News Up 「孤児著作物」の利用進むか?

News Up 「孤児著作物」の利用進むか?
デジタル技術の発展で小説や漫画などを電子化したり、アーカイブとして大量の作品をネットで公開したりするなど、著作物を二次利用する機会が増えています。二次利用の際は原則、著作権の権利者に許諾を得る必要がありますが、捜しても権利者が見つからないものも少なくありません。こうした作品は「孤児著作物」と呼ばれ、権利者を捜すのに手間がかかることなどから、いかに利用を進めるかが課題となっています。
著作権制度の啓発など行っている「著作権情報センター」のホームページには、「権利者を捜しています」と題したページがあります。著作権の権利者が見つからないときに、権利者や著作権の相続人を捜すための広告を載せるページです。

去年1月、戦前戦後に活躍し、昭和55年に亡くなったグラフィックデザイナーの山名文夫さんの著書「体験的デザイン史」の著作権の相続人を探す広告が載りました。山名さんは資生堂の広告やパッケージデザインをはじめ、紀ノ国屋のロゴや新潮文庫のブドウのマークを手がけたことで知られています。「体験的デザイン史」の復刻版を計画した出版社によりますと、山名さんの妻や子どもはすでに亡くなり、調査を行っても関係者の連絡先がわからなかったために広告を載せました。

「権利者を捜しています」

著作権制度の啓発など行っている「著作権情報センター」のホームページには、「権利者を捜しています」と題したページがあります。著作権の権利者が見つからないときに、権利者や著作権の相続人を捜すための広告を載せるページです。

去年1月、戦前戦後に活躍し、昭和55年に亡くなったグラフィックデザイナーの山名文夫さんの著書「体験的デザイン史」の著作権の相続人を探す広告が載りました。山名さんは資生堂の広告やパッケージデザインをはじめ、紀ノ国屋のロゴや新潮文庫のブドウのマークを手がけたことで知られています。「体験的デザイン史」の復刻版を計画した出版社によりますと、山名さんの妻や子どもはすでに亡くなり、調査を行っても関係者の連絡先がわからなかったために広告を載せました。

権利者がわからなくても利用できる制度

こうしたとき、権利者の代わりに文化庁が許諾を出すことで、作品を利用できる制度があります。実際、この出版社は去年2月に文化庁に制度の利用を申請し、許諾が出たことから、翌3月に復刻版を出すことができました。

ただ、広告の掲載から2年近くたちましたが、今も相続人は見つかっていません。

制度の利用には高いハードル

出版社は制度を利用して復刻版を出すことができましたが、個人が出版物を電子化したい場合や、図書館などが所蔵する資料をネットで公開したい場合などは、制度の利用のハードルは高いと言わざるをえません。

まず、権利者が見つからないという事実を証明するために「相当の努力」を行う必要があります。相当の努力と認められるには、1:インターネットやデータベースで権利者の名前や住所を検索、2:著作権の管理を行っている団体に照会、3:「著作権情報センター」のホームページに広告を掲載するといった条件をすべてクリアしなければなりません。

また、権利者が現れた場合に支払うべき著作権の使用料を利用者がみずから算出して、補償金として事前に供託することも必要ですが、著作権の知識が少ない個人などはどのような根拠で算出すればよいのかわからないといった声があります。また、権利者が判明することが少なく、その結果、補償金の多くが国庫に入ることになり、権利者のための制度になっていないという指摘もあります。

さらに制度を利用する際には1件当たり、手数料1万3000円と、著作権情報センターのホームページへの広告掲載料として8100円の合計2万1100円がかかります。

制度の利用進まず

このため、制度の利用は進んでいるとは言えません。平成20年までは年間、数件程度の利用でしたが、文化庁は平成21年に著作権法を改正して制度を見直し、件数は増えました。その後も、運用の改善を行っていますが、平成26年の利用は41件にとどまっています。

著作権の9つの管理団体が共同で

こうした実情を踏まえて、日本文藝家協会、日本写真著作権協会、日本音楽著作権協会、日本漫画家協会など著作権の管理を行う9つの団体は、利用者の負担を減らし、制度を利用しやすくしようと、今月から実証実験を始めました。

具体的には、著作権の管理団体が、孤児著作物の利用者が行わなければならなかった権利者捜しと、補償金の金額の算出を代行し、2万1100円かかる手数料も負担します。また、実験では、どのようなニーズが、どの程度あるのかも探ることにしていて、来年2月まで続ける実験の結果によっては4月以降の事業化も検討するということです。

日本写真著作権協会の瀬尾太一常務理事は「誰もが利用できていいはずの作品が著作権の問題で埋もれてしまうのは社会の不幸だと思うので、今回のスキームで、孤児著作物の問題の解決につながれば」と話しています。

故人の作品を電子化する試みも

実験の枠組みを使って、作家が亡くなり、著作権の相続人と連絡が取れない漫画の作品を電子化しようという取り組みも行われます。

「ラブひな」などの作品で知られる漫画家の赤松健さんは日本漫画家協会の理事として、実証実験に関わっています。また、赤松さんはすでに絶版になっている漫画を作者や権利者の許諾を得て電子化し、無料で読めるサイトを運営しています。

今回の実験で赤松さんは、「爆骨少女ギリギリぷりん」などの作品で知られ、2007年に42歳で亡くなった漫画家の柴山薫さんの作品の電子化を検討しています。作品の著作権は本来なら遺族に相続されますが、赤松さんによりますと、柴山さんは独身で、両親もすでに亡くなっているということです。弟がいるという情報がありますが、連絡が取れないということです。

このため、柴山さんの作品は電子化されず、海賊版のサイトに電子化された作品が載るかもしれないというのが現状です。赤松さんのもとには柴山さんのアシスタントや親しい漫画家などから「海賊版でしか読まれないのでは、柴山先生が浮かばれない」という声が寄せられ、赤松さんは実験を通じて電子化ができれば、みずからが運営するサイトで公開することにしています。

「孤児著作物が再び読者に届く手段を」

ネットでは実証実験に期待する書き込みが寄せられています。

「実証実験の成果に期待」
「孤児著作物のスムーズな利用のための大きな前進」
「権利者探しをサポートしてくれる団体があれば心強い」
「孤児著作物も元々は読者に読まれるために書かれたものだと思います。可能なら読者のもとに再び届く手段があっても然るべきだと思います」

ホームページで利用の受け付け

実証実験では、来年1月まで制度の利用を受け付け、利用者に代わって文化庁に制度の利用の申請を行うことにしています。一般からの受け付けは来月からホームページで始めます。

実証実験のホームページはこちら↓
http://jrrc.or.jp/orphanworks/