「ディーゼルゲート」と呼ばれる自動車の排ガス不正スキャンダルで明るみに出た不正行為を取り締まっていないとして、欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会はドイツと英国に対する法的措置を開始する。
欧州委員会は各国当局の対応にいら立ちを強めている。スキャンダルは昨年、独フォルクスワーゲン(VW)が窒素酸化物(NOx)の排出試験をすり抜けるソフトウエアを使っていた事実の発覚とともに始まった。NOxは呼吸器疾患や肺がんを引き起こす。
内部説明を受けた複数の関係筋によると、欧州委員会は7カ国に対して違反処分の手続きに入る。対象となるのは、調査で得られた証拠に即した対応を取っていない国、あるいは排ガス試験の不正を罰する法律を導入していない国だ。
欧州委員会は、これらの過怠は2007年に制定されたEUの法令に抵触するとしている。EUは排ガス浄化装置の働きを弱めるディフィート・デバイス(無効化装置)の使用を禁じており、各国の規制当局と運輸省がそれを自動車メーカーに順守させる責任を負う。
公式な排ガス試験の際にNOx排出量を実際の路上走行時よりも大幅に減らすソフトは、VWだけでなく他社も使っていたことが判明している。温度が一定の狭い範囲を外れたら、あるいは試験時間を超える時間が経過したら排ガス浄化装置が停止するといった仕組みだ。
独ダイムラーのメルセデス・ベンツ、米ゼネラル・モーターズ(GM)傘下の独オペル、イタリアのフィアットは、エンジンを保護するためにそのような仕組みが必要であり、したがって合法的だと主張している。
■処罰を渋る独にいら立つ欧州委員
欧州委員会は、当該国に対する制裁の第1段階となる「正式通知文書」を送付する。相手国政府が是正に応じなければ、EUの裁判所への起訴に発展する可能性もある。
どのような常習行為が禁止にあたるのか、EUの法令が不明確であるためにVWや他社を処罰することは難しいというドイツの不服に対し、ビエンコフスカ欧州委員(産業担当)は再三いら立ちを示してきた。欧州委員会は、EU規定の「文言と精神」は明確であるとしている。
ビエンコフスカ氏は英国とドイツの当局に対し、各社の排ガス浄化装置の無効化に関する実態について両国の当局が4月に提出した調査結果に基づき、対応策を講じるよう求めている。規制当局も自動車メーカーも(無効化などの)行為がEUの法令に則していると考える理由について、納得できる説明をしていないというのが欧州委員会の見解だ。