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マスター:あきのそら
シナリオ形態:ショート
難易度:易しい
参加人数:6人
サポート:0人
リプレイ完成日時:2016/11/14


みんなの思い出

1
1

オープニング



「「「トリックオアマッスル?」」」

 屈強な上半身裸の男たちがダンディな声で同時に囁く。
 その腰には巨大なカボチャで造られたジャックオランタンを履きながら。
 
「ひっ、ヒィッ……!」

 久遠ヶ原学園の校舎の一角のこのなんかその行き止まりに追い詰められた少年はへたり込みながら、ズルズルと後ずさる。
 死を目の前にしたカエルみたいな声を漏らしながら壁に向かって後ずさる。

「く、来るなっ!」

 少年がグッと小さなおててを突き出す。
 そこへひとりの屈強な上半身裸の男が進み出て、ソッと少年の手へ、自らの手を合わせる。
 少年の手はどう伸ばしても男の手のひらほどのしか広がらず、少しでも男が力を込めてしまえばあまりにもむごい事になりかねない程の力量差がありありと見て取れた。

「ふん……」
 
 男は、その事実を確認するのと同時に、少年が絶望するのを見ると満足そうにうなずき。
 
「トリック、オア、マッソォ?」

 ネイティブに、問いかけた。



 ある少年がマッソォなジャックオランタンたちに襲われていたのと同時期。
 ”もう一つの勢力”も動きだしていた。
 
「「「ふにゃ〜お、にゃお、にゃぁ〜?」」」

 女性の猫撫で声な猫鳴き声が重なって響く。

「いっ、いやぁ……っ!」
 
 追い詰められた少女は悲鳴を漏らす。
 自分に向かって迫りくる女性の数はおよそ30人以上。
 15歳になろうかという少女から見たら明らかに年上。
 一回り近く年上の女性たちがこれだけの数をなして四つん這いになり、真っ黒な猫耳、真っ黒な猫てぶくろ、真っ黒な猫目のアイマスク、そして猫が象られた黒い下着姿で迫ってきているのだ。
 そりゃ怖い。
 何が怖いってどういう神経でこんなことしてるかわからないし信じられないのが怖い。
 いい年して何やってるんだ、恥ずかしくないのか、人間として。
 そんな考えをパニックに陥る頭の片隅で考える少女の前へと女性たちを従えるように、一人二足歩行する魔女の格好をした女性が。

「悪戯とワタシの子猫ちゃんになるの……どっちが良いカシラ?」

 魔女の指先が少女の頬へと触れる瞬間。
 真っ黒な猫目のアイマスクの目の部分の端っこに小皺を見つけ、少女は気絶した。




 時はハロウィンを控えた十月も下旬の頃。
 天下の久遠ヶ原学園も渋谷やら原宿と同じく、ハロウィンへ向けてにわかに祭りの予感を漂わせていた。
 既にゾンビやマミー、化け猫や狼人間などなどあらゆる衣装に身を包んだり、用意をしたりと色めきだっている学園の面々。
 その中、学園の一角には一際異彩を放つ集団が二つ。
 
「「「トリック、オア、マッソォ???」」」

 ひとつは、カボチャマッチョ軍団。
 
「「「ふにゃ〜お?」」」

 ひとつは、黒猫魔女軍団。
 彼ら彼女らは10月に入ってからちゃくちゃくと勢力を伸ばし始め、学園の一角を占拠しようとしていた。
 しかし、そんな様子を見てほくそ笑む一人の男と、黒子部隊が。

