〈時代の正体〉黒岩知事「心外」発言が波紋 やまゆり園建て替え問題

  • 神奈川新聞|
  • 公開:2017/01/12 23:32 更新:2017/01/13 14:15
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【時代の正体取材班】殺傷事件の起きた相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」の再建問題で、県が示した全面建て替えの方針に障害者団体や有識者から異議が相次いでいることに黒岩祐治知事が「非常に心外」と不快感を示した発言が波紋を広げている。

 黒岩知事は施設や家族会の意向を踏まえた判断だと強調するが、10日に開催された公聴会では入所者の意向を丁寧に確認するよう促す意見が相次いだ。重度障害のある入所者の意向確認は困難との前提で方針の策定を進めた結果、障害者の権利を考える上で重要な「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」という理念とのずれが浮き彫りになった格好だ。黒岩知事の発言を受け、県内の障害者団体代表は12日、「入所者にとって最も望ましい暮らしの在り方が何なのか、もっと議論することが必要だ」と語り、建て替え方針の白紙撤回をあらためて求めた。

 黒岩知事が不快感を示したのは、障害者団体や有識者から意見を聞いた公聴会翌日の11日。県の方針に異議が出ていることに「建て替えの判断そのものが間違っているのではないかと言われていることは、非常に心外です」と発言。判断の根拠は、やまゆり園の職員や家族会の意向にあると強調し、「事件直後に入所者と接したが、意思確認は非常に難しいと痛感した。地道にやっていかなければいけないとは思うが、本人の意思が確認できない場合は家族の意見を聞くのが次善の策」と判断の妥当性を主張した。

 県は当初から入所者本人の意向確認は困難としてきた。ところが10日の公聴会終了後、報道陣に対し小島誉寿福祉部長は年末年始に簡易的な意向確認を実施していたことを明らかにしていた。「回答なし」「決められない」が合わせて6割に達したとする一方、より的確な意思確認の方法を検討する意向も示した。

 だが、黒岩知事は意向の再確認について「なかなか難しい」との考えを示した。

 県は3月までに、全面建て替えを柱とする基本構想を策定するとしている。

 こうした姿勢に疑問を呈するのは、公聴会で意見陳述を行ったNPO法人県障害者自立生活支援センター理事長で脳性まひの鈴木治郎さん(61)=海老名市在住。10日の公聴会でも「家族と本人の意向がイコールとは限らない」との意見が出たが、12日、神奈川新聞社の取材に「何よりも入所者本人の意向を確認することが大切。重度障害者の意向確認はできないとはなから思い込んでいないだろうか」と指摘。大規模施設を再建することに「障害者や家族を支える仕組みを地域でつくり、健常者と接することができる環境を整えることこそ、県が憲章でうたっている共生社会につながるのではないか」と話した。

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