今回はKeitaさんからの寄稿記事。前に夏のコミックマーケット(通称:夏コミ)に参加したという記事も寄稿して頂いたのですが、昨年末に東京ビッグサイトで開かれた冬コミにも参加されたとのことです。その中で科学系のネタを扱っているサークルがあったので、レビューしましたとのことです。
夏コミの記事はこちら
初めまして、Keitaです。
普段は科学コンテンツコーディネーターとして活動する一方、薄い本の執筆もやっています。
皆さんはコミックマーケットというイベントをご存知ですか?
恐らく多くの方は「同人誌即売会」として認知していることと思います。
それでは、科学系の薄い本が売られていることはご存知でしょうか?
僕は昨年の12/29 ~ 12/31 でコミックマーケット91 (C91)に参加してきました。
現役研究者である以上、科学系の薄い本は絶対に外せません。
当然のように買い漁ります。
そこで、今回は激戦の末に獲得した戦利品の中から、特に面白かったものを紹介したいと思います。
1.カルボニルにも穴 (フッ素カス さん)
まずはこれ。初めから怪しいタイトルの本です。
中身は有機合成化学のテクニック集になっています。
化学反応を起こすうえで避けては通れない「活性化エネルギー」の話から、マニアックな反応経路、純粋な物質を取得するための濃縮過程まで、幅広く扱っています。
僕が学部生時代に使っていた「マクマリー有機化学」を思い出します。
有機合成化学の研究者の苦労が垣間見える一冊です。
そういえば僕の仲間にも合成をしている人間がいましたが、「濃縮で失敗して収率が少ない」と愚痴をこぼしていたのを思い出しました。
著者の方とお話をしましたが、今は既に研究から離れており違う職種でお仕事をされているとのことでした。
一度化学から離れても、コミケという形で再び歩み寄っていくこともあるんですね。
2.C. C. T. T. C. T. T (AirFLUTE さん)
格闘ゲームのコマンド入力のようなタイトルですが、中身はCTスキャンの原理をまとめた真面目な内容です。
真面目ではあるものの、コミケらしさも併せ持つ本です。
詰まる所、美少女キャラが出てきます。
アキバカルチャーと科学ネタの融合を体感できる一冊。この本の注目すべきところは、「高校までの理科で全て理解できる」という部分です。
しかも、ちゃんと体系立てられているのが有り難い。
読んでいて「そうそう、確か教科書に書かれている内容はこんな感じだった」と改めて勉強になりました。
薄い本は個人の趣味全開で書かれていることが多いので、少なからず分かりづらい構成であることもしばしばですが、ちゃんと一般向けに書かれています。
情報量も多過ぎず少な過ぎず、丁度良いボリューム。科学コンテンツを作る身として、参考にしたい1冊でした。
3.けんろん!(KEN-RON! さん)
「圏論」という数学分野を扱う、とにかくレベルが高い本。
「け〇おん!」のようなタイトルと、表紙イラストのゆるさで油断すると火傷をします。
実際、理系の僕も全て目を通しましたが、レベルの高さに頭にトンデモナイ負荷が掛かりました。
同じ科学の研究者であっても、分野が違えば言語も違うというのはこのことでしょうか?
それでも買っていっている人は、意外と多い印象でした。
数学研究者もコミケに来ているようです。
数学(大学レベル以上)を心から愛している人間からすれば、文字通り「ココロオドル」内容です。
こういう圧倒的に数学オタクな内容が通用するのも、コミケ独特なのかもしれません。
4.実験好学 vol.3 (生命科学同女子会 さん)
最先端のバイオを中心に解説する学術本。
「iPS細胞というので同性の間でも子供ができるらしいです」
「VRと斜視」
「BLの遺伝学」
などコミケらしい内容満載です。
今回特に興味深かったのは、とある雑誌に掲載されていた健康情報の元論文を探すという記事でした。
ある情報に対して真偽を問う姿勢は、研究者に必要であると感じさせられる内容です。
この本をオススメする理由としては、現役のバイオ研究者が実際に論文から詳細に調べ上げていること。
文献の中にはあの有名はNature誌も入っています。僕も研究発表の際、これ位熱が入ると良いのですが。
2014年に始まったこのシリーズは2016年の12/31 に第3弾が頒布され、筆者の家の本棚もシリーズが増え潤っております。
表紙のイラストに磨きがかかっていると感じるのは僕だけでしょうか?
とにもかくにも、次回作が楽しみです。今年の夏に新刊を買えることを期待しています。
5.ゆるふわ化学徒 見習いの日常 (Neo Alchemistの見習い さん)
最先端の化学研究をストーリー仕立てで紹介してくれる短編集。
とある理系大学の研究室を舞台に、主人公たちの研究生活が描かれています。
買いに行った時には既刊が売り切れていたため、買ったのは新刊の Vol.4 のみです。
今回の内容は金属同位体の濃縮作業、医薬品合成、クラスター化学でした。
どれもこれも現役研究者が書いているから内容が濃い!
「他人の興味を引きつつ説明するには、ストーリー仕立てが有力」という話を思い出しましたが、実際にそうだったと感じさせてくれた1冊です。
因みに・・・・私も薄い本を出してきました。
調子にのって400部も持ち込んでしまいました。爆余りするかと心配でしたが、完売して本当に良かったです。
売り切れました。3日間、本当に有難うございました❗次回の新刊に向けて頑張ります。 pic.twitter.com/fJhVtzczDx
— Keita Tanaka (@keitasciencecg) December 31, 2016
レポート記事はこちら
如何でしたでしょうか?この記事を通し、科学系薄い本に興味が湧いて頂けると幸いです。
最近ではコミケにも科学系コンテンツが増加傾向にあり、研究発信の場としても力を示し始めています。
コミケには一般層よりも科学技術への関心が高い人々が多く集まり易いため、研究者や開発者の交流の場としても打ってつけです。
これを読んでいるあなたも、ラボの仲間と共に乗り込んでみては?
それでは、またの機会に。
————————————————————————-
(プロフィール) Keita Tanaka所属: SCIGRA / Shojinmeat Project
生体組織工学を専門にする科学コンテンツコーディネーター
3DCGや記事制作を中心に、科学コンテンツ制作・教育事業に携わる。
日本発の純肉(人工培養肉)開発団体Shojinmeat Project ではPR活動も行う。
個人ブログ「科学コンテンツラボ」を運営中
Twitter : @keitasciencecg
ブログ: http://sciencecontents.hatenablog.com/
————————————————————————-
Keitaさんの、そしてコミケのパワーの余韻に浸って欲しいため、今回は多くを語るのはよしておきましょう。でも一つだけ。もしかしたら今後、論文を執筆した時、Natureリジェクト、Scienceリジェクト、Cellリジェクトとなったら、次はコミケだ!なんて時がくるんじゃなかろうか。