「ふっふっふ、計画は順調……”審判の日”まであと少し」

 男は比較的安めな寮の一部屋の中、学園の各所に設置した監視カメラの映像をぶどうジュース片手に見守る。

「二つの陣営による強制コスプレ、それに釣られたコスプレの横行、強要……”狂乱の宴”に飲み込まれる学園を救う”救世主”のための舞台……!」

 男は豪快にぶどうジュースを煽る。
 
「げふっ、おふっ!……く、ククッ、争え、憎め……この俺が、げぇーっほげほっ!え゛ぇんっ、ん゛んっ……この俺が!ハロウィンの救世主となるのだ!!!」
「これでチャンネル会員数はうなぎのぼり……収入もガッポガッポ……やがては俺様だけのハーレム帝国を……ふへ、ふへへのへ……!!!!へーっへっへっへ!!!」





 高らかに自称救世主が宣言したのち、黒子たちはワラワラと寮を後にする。
 
「なぁ、どうすんのこれ。ほっとくのはまずくない?」
「いやいや、コスプレ集団が勝手にやってることだぜ?俺らは関係ないだろ」
「どうでもいいけどこの衣装の生地薄いんだよなぁ……おーさむ……」
「っていうかアレだろ?アイツ友達居ないだけだろ?」
「ハロウィンにかこつけて盛り上がりたかったんやなーって」
「俺らもなーんでアイツの黒子なんかやってんだろうなー」
「さーなー」
「とりあえず通報しとく?」
「なんて通報すんだよ」
「……なんか、ほら。自作自演って台無しにしたくなるじゃん?」
「「「わかるーーーー」」」
「しかもネットで生放送するらしいぜ、ハロウィン当日のコスプレ合戦」
「「「台無しにしたいーーーー」」」
「ってなわけでポチっとな」
 
 黒子の一人がポチッと通報を押す。
 こうして今日もまた、斡旋所にはしょーもない依頼が舞い込むのだ。


プレイング

歴戦の戦姫・雫(ja1894)
中等部1年1組 女 
【心情】
「・・・頭が痛いです。何がしたいんでしょうね この通報者達は」」

【行動】
「取り敢えずは、見る人が居なければ良い恰好も何もないでしょうね」
感知を使用してネット配信しようとしている黒幕軍団員を確保
月乃宮さんのコスプレ姿を見せて、自陣営に勧誘する
「良く考えて見て下さい。自称救世主を名乗る変態と学園有数のスタイルを持つ美女、何方を間近で見ていたいですか?」

勧誘に乗ってくれたらそのまま採用、勧誘を断った場合は闘気解放と兜割りを併用して捕縛
機材を奪い、放送をジャックする
書き込みの要望をそのまま聞いて、月乃宮さんに実演して貰う
「ふむ・・・要望する内容がいまいち判りませんが答えた方が視聴率が良くなりそうですね」
「と言う訳で、衣装を肌蹴させて下さい。書き込みによれば見えなければセーフらしいので大丈夫です」

視聴者を奪う目的の為に常識的に考えて配信出来ない要望は受け付けない

※アドリブOK

両刀使い・月乃宮 恋音(jb1221)
高等部3年2組 女 

*行動/事前

・依頼主の[黒子さん]達から[自称救世主]の詳細な情報を確保
・恐らく[誘われて断った方]等も周囲にいる筈なので、その方々を探し出し[マッチポンプ]の証言を得、[レポート]に纏めて[マッソォ勢][魔女勢]に潜入した方々に渡し[説得材料]の追加を行う
・同様に[自称救世主の今回の行動を快く思っていない方]や[楽しんで協力してくれそうな方]を探し、当日の[サクラ]を要請


*行動/当日

・服装:露出度高めの[悪魔っ娘]のコスプレ
・[雫さん指示による撮影]了承
・情報を元に[激突予定場所]に[遊びに来た生徒]のふりをして紛れ込む/その際、[世間話]のふりをして[ここで何か、イベントが予定されているらしい]という噂を[サクラ]の方々と共に流す
・[騒動]が始まったら、[イベントが始まった][巻き込まれたくない方は避難を、楽しみたい方は御一緒に、私のところへどうぞ]と呼び掛ける/この際[サクラ]の方々に[協力]を申し出てもらい扇動
・ある程度[騒ぎ]が進み、[自称救世主(本物)]が出てきた時点で[あの方が首謀者です!]と指さし、皆で捕縛

・捕縛後に[自称救世主の計画]を明かし、[罰]として[自称救世主]を裸に剥き、その様子を[動画]に流す/この時、[他の罰]を予定している方がいた場合や[騙されていた方]が仕返ししたい場合は[順番に適用]

・[両陣営の方々]に今回の事を諭すと同時に、これを機に[被害者同士、少しお話してみる]事を提案/お互いに[お相手]がみつかるかも?


