闇に生きる孤独な男。しかし男は恋をした。そして光を求め出した。でも男は忘れていたのだ。自分の背中には常にサソリがいたことを。自分自身もサソリだったことを……。
目次
『ドライヴ』感想とイラスト サソリの性
作品データ
『ドライヴ』
Drive
- 2011年/アメリカ/100分/R15+
- 監督:ニコラス・ウィンディング・レフン
- 原作:ジェイムズ・サリス
- 脚本:ホセイン・アミニ
- 撮影:ニュートン・トーマス・サイジェル
- 音楽:クリフ・マルティネス
- 出演:ライアン・ゴズリング/キャリー・マリガン/ブライアン・クランストン/アルバート・ブルックス/オスカー・アイザック/ロン・パールマン
予告編動画
解説
闇に生きるプロの逃がし屋が、人妻に惚れちゃったことによってなんとか向こう岸へと渡ろうと、カナヅチなのにカナヅチ持ってあっぷっぷ、なんて感じのクライム・ラブ・アクションです。原作はジェイムズ・サリスの同名クライムノヴェル。
監督は『ネオン・デーモン』のニコラス・ウィンディング・レフンで、本作によって第64回カンヌ国際映画祭・監督賞へと見事に輝きました。主演は『オンリー・ゴッド』でも同監督とタッグを組んだライアン・ゴズリング。
共演に『17歳の肖像』のキャリー・マリガン、『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』のブライアン・クランストン、『ファインディング・ニモ』のアルバート・ブルックス、『エクス・マキナ』のオスカー・アイザック、そして我らがロン・パールマンなど。
あらすじ
昼は自動車修理工場で働き、時にバイトとしてハリウッドのカースタントをこなし、夜にはその卓越したドライビングテクニックでプロの逃がし屋として闇の仕事も請け負う謎の男(ライアン・ゴズリング)。
寡黙で孤独に生きる男だったが、ひょんなことから隣に住む人妻のアイリーン(キャリー・マリガン)と出会い、ふたりは恋におちる。彼女の夫スタンダード(オスカー・アイザック)は服役中で、現在は息子のベニシオとのふたり暮らしだったのだ。
しかしほどなくしてスタンダードが出所。ふたりの関係は終わるかに見えたが、スタンダードは服役中に多額の借金を背負っており、脅されて強盗を強要されていたのだった。アイリーンとベニシオを守るため、彼らの強盗計画へ協力する男だったが……。
感想と評価/ネタバレ有
近々公開されるニコラス・ウィンディング・レフン期待の新作『ネオン・デーモン』へといざ挑むため、自身のゆるんでたるみきったとにかく低い意識を高めようと、レフンの代表作である意識高い系映画(?)の最高峰『ドライヴ』を何度目か忘れましたが再見いたしました。
恥ずかしながら何度観ても泣けるし、カッコいいし、面白い、大好きな作品です!並の意識高い系オシャンティー映画ではないこの映画。何が凄くて、何が桁外れで、何がぶっちぎっているのか、それでは長々と意識を高く持ちながら解説していきましょうか。
スカスカだけどギラギラ
簡単なあらすじを紹介しますと、名前をもたない流れ者のプロの逃がし屋が人妻に惚れちゃって、彼女のためになんやかんやと世話を焼いてあげるものの、途中から全部裏目に出て、怒りに燃えさかって壮絶な殴り込みをかけてあら大変、というもの。
西部劇や任侠ものを換骨奪胎したよくある話です。そんな普通の物語なのに、完成した映画はとても普通とは言えない異常な代物でした。過剰にロマンチックで、ひたすらクールで、壮絶にバイオレントな、血沸き肉踊り胸が張り裂けそうになるぶっちぎりのオシャンティー映画。
無粋な言葉に頼ることなく、ふたりの愛を、想いを、苦悩を、そして決意を映像と音によって描いた容赦なく意識高い系映画。実はたいしたことない物語をたいしたことある映画へと変換させてしまったニコラス・ウィンディング・レフンの剛腕鉄腕。
「見かけはギラギラだけど中身はスカスカじゃねーか!」という批判もよく目にしますが、そんなスカスカをギラギラへと変えてしまったレフンのナルシシズム演出をもっと素直に褒め称えましょうよ。初めて他人の脚本で映画を撮った彼の自己主張の賜物なのですよこれは!
