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2017年01月13日

電子書籍は「書籍」ではなくなる?

アオシマ書店・八田モンキー氏と米光一成氏に聞く、電子書籍の売り方と未来

書店の倒産や雑誌売上の大幅減など、厳しいニュースの続く出版業界。一方で、電子書籍市場はすでに1,500億円以上の規模を誇り、電車の中でタブレットやスマートフォンで読書する人の姿も珍しいものではなくなっている。そんななか2016年2月に開設されたのが、電子書籍専門の販売情報サイト「アオシマ書店」。アオシマ書店を運営する株式会社studio NAS(スタジオナス)の八田モンキーさんとアドバイザーの米光一成さんに、サイトのなりたちや、先日始まった「電書告知サービス」、そして今後の電子書籍業界の展望を聞いた。


作家兼エンジニアだからこそ感じた、電子書籍の楽しさ

──studioNASは、これまでに制作会社として他社のウェブや書籍を手がけていらっしゃいます。今回、自社で「アオシマ書店」を始めたきっかけは何でしょうか。

八田モンキー氏(以下、八田氏):以前から自社サービスやメディアも立ち上げたいという話はずっとしていて、今回社員のバックアップと米光さんのような外部の方のサポートを得ながら「アオシマ書店」をはじめました。ぼくは2010年ごろに『暫-SHIBARAKU!-』という電子書籍をiPadアプリで出した経験があり、それがすごく楽しかったんですね。以来、電子書籍にずっと関心を持っていて、米光さんと「電書カプセル」という電子書籍販売アプリを開発したこともあります。また何かしら電子書籍に関するサービスをやりたいと思っていたんです。

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「アオシマ書店」


──電子書籍にかかわるサービスはいろいろあると思いますが、なぜ今回販売情報サイトを選んだのでしょうか。

八田氏:めぼしいサイトがなく、需要を感じたからですね。電子書籍にしぼってセール情報や新刊情報を紹介するサイトは過去にいくつかの企業が立ち上げているのですが、大半は撤退しているんですよ。

米光一成氏(以下、米光氏):電子書籍──ぼくはとっつきやすさを出すために「電書」と呼ぶことを推奨しているんですけど──には、紙の本と違って「書店で平積みされているのを偶然見て手に取る」ような機会がないんですよね。検索やランキングからしか本を探せないことが多い。だから、電書のほうが「おすすめ」サイトが必要なんだけど、なかなかうまくいっていない。

八田氏:唯一成功しているのがニュースサイト「きんどるどうでしょう」。アオシマ書店も「きんどるどうでしょう」をリスペクトしつつ、違うスタイルで運営していきたい。

セルフパブリッシング普及の障壁は「告知の手段」だった

──「アオシマ書店」という名前やマスコットキャラ、サイトデザインなどにやわらかさがあって、情報サイトというよりもおしゃれなウェブマガジンのような雰囲気がありますよね。

八田氏:マスコットキャラは社内のイラストレーターが考えてくれました。「南国でバカンスを楽しみながら読書する雪男」らしいです。アオシマ書店という名前は、あまりにもサイト名が思いつかなかったので、近所の人気ラーメン店からとりました(笑)。ギークな人だけではなく、これまであまり電子書籍を読んだことのない人にも気軽に訪れてもらえるサイトを目指しているので、それが伝わっているならうれしいですね。

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八田モンキー氏


──サイトが始まってもうすぐ1年ですが、よく読まれた記事にはどういったものがありますか?

八田氏:99円以下のグラドル写真集 厳選13冊」という紹介記事はよく読まれましたね。グラビア写真集の電子書籍は紙の書籍に比べてかなり割安で売られていることが多いんですが、あまり知られていないようで。それと、話題になっていたドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」の原作マンガの紹介記事も人気でした。このマンガは現在でも電子書籍ストアで1巻が無料配信されています。映画やドラマの公開に合わせて原作のセールがおこなわれることはよくあるのですが、こういった動きもまだまだ知らない人が多いです。

米光氏:アクセス数は一応の指標ではあるんですけど、それが最終目標というわけではないので、セールや時事性に特化して記事を量産しようとは決めていません。

八田氏:アクセス数以外の数字でいうと、月平均80本程度の記事をUPしていて、アフィリエイトで確認できる書籍販売数は月850冊程度です。

──紹介する書籍のセレクトは個々のライターにおまかせなんですか?