*アド/絡/称号◎

メイド長・一川 夏海(jb6806)
大学部4年6組 男 
アドリブOK

■心境
仮装は楽しむし女を落とす
「最高だな、こりゃ(ニヒヒッ

■目的
魔女軍団の足止めで全員虜に口説き落とす

■仮装
マントを羽織った黒の吸血鬼衣装
結婚指輪は外す

■行動
大空と協力
出来るだけカッコつける

広場西側で魔女軍団を待つ
魔女軍団がやってきたら<タウント>使用
丁寧に挨拶を交わし<紳士的対応>で口説く
「ボンソワール、可愛いマドモアゼル達。この冷える心を一緒に暖めてくれる親切なレディを探してるんだが、もしかして君達かな?(微笑み

「吸血鬼サマは初心な少女の血が大好物なのさ。ちょいと失礼するぜ…
警戒されたら胸元にペンライトを挟んだ女性(大空)を選んで手の甲にキス。その手を引いてマントで包むように抱き寄せ首筋にキス
「さぁ、お次はどの娘を頂こうか…(魔女軍団を見てニヤリ
「女になりたい娘から来るといい。今夜は長くなりそうだからゆっくり一番を決めようじゃないか…
来る者拒まず。命を落とさない程度に優しく受け入れる

生放送を見て黒幕の無力化を確認
「こいつが黒幕か…。みっともねェ事になっちまって…
黒幕の悪事が晒された後は魔女軍団の好きに成敗させてあげる

(魔女軍団をウチのメイド軍団に仕立て上げてやろうとも思ったが、今夜ばかりは好きにやらしてやるか…

悪戯のピエロ・砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)
大学部3年5組 男 
こういうの台無しにしたくなる気持ち、わかるわー

自作自演全てがアウトじゃないけどさ
やっぱ人様に迷惑はダメでしょ
特に女の子(キリッ(女性は老若全て女の子

そんな訳で、僕は黒幕軍団の方に黒子で潜入するね
どうせ中身が誰とか把握してないんでしょ?
人数も日替わりみたいだし


まず『学園各所に設置した監視カメラ』の場所把握と
隙みて映像データ確保しておこうか
盗撮してましたーって証拠になるしね


皆には事前に連絡先聞いておいて、随時黒幕情報流す
広場へ出発時も「今から出るっぽいよ」とリークするね
生放送撮影の黒子のスマホも、出発時からこっそり撮影スタートさせておこうか
他の子が生放送画像でも確認出来るように


広場に到着したら暫く見守り、いざ自称救世主の出番となったら出番横取り
「はいご苦労さん☆ ここから先は僕に任せなよ」
輝く笑顔で[Sエッジ]で張り倒し、脇にぽいちょして[Fワークス]ごうっと

黒子衣装の下から紳士な怪盗コスでマントばさぁと
「皆のハート、盗みに来たよ」
「楽しい気持ちでいっぱいのハートを…盗みたいな?(微笑」
強要は楽しくないよと、軽やかにダンスしながら暗に
黒幕の悪事もバラしとくので好きにしちゃってね☆


最終的にはマッソォと魔女達がくっつけば幸せなんじゃない?
気弱で奥ゆかしいマッソォに、ぐいぐい行く年上お姉様ってピッタリじゃん
互いのボディを讃え合うも良し
腰痛にならない筋肉作りを教えるも良しで
勧めてみよーっと


