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トランプ新大統領の経済政策には「一本の筋」が通っている
トランポノミクスの「点と線」

一連の発言はビジネスマンの「交渉術」?

1月20日にいよいよトランプ政権が発足する。新政権がどのような政策構想を持っているかを占う上で注目度が高かった1月11日の記者会見であったが、残念ながら具体的な政策についてはほとんど言及されなかった。依然として先が読めない状況が続いている。

特に、経済政策面での「目玉」であったインフラ整備や家計や大型減税については、その具体策がほとんど明らかにされないまま記者会見は終了した。

トランプ大統領は、ツイッターなどのSNSを通じて様々なコメントを発信している。経済政策面も例外ではない。ただし、トランプ大統領のツイートの内容には整合性がなく、その実現可能性は定かではない。「保護貿易主義」的だと世界を震撼させた「国境税」に対しても、ここ数日は否定的なツイートが出るようになっており、真意の程はわからない。

また、内外企業問わず、米国内への投資を頻繁に呼びかけ、それに応えない企業は名指しで批判するという作戦もトランプ新大統領の大きな特徴である。日本企業では、トヨタが名指しで批判され、急遽、米国向けに1兆円以上の投資を決めた。また、米国企業も設備投資の国内回帰を次々と決めている。

このような経緯もあり、トランプ新政権はやはり保護貿易主義に走るのではないかという懸念が高まっている。

現在取り沙汰されている国境税は一種の関税であるため、トランプ新大統領がこれを行うとWTO違反となる可能性が高いが、トランプ政権が「WTO脱退も辞さず」というのであれば、この姿勢を貫くかもしれない(現に、そのような意思を表明するようなツイートをしたこともある)。

だが、トランプ政権は2年後に中間選挙で、国民の審判を受けるわけだから、実際は、特に政権発足当初はあまり極端な政策をとることはできないのではないかと筆者は考える。

例えば、WTOを脱退するという行為はほぼ確実に、中間選挙前に株価を暴落させるリスクがある。トランプ政権には、投資銀行出身者やファンド出身者が経済政策担当閣僚として多数採用されている。彼らは経済政策の評価を株価動向で判断する可能性が高いし、現に、米国経済は家計消費などで株価に連動して動くセクターが多いため、株価が暴落するようであれば、このような政策は棚上げせざるを得なくなるだろう。

従って、最近のトランプ氏の一連の発言は、アメリカのビジネスマンに見られがちな一種の「交渉術」であって、実際の政策立案に直面すると、現実路線に収束していくのではないかと考える。

 

米国経済を痛めつける「悪い政策」?

トランプ新大統領は、「国民皆保険」の実現を意図して策定された「オバマケア」を廃止するとして大きなニュースになっている。「オバマケア」の廃止は、無保険者の増加を通じて貧富の格差のさらなる拡大をもたらす懸念が指摘されている。

そしてトランプ新大統領は、「オバマケア」の廃止だけではなく、新しい制度をつくることを示唆している。現時点でこれがどのようなものになるかがわからないため、何とも評価しにくいが、「オバマケアの廃止」だけで、まるでアメリカの医療保険制度が崩壊するかのような論調も、時期尚早だと思う。

マスメディアに対する攻撃的な姿勢を一向に緩めないトランプ氏の言動も手伝ってか、トランプ政権の経済政策については、負の側面ばかりが強調されている感が強い。だが、本当にそうなのだろうか?

確かに、保護貿易と公的医療保険制度の廃止は、それだけをみれば、米国経済を痛めつける「悪い政策」であるのは確かであろう。そして、トランプ新大統領が完全に悪役と化している現状、識者がこの手の懸念を表明するのは、非常にたやすいことであるし、一般大衆の理解も得やすいだろう。