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野口悠紀雄 新しい経済成長の経路を探る

なぜ「高齢者は働かないほうがトク」になってしまうのか

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第18回】 2017年1月19日
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 高齢者が元気になっているのに、65歳以上の労働力人口比率は低下していることを、前回(『「高齢者は働かないほうがトク」という制度は見直すべきだ』)述べた。その原因は、制度にある。とくに、社会保障制度が就労のインセンティブを阻害している。以下では、在職老齢年金制度と高齢者の医療制度について見てみよう。

年金受給資格がある人でも
働くと年金が支給停止される

 年金受給資格がある人でも、働いていると年金の一部または全額が支給停止されることがある。これを、「在職老齢年金」制度という。この制度は、高齢者の就業を抑制する効果があると考えられる。以下で、その仕組みについて説明しよう。

 停止額は、「基本月額」と「総報酬月額相当額」によって計算される。

 「基本月額」とは、年金額(年額)を12で割った額だ(老齢基礎年金や加給年金は含まれない)。「総報酬月額相当額」(以下、「報酬月額」という)とは、毎月の賃金(標準報酬月額)と、「1年間の賞与(標準賞与額)を12で割った額」の合計だ。

 計算方法は、それほど難しくないが、最初は取りつきにくい。ウェブには早見表がいくつも提供されており、「在職老齢年金 早見表」で検索すればすぐに見つかるので、それを見るのがもっとも手っ取り早い。例えば、このようなサイトがある。

報酬が2万円増えると
年金は1万円減額

 (1)60歳以上65歳未満の場合

 基本月額+報酬月額が28万円までは、減額しない。基本月額+報酬月額が28万円を超えると、報酬月額が2万円増えるごとに、年金が1万円減額される。

 例えば、基本月額が10万円の場合、報酬相当額が20万円なら1万円減額され、報酬月額が38万円以上になると、年金は全額カットされる。

 基本月額が20万円の場合は、報酬相当額が10万円なら1万円減額され、報酬月額が48万円からは年金は全額カットされる。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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野口悠紀雄 新しい経済成長の経路を探る

 日本が直面している課題は、実体経済をいかにして改善するかである。それは金融政策によって実現できるものではない。
 金融緩和に依存して長期的に衰退の道を辿っているヨーロッパ大陸諸国と日本。それに対して、新しい情報技術をつぎつぎに開発し、高度なサービス産業に特化して成長しつつあるアメリカとイギリス。両者の差は、イギリスのEU離脱によって、具体的な 形を取りつつある。
 日本はいま、基本的な成長のパタンを大きく変更しなければならない。これは、純粋な研究開発だけの問題ではない。企業の仕組みや社会全体の構造が重要な役割を果たす。

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