アドリブ歓迎

朧雪を掴む・藍那湊(jc0170)
高等部3年2組 男 
アドリブOK

マッソォ、魔女軍団も根は悪い人たちでも無さそう
悪いのは焚き付けた黒幕…逆に彼を懲らしめたいところ

事前に黒子さんへ連絡しマッソォ軍団の元へ
「僕も強く逞しい男になりたいと思っている(本音)ので協力したいんです
毎日アスリート並みに筋トレしてもこんな…小柄なままだけれど(体質)
格好良いマッソォをリスペクトしたい!

筋肉に憧れる視点から
マッソォの頼れる力強さを人に知ってもらうため広場の警備を提案
イベントに乗じて暴れる変な集団()も出てくるかもしれない
自分もこうありたいと憧れてくれる人も増えるはず…

マッソォ軍団にイベントで悪巧みをする黒幕について情報を流し
黒幕軍団が出現したら彼らの力も借りて逆に撃退、活躍の場にしてしまおう

「僕も一緒に頑張ります。格好いいところや可能性を色んな人に見せてやりましょうっ

動きは仲間からの情報から読んで事前に訓練
当日、マッソォ軍団とはインカムで情報伝達や指示

HalloweenNight's Stars・大空 彼方(jc2485)
高等部3年91組 女 
メイクセットで20台半ばに見えるよう化ける。
魔女軍団の勧誘に積極的に乗る形で混ざり事前に所持品のケーキで機嫌を取る。

信頼できる恋人持ちで筋肉に興味の無いモブ同級生を、お祭り騒ぎの特等席という名目で事前に巻き込んでおく。
女子寮、男子寮、北自習棟それぞれから広場方向へ向かうマッチョ、黒子集団を確認次第、スマホに連絡してもらい仲間に転送機能で流す。参加賞としてお揃いの栞(所持品)をプレゼント(三セット六枚)

当日、仲間への目印として胸元にペンライトを固定、点灯しておく。
一川夏海と示し合わせ、最初に陥落する女になり魔女軍団の警戒心を解くサクラ役を演じる。
不自然にならないよう、本気で惚れたつもりになり、キスも自然に受け入れる。
「経験豊富」なキャラというロールをチャットで何度も演じているので、十分に騙せるだろう。

仲良しなお姉さま達にも幸せを掴んで欲しい、という方向で魔女軍団を一川さんに惚れさせるよう自然な形で誘導する。

その後、中央広場で記念撮影などの名目で全員を伴って移動。
仲間の動きに合わせる形で、黒幕(一人。黒子は見逃す)を「お姉さま達を利用して好みの女を集め、自分だけモテようとしてるヤツ」と吹き込んで、黒幕を魔女軍団の敵に仕立て上げる。



リプレイ本文

●広場

 久遠ヶ原学園の一角。

 いくつかの寮の中心に設けられた広場は、色とりどりの衣装に身を包んだ学生たちや、きらびやかなイルミネーションに彩られ、陽が沈んだ頃だというのに肌寒さを感じさせないほどの盛り上がりを見せていた。
 
「わう……すごい人……」

 大勢の学生の中、藍那湊(jc0170)が心配そうに呟く。
 タンクトップを着込み、ジャックオランタンをズボン代わりに履いたスタイルの彼だったが、しかしこれといって注目を集めてはいなかった。
 
「心配ないさボーイ」

 なぜならば藍那湊と全く同じ格好をしたマッソォな軍団が彼と共に談笑しているからである。
 
「はいっ」
 
 大胸筋をピクピクいわせながら微笑むマッソォと共に藍那湊は笑い合う。
 そうして広場北側からやってくるという黒幕軍団の登場を警戒していると、広場西側で女性たちの歓声が上がった。
 
