男性入院患者2人が相次いで中毒死した大口病院=横浜市神奈川区で2016年9月25日、本社ヘリから小川昌宏撮影
横浜市神奈川区の大口病院で男性入院患者2人が相次いで中毒死した事件は、神奈川県警が捜査本部を設置してから23日で1カ月になった。看護師らの勤務態勢が手薄な連休を狙って点滴に医療用消毒液「ヂアミトール」が混入された可能性があり、院内の事情に詳しい人物が関与した疑いが浮上している。だが容疑者の特定につながる物証が乏しいほか、動機面からの絞り込みも難しく、捜査は慎重に進められ長期化の様相も見せている。
「誰でも出入りできる病院で点滴は厳重管理されていなかった。現段階で容疑者を絞り込むには材料が乏しい」。ある捜査関係者はこう話す。県警はこれまでに延べ430人以上から事情を聴いた。
中毒死した2人の点滴は、それぞれ9月18日午前と19日夜に別の看護師が交換。2人とも6〜7時間後に容体が急変した。点滴袋は17日午前に1階薬剤部から4階ナースステーションに搬入され、施錠のない状態で他の入院患者のものと一緒に保管されていた。17日午前から18日午前までの約24時間にヂアミトールが混入された可能性が高いとみられている。
17〜19日は3連休だった。4階の看護師の勤務態勢は、原則として平日は日勤6人・夜勤2人、休日は日勤3人・夜勤2人。休日はナースステーションが無人となる時間帯もあり、県警は混入が可能だったタイミングを精査している。
決め手となる物証が得られるかも鍵だ。県警は廃棄されているのが見つかったヂアミトールの空ボトルや注射器などを押収して鑑定を進めている。しかし指紋が検出されても不特定多数が触れられる状況ならば決定的な物証にはならない。院内に防犯カメラは設置されていなかった。
また、過去にヂアミトールが人体に注入されたケースは少なく、どの程度の量を投与すると死に至るのか明らかでないという。致死量の特定は殺意の立証に必要で、県警は専門家の意見などを交えて分析している。
さらに混入は無差別に行われた疑いもある。ナースステーションに残っていた未使用の点滴約50袋を県警が鑑定したところ、10袋前後のゴム栓部分に注射針を刺したような小さな穴が確認された。死亡した2人以外の患者の名前が書かれた点滴袋も含まれ、複数から界面活性剤の成分が検出された。4階では7月以降に入院患者48人が死亡しており、県警は事件との関連を慎重に調べている。【村上尊一、国本愛】
ことば「入院患者連続中毒死事件」
横浜市神奈川区の大口病院で9月20日、4階病室に入院中の八巻信雄さん(88)が亡くなり、体内から医療用消毒液「ヂアミトール」に含まれる界面活性剤の成分が検出された。その後の捜査で、同月18日に同じ病室で亡くなった西川惣蔵さん(88)からも同じ成分が検出された。2人とも中毒死とされ、県警は何者かが注射器を使って点滴に消毒液を混入したとみて殺人容疑で捜査している。