米光氏:そうですね。ただ、最近は「アオシマ書店はどういうふうに電子書籍を応援したいのか」というのを明確に打ち出そうという話をしていて。それで始まったのが今回の「電書告知サービス」です。

──誰でも自由に、アオシマ書店に電子書籍のPR記事を出稿できるというサービスですよね。1日2枠までという制限がありますが、最大でも10,000円というのは破格の価格だと思いました。

米光氏:普通の企業サイトだと、出稿料が100万円ぐらいで、個人では出しづらい。でも、電書はインディペンデントで軽やかに出せるのが強みだから、そういったものを応援したい。と思って、なるべく気軽に、安く、告知できる場を作ろうと思ったんです。それで、告知ページを自分で自由に作ってもらって、そのかわり可能な限り安くしよう、と。

 1日2枠あって、価格も時価です。直前まで空いていれば、どんどん安くなる。最安だと2,000円で出稿できるようになっています。こちらのチェックの手間などはどうしても発生するので、それを考慮したうえで、個人の作家さんなどにも利用しやすいぎりぎりの額を模索しています。ぼくたちは、電書のなかでもKDP(Kindle ダイレクト・パブリッシング)のようなセルフパブリッシング(自費出版)が盛り上がる手伝いができればいいと思っているんです。

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米光一成氏


──なるほど、今回の告知サービスは、出版社などの出稿よりもインディペンデントな作家さんの利用を想定しているんですね。

米光氏:出版社も、もちろん大歓迎です。

八田氏:今の電子書籍市場のネックとしては、米光さんが話していた書店で偶然目にして手に取るような機会がないという指摘にも近いんですが、新刊を出しても読者に知らせる手段が少ないことが挙げられます。セルフパブリッシングだと特にその機会がありません。

米光氏:自分のブログやSNSよりも、もう少し広い人に知ってもらえるようになるといいなと思うんです。セルフパブリッシングができることが電子書籍のおもしろさのひとつでもあるのに、これはもったいないと思って。すでに「こういうのがほしかった!」という声は周囲の作家からもらっていますね。

電子書籍は、今後「書籍」ではなくなるかもしれない

──セルフパブリッシングという選択は、クリエイターのなかではすでに一般的なものになっているんでしょうか?

八田氏:周囲の作家と話していると、選択肢としてセルフパブリッシングを持っている人間といない人間にはっきりと分かれているなと痛感します。「KDP」という単語すら知らない人がいる一方で、「出版社だとXXXX部しか刷ってくれないので、自分で出したほうが儲かる」と考えて実行した人もいます。

米光氏:書籍の印税は通常10パーセント程度だけど、KDPでやれば70パーセントだから、1/7の部数を売るだけで同じになる。

八田氏:それと、出版社から本を出すとなると、編集者とのやりとりが必要になる。もちろんそれによって内容が磨かれたり、手間が省けたりする面もあります。だけど、「自分一人でやりたい」というクリエイターもいるわけで、そういう需要にもセルフパブリッシングなら応えられます。

 そういうクリエイターはこれからもっと増えてくると思います。米光さんともよく、「今後セルフパブリッシングでやりたい作家さんのサポートをするようなサービスもできたらいいね」という話をしているんです。内容については著者に任せるけれど、セルフパブリッシングの手続きや告知を肩代わりするようなイメージ。

米光氏:きっと、電書やセルフパブリッシングがもっと盛り上がると、「編集」という言葉の意味もまた違ったものになってくる。読み手と書き手の関係ももっと違ってくるだろうし、それどころか電書の「かたち」ももっと変わってくる。今は紙の本のフォーマットをもとにうつしかえてページをまくっていくかたちが主流だけど、時間で展開したり、分岐したり、読者が編集できたり、キャラと対話したり、違うスタイルがあってもいい。それでいうと「書」でも「籍」でもなくなっていくのかもしれないけど……。「アオシマ書店」にも「書」を入れない方がよかったかな(笑)。

八田氏:「アオシマ屋」とかに改名しますか(笑)。読み手にとっての電子書籍市場はかなり発展してきたので、書き手にとっての仕組みの整備がもっと進むといいなと思いますし、アオシマ書店としてはそのお手伝いをできればと考えています。

──今後の電子書籍市場と「アオシマ書店」を楽しみにしています。ありがとうございました!

(取材・構成:平松梨沙


●八田モンキー(はった・もんきー)
小説家、Webエンジニア。studioNAS所属で、「アオシマ書店」では企画・開発を担当している。第3回講談社BOX新人賞STONES受賞。著書に『メイド喫茶ひろしま』(ぽにきゃんBOOKS)。

●米光一成(よねみつ・かずなり)
ゲームクリエイター。『ぷよぷよ』『BAROQUE』などの人気作を世に送り出す一方で、執筆活動も旺盛に行っている。宣伝会議編集ライター講座プロフェッショナルコース専任講師。電子書籍を「電書」と呼ぶことを提唱し、「アオシマ書店」ではアドバイザーを担当している。著書に『自分だけにしか思いつかないアイデアを見つける方法』(日本経済新聞出版社)ほか。

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