●広場西側

「ボンソワール、可愛いマドモアゼル達。この冷える心を一緒に暖めてくれる親切なレディを探してるんだが、もしかして君達かな?」

 黒猫衣装に身を包んだ女性たちの前で、カッコつけながら言い放つ男がいた。
 その男は一川 夏海(jb6806)。
 ≪タウント≫によって放たれた赤いバラのようなオーラは彼の情熱的な赤い髪色を思わせ、超常現象を見慣れた撃退士たちが思わず感嘆の声を漏らしてしまうほど美しく彼を引き立てた。
 
「あぁ、貴方こそ待ち焦がれた理想のお方…」

 胸元にペンライトをさした大空 彼方(jc2485)が、魔女軍団の中から一川の前へと躍り出る。
 
「私の全てを、捧げますわ…」
 
 陶酔しきった様子で一川の手を取り、グイッと身体を寄せると周囲の学生たちからヒューッ!と大きな歓声が上がる。

「吸血鬼サマは初心な少女の血が大好物なのさ」

 ニヤリと笑みを浮かべる一川が、大空の頭をふわりと抱き寄せ。

「ちょいと失礼するぜ…」

 マントで大空の身体を抱き寄せるように包みながら、しかし首筋をはっきりと見せつけるようにして、ゆっくりとその首筋へ顔を埋め……ようとしたとき。
 
「「「ダメーーーーーーッッッ!!!」」」
「ぐっへぇっ!?」
「!!!!??!?!」

 一川を突き飛ばすようにして数人の黒猫女性が大空を引きはがした。
 
「あ、あの、お姉さま達?あれ?なんで?」
「馬鹿っ!彼方ちゃんはまだ若いんだからあんな軽薄そうな男に気安く触らせちゃダメでしょっ!!!」
「そうよそうよ!絶対嫁居るんだから!!絶対そこら中に作ってるんだから!港の嫁さん的なのをとっかえひっかえなんだから!」
「い、いやぁ……そんなことないと思うんだけど、なぁ〜……?」

 事前に魔女軍団と接触し、友好関係を築くことに全力投球で接していた大空の好感度は一部の魔女軍団の面々には大変高く、そして同時に魔女軍団に残っているような女性は大空のような女性を見てしまうと心配で心配で仕方なくなっていた。
 
「いって……く、ない?」
「ん・ふ・ふ♪」
「へ?」

 が、しかし。
 全ての魔女軍団の女性が大空を心配するばかり、なわけもなく。
 突き飛ばされた一川はがっしりと両腕両足、腰、腹、手、頭、肩、もうありとあらゆる部位という部位を魔女軍団に受け止められていた。
 
「「「ふ・にゃ・ニャ?」」」
「は、はは、ニャ?」

 もはやかわいらしさの欠片もないドスの効いた猫真似に若干恐怖を覚えながら一川はなんとか体勢を立て直そうと身をよじるも、一切動かない。これっぽっちも動かない。
 魔女たちの爪が食い込みそうなほどに一川の肉体をガッチリとホールドし、一切動けないことを悟った一川が冷や汗をみせた、その瞬間
 
「「「ッシャアアアッッ!!!男だ男だァァァ!!!」」」
「うぼああああああッ!!!いでっ!!いででっ!!!服!!!衣装!!!俺の衣装がぁぁぁああっっ!!!!」

 ゾンビの波に呑まれる被害者の如く、魔女軍団の波へと呑まれていく一川。
 
「ほらっ!もう良いから上着羽織ってほらっ!」
「もうだめよあんなことして。なあに?依頼?依頼なの?何かあるの?うん?お姉さんに言ってごらん?」
「い、いやぁ、はは、は……」

 ベンチに座らされ黒猫衣装のまんまな女性たちに囲まれて完全に親戚に囲まれる若い子状態になってしまっている大空。
 当初の予定とはかなり違う形ではあるが、二人は見事魔女軍団の足止めに成功していた。


