編集長は人工知能SmartNews
SmartNewsは、4年前の2012年にサービスを開始した社員約60人のベンチャー企業です。東京都内にあるオフィスを訪ねました。
ニュースを配信するメディアですが、新聞社や出版社にあるような「編集部」は存在しません。最大の特徴は、ネット上にある膨大なニュース記事をすべて自動的に選んで配信している点です。契約している新聞やテレビなど、さまざまなメディアがネット上に配信する記事は1日1000万件を超え、SmartNewsはその中から政治や経済、スポーツなどカテゴリーごとに記事を選んで、載せる仕組みです。記事の執筆や加工は一切、行わないことから、編集部のスタッフは必要ないということです。
記事を選ぶ「編集長」の役割を担っているのは、AI=人工知能です。ネット上の記事の内容を評価して選ぶ作業、カテゴリーごとに分類する作業、いずれも人間は一切行いません。その代わりに、社員の半数以上はエンジニアで、「AI編集長」の開発もこうした社員が行いました。
しかし、AIによる自動化は簡単ではなかったといいます。人間の編集者が勘や経験に基づいて読者の関心を呼びそうな記事や、ニュース性の高い記事を見極めるといういわば職人的な技術を、データサイエンティストと呼ばれる高度な知識をもったエンジニアが地道に繰り返し、AIに学習させて自動化のアルゴリズムを開発したということです。
このAIを開発した西岡悠平プロダクト責任者に話を聞きました。
Q:ニュースメディアに編集部がないことに驚きました。
A:ひと言でいえば、メディアとサイエンスの融合です。AIによって記事の自動配信を行うだけでなく、配信した記事に対してリアルタイムに読者の反応がデータとしてフィードバックされます。そのデータをもとに、配信する記事を入れ替えたり、並び替えたりする作業もAIが自動で行っています。
人間が判断できる量やスピードには限界があります。AIであれば、瞬時に世界中の膨大な情報を処理することができるので、多くの情報を扱うニュースとデータサイエンスは実は相性がいいのです。また、読者が関心を寄せるであろう記事だけを選び出すと、エンタメやゴシップなど記事が偏ってしまいます。偏りがないように人工知能にバランスをもたせることを重視しています。
記事の“反応”に商品価値
取材したもう1社はNewsPicksです。運営しているのは、ユーザベースという社員約180人のベンチャー企業です。
3年前に開始したサービスの特徴は、ソーシャルメディアの仕組みの活用だといいます。記事を配信すると、専門家や著名人などが内容に対するみずからの考えなどのコメントをあわせて投稿。さらに、記事に対して、会員がソーシャルメディアのように意見を書き込むこともできます。
私が取材して書いたニュース記事が取り上げられることもあるのですが、記事に対して寄せられる書き込みを読むといろいろな視点や考えがあることがわかり、勉強になります。こうした書き込みの“反応”もいわば商品価値になっているといいます。
梅田優祐代表に話を聞きました。
Q:ニュースメディアとして目指す姿は何か。
A:経済情報で世界中の人たちの意志決定を支えるプラットフォームを作るのが目標です。ソーシャルメディアの機能も兼ね備えたニュースプラットフォームです。そのためには、魅了ある記事をそろえるだけではなく、内容の深さも重要になってきます。書き込まれた記事に対するコメントがニュースの理解やアイデアの発想を助けてくれるというのがほかのメディアにはない特徴です。
ニュースメディアは「プラットフォームを目指す会社」と「記事の制作者集団」に大きく分かれます。1次情報を集めて記事として正しく届けるプロフェッショナルな会社はなくなることはないですが、今の新聞社やテレビ局のようにそれぞれが独自のプラットフォームを持ち続けようとするのは限界があると思います。
一方、われわれのようにプラットフォームを目指す会社は、スマートフォン上でどのプラットフォームからニュースを読むのか、競争はその主導権争いに移っています。
取材を終えて
スマートフォンの登場によって、ニュース記事の届け方は大きく変わっています。インタビューで印象的だったのが、ニュースはWeb全盛の時代だからこそ、有力なコンテンツとして成長する可能性があるという、共通した思いです。記事の配信方法だけではなく、読者のニュースへの接触方法や受けとり方も変化するなか、ニュースを届ける側もそれに合わせてビジネスモデルを変革することが求められています。
- 経済部
- 野上大輔 記者
- 平成22年入局 横浜市出身
金沢局をへて経済部。
現在 情報通信業界を担当