美と暴力の等価
他人の書いたわかりやすい物語を、それを活かしながらいかにして自分の領域へと引きずり込むか。もとの脚本がどんなものだったのかは知る由もありませんが、レフンが選択したのは徹底した言葉の排除でした。多くを語らずに、映像と音によって物語を紡ぐ。
SF的に切り取られた夜景、シンセサウンド、ここぞという場面でオシャンティーにかかる挿入歌。1980年代のハリウッド映画への愛、とりわけマイケル・マンへの熱烈なラブコールが感じられる演出です。スタイリッシュな任侠映画という点でも共通しております。
ヤクザな男が堅気の女と恋におち、彼女のために死地へと臨む。彼女との出会い、ふれあい、恋をひたすらロマンチックに描いたセリフのない間と、男の逃がし屋としての仕事、戦い、本性を超絶バイオレンスに描いた緊張感。このふたつは実のところ等価と言えます。
どちらか一方だけではおそらく陳腐な映画になっていたことでしょう。しかしこの相反するふたつの要素を等価に、全力で、ナルシシズムいっぱいに描くことにより、この『ドライヴ』という映画は尋常ではないほど意識の高い並外れたオシャンティー映画へと仕上がったのです。
それが最も顕著に現れたのが映画史に残る例のエレベーターシーン。光と影、時間を巧みに操りながら、いちばんロマンチックでいちばん暴力的な映像を等価なものとして直列に映し出した、最高のキスと最高の顔面粉砕。なんという美と暴力のコラボレショーン!
サソリの見た夢
しょうもない物語を自意識過剰な演出によって並の意識高い系オシャンティー映画とは一線を画していたこの作品。しかし物語はしょうもないですが、ドラマ的な見ごたえは十二分に備わっていたと思います。それは何かと申しましたら、つまり「サソリとカエル」の話です。
つまりどういうことかと申しますと、この映画の登場人物はみな現状に何かしらの不満、停滞を抱えており、それを変えたいと一時の夢を見るものの、結局は変えようのない自らの性、運命によってはかなくも夢破れ、向こう岸へと渡ることはできなかったというわけです。
新たな人生を歩もうと思ったドライバーも、彼に恋をしたアイリーンも、家族で人生の再出発を願ったスタンダードも、レースに人生をかけようと誓ったシャノンも、マフィアを出し抜こうと狙ったニーノも、堅気の仕事で成功を夢見たバーニーも、みな、夢破れたのです。
向こう岸へ渡れば何かが変わると思っていたのに、結局は自らの性を、歩んできた道を、しがらみを断ち切ることはできず、何も変われない元の木阿弥。負け犬映画愛好家のボクといたしましては、もう辛抱たまらぬ悶絶負け犬地獄にこの身がよじれてちぎれそうになりました。
とりわけ背中にサソリを背負った主人公のドライバーは、変わりたくても変われない、抜け出したくても抜け出せないジレンマを見事に体現しておりましたよね。かかわる者をみな不幸にしていくサソリ。そんな男が一時だけ見た夢のなんとせつないことでしょう。
『ネオン・デーモン』へ向けて
ドライバーを演じたライアン・ゴズリングの魅力も忘れてはいけませんね。クールな仕事ぶりと、アイリーンとベニシオに向けるやさしい笑顔、そして狂気の本性。彼の背中を執拗にとらえたショットの孤独、凄み、やさしさ、悲しさはたまりません。背中で語る男です。
レフンとゴズリングのコンビは、次作の『オンリー・ゴッド』でも継続されるのですけど、超意識高い系オシャンティー映画として絶賛された『ドライヴ』に対して、イメージと暗喩の洪水と化した『オンリー・ゴッド』は意味不明だとして無視されてしまいました。
でもね、どちらがレフンらしい作品かと言ったら圧倒的に『オンリー・ゴッド』のほうなのですよ。そういう意味では、レフンにとって『ドライヴ』とは雇われ仕事に徹したサービス精神満載の娯楽作だったということです。「どこが?」と思う方もおられるかもしれませんが。
さて、公開が待ち遠しい『ネオン・デーモン』はいったいどちらの映画なのでしょうか?観客にやさしくしすぎた『ドライヴ』の反動か、『オンリー・ゴッド』ではちょっとぶっこみすぎていましたので、今回は多少の揺り戻しが発生しているやもしれませんね。
最後にこの映画をオシャンティーに彩っていた名曲の数々をリストアップしておきましたので、お暇な方はどうぞ聴いていってやってください。そして、必ずや『ネオン・デーモン』を観に行ってやってください!
挿入歌リスト
Kavinsky featuring Lovefoxxx/『Nightcall』
College featuring Electric Youth/『A Real Hero』
Riz Ortolani featuring Katyna Ranieri/『Oh My Love』