●教室棟の一室

「よぉ〜〜し、よし。広場は予定通り大盛り上がりのようだな」

 広場の北側に設けられた教室棟の一室で、自称救世主は満足そうに広場の方を見て微笑む。
 
「よし行くぞ!混沌に満ちた広場を我の手で救うのだッ!」

 そう高らかに宣言する自称救世主の後ろに続く黒子たち。
 そして、その中には一際身長の高い男……黒子に扮した砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)の姿があった。
 
「へぇ〜、なんかかっこいいねーソレ」
 
 砂原はスマホを構えた撮影係の黒子へとフレンドリーに話しかける。
 
「あーこれ?スタビライザーって手ぶれしないようにするやつなんだけど高かったんだよー」
「えーホントにー?いくらいくら?」
「3万5千」
「ひぇ〜!ちょっと触ってみてもいいかな?」
「良いよ良いよ」
 
 撮影係からスマフォを借りた砂原はこっそり生放送をスタートさせる。
 すると、ポロンッと放送開始の音と共に画面のコメント欄には続々とコメントが並んでいく。

「ん?今なんか押した?」

 撮影係の怪しむような声と共に強引にスマホを奪われてしまう。
 完全に生放送をスタートさせたことがバレる……砂原の、だが。
 
「あー大丈夫だったごめんごめん。これただの放送スタートのボタンだから」

 最初からやる気のない黒子は、大して舞台裏が映ることにどうとも思っておらず。
 
「さぁ!この日のために馬鹿を焚き付け、年増を煽り、監視カメラでせっせこ情報を集め続けてきたのだ!行くぞお前たち!今夜が審判の日である!!」

 べらべらと自分から悪事をしゃべりまくる救世主の姿がばっちりと生放送されるのだった。
 
「これじゃあせっかく盗み出した監視カメラの映像データも無駄かなぁ……ま、いっか♪」

 心底楽しそうな砂原は黒子の面のしたでニコニコしつつ、仲間たちへ「出発するらしいよ〜」と連絡を飛ばすのだった。


●広場北側

『これただの放送スタートのボタンだから』
『――行くぞお前たち!今夜が審判の日である!!』

「………本当に何がしたいんでしょうね、この通報者たちは」

 生放送を見ながら頭を押さえるのは雫(ja1894)。

「あの、本当にこんな格好で皆さん注目してくれますかねぇ……っ」

 雫の隣でもじもじしているのは悪魔っ娘のコスプレをした月乃宮 恋音(jb1221)だった。
 露出度高め、かつ特に上半身に視線を集めるようなきわどい衣装に身を包んだ月乃宮は、既に周囲でスタンバってもらっている『自称救世主の行動を快く思わなかった協力者たち』から熱い視線を集めているのだが、本人はまったくもって自分への視線だとは思っていなかった。
 
「ええ、絶対大丈夫ですよ。とってもかわいらしいですから」
「そ、そんなことないですよぉ……」

 二人が雑談していると、周囲のサクラ以外の人間がざわつき始める。
 見れば、広場のあちこちでもめ事や探し物をお手伝いするスタッフさんのようになっていた藍那湊たちマッソォ軍団が広場北側へと集まってきていた。
 
「なんだなんだ?」
「何かイベントが始まるらしいですよぉ」
「ほう、そうなのか。面白そうだな」
「わいのわいの」
「やいのやいの」

 雫と月乃宮、そして協力者たちのひそひそ話は事情を知らない一般人へも広がっていく。
 そしていよいよ、救世主の登場となった。
 

 
 広場の北側は、ざわざわとした話し声が徐々に小さくなっていく。
 カメラを構えた黒子の前へと、一人の男が静かに躍り出る。
 男は顔を伏せ、黒くたなびくマントを翻し、そして高らかに――。
 
