごとをキャンセルすること以外はほとんど何もできない」
というのだ。
もちろんこの問題のそもそもの原因は、トップであるトランプ氏自身にある。次期大統領は、その仕事のスタイルとしては起業家やショーマン向きであり、大規模な組織のマネージャーのタイプではない。
彼は最後に聞いたアドバイスを参考にしてものごとを決断することで知られており、政策発表はツィッター上で行い、しかもこれは周囲のアドバイザーにあらかじめ知らせない形で行われることが多い。しかも彼自身は組織のヒエラルキーに対して我慢できない性格だ。
先月行われたテクノロジー系企業のトップたちとの会合でも、
「私のスタッフに電話してくれたら、それは私に電話したことと同じですよ。そこに違いはありません。公式な指揮系統はないんです」
と発言している。
ところがホワイトハウスというところでは、大統領の注意を促すような問題や危機などが溢れかえっており、これらによって常に長期戦略が脅かされるような事態が発生している。
通常の場合、このような問題の出入りを管理するのは首席補佐官の仕事であり、彼が大統領の会合のスケジュールや情報の流れをコントロールして、トップが優先順位の高い問題に対処できるようにするものだ。
トランプ氏の場合、これはプリーバス補佐官の仕事となる。プリーバス氏はウィスコンシン州の共和党委員から全米共和党委員長となり、その流れの中でトランプからの信任を勝ち取った人物である。
ところがプリーバス氏がそのすべてを管理できているとはいえない。なぜなら現在の移行チームのスタッフからは、その実態として三人がトップであるという証言が出ているからだ。その三人とは、プリーバス、政治戦略家のスティーブン・バノン、そしてコミュニケーション戦略家であるケリーアン・コンウェイである。
このような構造が、混乱を生み出さないわけがない。
トランプ氏の「トロイカ体制」はレーガン政権の時の優れたコンビネーションを想起させるものだ。この時も補佐官で有力な人間としては、ジェームス・ベイカー、マイケル・ディーヴァー、そしてエドウィン・ミーズという三人がいた。ところがホワイトハウスではベイカーが明らかにその三人の中で最も権力を握っていた。
ただしトランプのチームにおけるプリーバス首席補佐官は、ベイカーのような立場にはない。
さらにややこしいのは、プリーバスとバノンは、時として敵対的な関係にあった勢力をそれぞれ代表して政権に参加してきているという事実だ。
プリーバスは共和党の下院議長であるポール・ライアンに近い存在であり、共和党の伝統保守のエスタブリッシュメントを代表する存在だ。
ところがバノンはメディア組織であるブレイトバートの元トップであり、過去には共和党のエスタブリッシュメントを「叩きつぶし」て、ライアンを下院議長の座から引き釣りおろしたいと発言したこともあるほどなのだ。
しかも次期大統領がどちらの勢力に沿った「トランプ主義」を採用するのかも明確ではない。選挙期間中に方針が明確にされることは一度もなかったからである。
ところが過去の政権は、これらをすべて明確にしてきたきた。
ブッシュ(息子)政権で首席補佐官を務めた経験のあるジョシュア・ボルテン氏は、「われわれは最優先の政策が何かについて不明確だったことはありません。450ページにわたる政策文書がすでにあったからです。ところが現在の移行チームはそこまで行ってませんね。これは懸念すべき事態です」と先月行ったインタビューの中で述べている。
たしかにここ数日間で任命の速度は加速しているものの、トランプチームはまだ過去の政権に比べて、スタッフ採用の面ではかなり遅れている。
ライト教授は、「彼らは今週まで人事担当責任者を指名できていなかったわけです。ほとんどの政権は去年の7月か8月の時点でその人選を終えているものです。なんせ3,300人もの人間を任命しなければならないわけですから。時間がかかるのは当然ですよ」と指摘している。
トランプに任命された人々にはビジネス経験や選挙運動の経験、そして軍事経験のある人々はいるが、最高行政府の経験を持つ人は少数だ。
再びライト教授によれば「トランプ氏にはこのような官僚組織を管理した経験は決してありません。彼のビジネスのやり方はフラットであり、それでも機能していたわけです。ところが連邦政府というのは最もフラットではない組織であり、その階層は63層にもわかれているのです。彼の周辺には彼の政策を実行するための官僚組織を管理するやり方を深く身につけた人はいないのです」という。
もちろんトランプ氏はこれを驚くほど鮮やかにやってのける可能性はある。過去にもこのようなことをやったからだ。彼の選挙戦は、開始当初から過小評価されてきた。
ところがすべての新米大統領にとって、政権をとったばかりの時には混乱するのは常であり、その混乱の煙はすぐに充満してしまう。
たとえばクリントンは、大統領になるまで地元のアーカンソー州の知事を一〇年以上務めた経験があったにもかかわらず、就任一年目は散々であった。
ホワイトハウスの補佐官たちはドワイト・アイゼンハワー大統領の言葉をよく引用する。彼は大統領になる以前に、欧州米軍を指揮した経験をもっている。
アイゼンハワーは「組織においては、無能な人間から天才を生み出すことはできないが、組織の混乱は容易に大災害につながりやすい」と書いている。
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中心や秩序を失った組織は、その大小の差はあれども混乱しやすいということを指摘した記事ですが、迷惑なのはそれが中だけで収まらず、たとえば大国のような規模の大きい国家の場合は、その影響が外に出てくると周辺国にとっても大迷惑。
ましてや(好むと好まざるにかかわらず)世界の中心的な役割を果たしているところにこれですから、あまり良い予感はしませんね。
上の記事では「クリントン政権でも最初の一年は混乱」といってましたが、それ以上に気になるのは、トランプ政権の場合も確実にまず政権初期(およそ半年以内)に中国と接触事件的な事案を起こして右往左往する、ということかと。
ブッシュWの時はEP-3が中国軍機と接触して強制着陸し、数日間拘束された「海南島事件」、オバマ政権の時は音響測定艦「インペッカブル」が中国側の漁船などに進路妨害された事案などがありましたので。
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想像の範疇を越える規模です(^^;
トランプ氏に、ある種の「期待感」を漂わせる言説もありましたが、そんな単純なものじゃ、ないですよね~(>_<)
やや不安です。