人は、個人差はありますが、他人の心のうちを推測することができます。
この、「他人の心を推測する」という心の機能が心の理論と呼ばれるものです。
心の理論は、日常的に他人と接することが当たり前の現代社会において、欠かせない機能になっています。
この記事では、心の理論の概要、心の理論が機能しない場合の問題について紹介します。
心の理論とは
心の理論とは、「他人の心を推測する」という心の機能の一つです。
具体的にいうと、他人の感情を察する、目的や意図を見透かす、信念や疑いの心を感じ取る機能のことです。
主な働きは、次のとおりです。
- 他人への心の帰属:他人にも自分と同じように心が宿っているとみなす
- 他人の心理の理解:他人にも自分と同じように心の働きがあることを理解する
- 行動の予測:他人の心理の理解に基づき、他人の言動を予測する
人間関係は、互いに相手の気持ちを推測して自分の言動を調節することで成り立っているので、心の理論は良好な人間関係を築く中心的な役割を担っていると言えます。
心の理論の獲得が遅れると、「相手の気持ちが分からない」状態が続き、自分の欲求を一方的に突き付けたり、相手の気持ちを無視した言動に及んだりして人間関係が悪化し、他人と関わることが苦手になる傾向があります。
心の理論の研究は、「チンパンジーは心の理論を持つか?」という研究結果から始まっており、チンパンジーなどの類人猿も心の理論を持つと考える学者が少なくありません。
心の理論の功績
心の理論は、発達心理学における大きな発見の一つとされています。
発達心理学は、「子供がいつ何ができるようになり、それはどのような過程を経て変化し、発達していくのか。」という、子供の行動の発生と発達が主な研究テーマでした。
ところが、心の理論が提唱されたことで、行動だけではなく、「子供が人の心をいつからどのように理解するようになるのか。」という、子供の心の発達にも目を向けるようになりました。
現在は、行動と心の両方を重視する傾向がありますが、心の理論が提唱されたことがきっかけの一つになったところがあります。
心の理論の獲得をテストする方法(誤信念課題)
心の理論は、運動能力や学力のように目に見えないので、心の理論を持っているかどうかをテストで測ることは難しいと考えられていました。
しかし、世界規模で心の理論の研究が進められる中で、心の理論を客観的に評価する方法が数多く登場してきました。
代表的なテストが、誤信念課題です。
誤信念課題とは、ある人が経験した状況が、その人の不在中に変化した場合に、その人は現在の世界がどんな状況にあると考えているかを質問する課題です。
簡単な物語を話して聞かせたり演じて見せたりし、登場人物考えを推測させるのが一般的です。
誤信念課題=サリーとアン課題(バロンコーエンらが作成した課題)
有名な誤信念課題に「サリーとアン課題」があります。
サリーとアン課題は、イギリスの発達心理学者サイモン・バロン=コーエンらが作成した誤信念課題です。
サリーとアン課題では、次のような例文を読み聞かせて子供に答えさせることで、心の理論があるかどうかを判断します。
- サリーは、ビー玉をバスケットの中に入れて、部屋を出て行きました。
- アンは、サリーが部屋にいない間に、ビー玉をバスケットから箱に移し替えました。
- サリーは、部屋に戻ってきました。
- サリーは、ビー玉を手に取るために、どこを探すでしょう?」
心の理論を獲得している子供の場合は、「サリーは、バスケットの中を探す。(正答)」と答えます。
サリーは、ビー玉をバスケットの中に入れて部屋を出た後のことを知らないため、サリーの立場になって考えれば、「バスケットの中を探す。」という答えになるのです。
一方で、心の理論を獲得していない子供の場合は、「サリーは、箱を探す。(誤答)」と答えます。
サリーの立場に立つことができず、例文を聞いてビー玉が箱の中に移し替えられたという結果に基づいて回答している(サリーの立場ではなく、自分目線で回答している)のです。
誤信念課題の電子化
サリーとアン課題と同じような物語式の課題だけでなく、絵本や紙芝居を用いた課題なども作成されています。
加えて、最近は動画を用いた課題がネット上で公開されるようになり、ネット環境とパソコン、スマホがあれば手軽に心の理論のテストができるようになっています。
心の理論を獲得する時期
子供が心の理論を獲得するのは、生後4歳頃と考えられています。
これは、生後3歳~4歳頃の子供のほとんどが誤信念課題を正答できず、生後4歳~7歳にかけて正答率が上がっていくという研究結果に基づいて推測した年齢です。
しかし、誤信念課題の正答率が上がる理由が、心の理論を獲得したからなのか、論理的思考力が向上したためなのかは分かっておらず、批判も少なからずあるのが現状です。
心の理論と自閉症(発達障害)の関係
自閉症とは、社会性の障害、コミュニケーション能力の障害、創造力の障害を特徴とする発達障害の一つです。
自閉症の子供は、誤信念課題をなかなか正答できない傾向があり、心の理論の獲得が健常な子供よりも遅れると言われています。
ただし、すべての自閉症の子供が誤信念課題を正答できないわけではないことから、「自閉症=心の理論の獲得が遅れる」という考え方に否定的な人も少なくありません。
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まとめ
心の理論は、批判も少なくありませんが、子供の心の発達について一つの考え方を示してくれるものです。
知育の世界でも、心の理論を土台にした知育遊びや知育法がたくさん開発されているので、実践している知育の背景を知っておいても良いのではないでしょうか。