「さぁ!この混と「はーーーいご苦労さんッ★」へぶしっ!」

 ――宙を舞った。

「ここから先は僕に任せてねー☆」
 
 輝く笑顔で雷撃を帯びた一撃を自称救世主の腹へとお見舞いした砂原は、空高くファイアワークスと共に自称救世主を打ち上げる。
 
「行きますよ、今こそ熱い筋肉で人々を救う時ですッ!」

 砂原の一撃に合わせて羽を生やした藍那湊が宙へ飛びつつ蜃気楼で姿を消し、ダイヤモンドダストで自称救世主へ追い打ちをかける。
 自称救世主を絡めとりながら、氷晶は広場を彩るイルミネーションと砂原のファイアワークスに照らされてキラキラと宙で輝く。
 その光景は音と光で広場中の注目を集め、北側を中心に歓声と拍手が巻き起こる。
 
「見つけましたッ!貴方が撮影係ですね、今すぐ月乃宮さんを映しなさい!」

 その隙に人込みを掻き分け黒子達の一人……撮影係を取り押さえた雫は、砂原を中心とした集団から少し離れた位置へと撮影係を引きずり出し、月乃宮をずずいと押し出す。
 
「え、えぇっ!?あの、あの、雫さん、自称救世主の方は捕まえなくてもいいんですかぁ……?」
「藍那湊さんたちマッスルの方々や一川さんたち魔女軍団の方々が連れてきてくれるはずです。さぁ、今は放送を独占してください!ほら!撮影係の貴方!この学園有数のスタイルを持つ美女を撮影せずして何が撮影係ですか!」

 雫の剣幕に押されながらも撮影係が大人しく月乃宮へレンズを向けると一気に閲覧数は伸び、やれ腕をあげてくれだやれ二人で写ってくれだとコメントが殺到する。
 
「皆のハート、盗みに来たよーッ★」
「「「きゃあああっ♪♪」」」

 女性たちは砂原を中心とした北側で大いに盛り上がり。
 
「ふむ……要望の内容がいまいち分かりませんが、ぴょんぴょんしてみせればいいそうですよ、月乃宮さん」
「えとっ、こっ、こうっ、でしょうかっ」
「「「ごくり……っ!!」」」
「………チィッ!」
「えっ、えぇっ!?雫さんっ?」
「なんでもありませんよ、ほら、いいから飛んで、ほら、ぴょんぴょん言うっ!さぁ!ジャンプしてください!もっと!ほらあ!!」
「ひゃっ、ひゃいぃっっ」

 男性たちは月乃宮と雫を中心とした北側のちょっと東側で盛り上がりを見せた。
 と、そんな雫たちの元へ。
 
「へぶちっ」

 マッソォ軍団に捕らえられた自称救世主が放り込まれる。

「マッソォな兄さんたちは、復讐のため筋肉制裁なんてしません。ただし、貴方のような”心の筋肉”の足らない方には”心の筋力トレーニング”が必要なんです」「「「Yes、マッソォ」」」

 そこへ、着地しながら姿を現す藍那湊とマッソォ軍団のマッソォたちと。

「あれあれ!あいつが今回の黒幕ですよ、お姉さまたちっ!」

 大空率いる魔女軍団たちがやってくる。
 
「な、なんで、どうして」

 困惑する自称救世主。

「あっ、あの方が首謀者ですっ!」

 ずびしーっと指さす月乃宮につられて、自称救世主を映すスマホ。
 
「ずいぶんと手間をかけさせてくれたものです、ええ本当に……それではみなさんどうぞ一列にお並びください」
 
 そして、自称救世主に迫るカメラの横で静かに雫が呼びかける。
 
「被告、名前も知らない自称救世主。貴方は自らの欲望のためマッソォな方々とねこねこにゃんにゃんな方々に悪事を働くようけしかけましたね?」
「は、へ?な、なにを根拠に――」
「問答無用ッ!」
 
 バサーッとマントだけ残して衣装をひっぺがされた救世主は、一列に並んだマッソォと魔女軍団の前へと転がされて。
 
「さぁ、準備は良いですね?貴方の心にッ!」
「Yes!」
「筋力を!」
「Yes!」
「トリック!」
「「「オア!!!」」」
「「「マッソォ!!!」」」

 掛け声と共に藍那湊とマッソォ軍団から一発ずつ心のこもった平手打ちを受ける自称救世主。

「あー、終わったらお姉さまたちからのお説教がありますからねぇ〜」

 その様子を後ろで見守る大空と魔女軍団。
 
「えー彼が行った悪事は、まずは許可を得ていない監視カメラによる盗撮……そして様々な団体への不当な勧誘ですね。こちらは、えーとまず”ラッキースケベを合法的に勧誘する会”さんからの報告があったようですね。他には――」
 
 平手打ちされ続ける自称救世主を映すカメラの傍ら、罪状を読み上げていく雫と月乃宮。
 
「へ、へへ、みっともねェことになっちまって……ざまぁねえぜ、ったく」

 未だ広場西側で魔女軍団(一部)に捕まりながらも生放送でその様子を見届ける一川。

「イェーイっ☆」
「「「いぇーーいっ!!!」」」

 そして、広場北側で大盛り上がりする砂原と生徒たち。
 そんなこんなで、ハロウィンは大盛況のうちに幕を閉じたのだった。

●その後
 
 ハロウィンが終わったあと。
 マッソォ軍団と魔女軍団は月乃宮や砂原たちの勧めでお互いにコンタクトをとってみることになっていた。
 
「そうなのよね、アンタのためだけにオシャレ磨いてんじゃねーっつーの!って思うのよねぇ」
「分かります分かります、自分を磨きたいという意思のもと行っている……そこを勘違いしてほしくない気持ち、ありますよね」
「そうなの〜〜〜〜!」

 両陣営はなんだかんだとウマが合い、中には良いパートナーが見つかった人も居るとか居ないとか。
 結局、無事魔女軍団もとい女子会は結果的に解散。
 マッソォ軍団は女性も含めたエクササイズ同好会となり、形を変えて存続。
 マッソォ軍団のハロウィン当日の熱心なボランティア活動と、当日の生放送が大いに話題となり、学園全体でもちょっぴり話題になるほど大きな同好会として再び話題を呼ぶのだった。
 
 ……そして、そんな中には。

「21……22……ひぃ、はひぃ……」
「はいあと8だよー」
「まだまだいけるよ救世主ー」
「うるっ……さいぞっ……このっ……はぁ……くそっ……ぐぎぎっ、ぎぃ……!」

 救世主というあだ名の青年と、無気力な数人からなる仲良しグループがあるとかないんだとかいう話は、大して噂にならないのであった。
 
「ぜったい……いつかっ……かつやく、してやるからなあ……!」
「「がーーんばれー」」


おしまい


依頼結果/参加キャラクター

依頼成功度:大成功面白かった!:2人
MVP一覧
 歴戦の戦姫・雫(ja1894)
 朧雪を掴む・藍那湊(jc0170)
重体一覧
 −

歴戦の戦姫・
雫(ja1894)

中等部1年1組 女 鬼道忍軍
両刀使い・
月乃宮 恋音(jb1221)

高等部3年2組 女 ダアト
メイド長・
一川 夏海(jb6806)

大学部4年6組 男 ディバインナイト
悪戯のピエロ・
砂原・ジェンティアン・竜胆(jb7192)

大学部3年5組 男 ナイトウォーカー
朧雪を掴む・
藍那湊(jc0170)

高等部3年2組 男 アストラルヴァンガード
HalloweenNight's Stars・
大空 彼方(jc2485)

高等部3年91組 女 阿修羅


依頼相談掲示板

【相談卓】とりっくおあ
藍那湊(jc0170)|高等部3年2組|男|アカ
最終発言日時:2016年11月10日 06:19
挨拶表明テーブル
宝井正博(jz0036)|教師0組|男|一般
最終発言日時:2016年11月09日 15:26


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