点滴に異物混入殺人事件 “液体に泡立つ異常”が

点滴に異物混入殺人事件 “液体に泡立つ異常”が
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横浜市の病院で点滴に異物が混入され、入院中の88歳の男性が死亡した事件で、点滴の液体が泡立つ異常があったことが警察への取材でわかりました。点滴などからは「界面活性剤」という薬品が検出されていて、警察は何者かが点滴に混入したと見て、殺人の疑いで捜査しています。
この事件は今月20日の午前5時前、横浜市神奈川区にある大口病院で、点滴に異物が混入され、寝たきりの状態で入院していた八巻信雄さん(88)が中毒死の疑いで死亡したもので、警察は、何者かが点滴に異物を混入したと見て殺人の疑いで捜査しています。

これまでの調べで、八巻さんは亡くなるおよそ1時間前の午前4時ごろ、心拍数が急激に低下したことで異常を知らせるアラームが鳴り、看護師が救命措置に駆けつけたことがわかっていますが、その後の調べで、点滴の液体が泡立つ異常があったことが警察への取材でわかりました。

点滴の袋は密閉され、通常、泡などはほとんどないということです。

これまでの調べで、残った点滴や遺体からは洗剤や医薬品などにも含まれる「界面活性剤」という薬品が検出されているということです。
点滴の袋には目立った破損は見られないということで、警察は、どのような方法で点滴に混入したのか詳しい状況を調べています。

大口病院が陳謝

事件が起きた横浜市神奈川区にある大口病院が24日午後、会見を開き、八巻さんの心拍数が急激に低下した1時間ほど前に、看護師が病室を巡回した時には、異変は見られなかったと明らかにしました。

会見には、高橋洋一院長や、看護部長など6人が出席し、最初に高橋院長が「亡くなった八巻さんと遺族の方々に哀悼の意を表します」と述べ、陳謝しました。

病院によりますと、八巻さんが入院していた4階には当時、17人の入院患者がいて、夜勤の看護師2人が2時間おきに血圧や脈を確認するために病室を巡回していたということです。

また、ほかにもオムツの交換などで看護師が病室を出入りしていて、最後に八巻さんの状態を確認したのは、心拍数が急激に低下した1時間ほど前の午前3時ごろで、この時には異変は見られなかったということです。

一方、この病院では、ことし4月から先月にかけてトラブルが相次いで起きていました。
ことし4月には、看護師の制服が切り裂かれる事案が起きたほか、6月には患者のカルテが抜き取られるトラブルがあり、先月には、看護師が飲む飲み物のペットボトルに穴が開けられて異物が混入されたということです。いずれも、病院の4階で起きていました。

専門家「界面活性剤は非常に危険」

化学物質に詳しい東京大学大学院の豊田太郎准教授によりますと、「界面活性剤」は、水と油のように、本来混じり合わないものを混ぜ合わせる際に役立つもので、油汚れを落とすための洗剤や、せっけんなどに使われているということです。

豊田准教授によりますと、これが体内に入れば、細胞の本来の働きを失わせてしまうおそれがあると指摘しています。
豊田准教授は「私たちの体の中のタンパク質や細胞膜には、脂の性質がある。界面活性剤が体内に入れば、たとえ少量でもタンパク質の形が崩れ、通常の機能や働きができなくなるおそれがある。また、その量が多くなれば、細胞の膜に穴が開くことも考えられ、毒性という観点からすると非常に危険性がある」と指摘しています。

横浜市にトラブル知らせるメール相次ぐ

横浜市によりますと、事件が起きた大口病院をめぐっては、ことし7月5日、「看護師のエプロンが切り裂かれる事案と、患者のカルテが紛失する事案が発生した」という内容のメールが市に届きました。

さらに先月12日には、「病棟で漂白剤らしきものが飲み物に混入し、それを飲んだ看護師の唇がただれた」という内容のメールが寄せられました。

横浜市は今月2日に行われた定期的な立ち入り検査の際に、病院の担当者に聞き取りを行い、今後、再発防止に努めるよう求めたということです。

さらに事件が起きた今月20日の昼前には、「点滴に漂白剤らしきものが混入された事件が発生したようです。今回は警察に通報するようです」などという内容のメールが届きました。

メールを確認した職員は上司である医療安全課長に報告しましたが、課長はメールの文面が警察に通報するという内容になっていたことから、市として対応する必要はないと判断し、警察や病院に確認はしなかったということです。

メールを送った男性は

一連のメールを横浜市に送った男性が24日、NHKの取材に応じました。

家族が大口病院に勤務しているという男性は通報した理由について、「家族の職場で、また、多くの患者が入院している病院でトラブルがエスカレートしていくことが心配だったため、リスクを覚悟のうえで連絡しました」と話していました。

男性によりますと、横浜市からは先月31日に「いただいた情報をもとに対応を行う可能性がある」などといったメールの返信がありましたが、詳しい内容の聴き取りや、その後の説明などはなかったということです。

男性は「今回の事件が防げたかどうかはわかりませんが、横浜市が警察と連携して、しっかりと対応していれば、結果は違ったのではないかと思います。行政として十分責任を果たしたのか、検証してほしいと思います」と話していました。

事件発覚までのいきさつ

死亡した横浜市港北区の八巻信雄さんは、今月14日から横浜市神奈川区にある大口病院に入院していました。八巻さんは、寝たきりの状態だったということです。

今月19日の午後10時ごろ、看護師が栄養分を補給するため、八巻さんの点滴を取り替えました。

20日午前3時ごろからおよそ30分間、看護師が八巻さんの血圧をチェックするなどしたということです。この際、異常は見られなかったということです。そして、午前4時ごろ、八巻さんの心拍数が急激に低下し、異常を知らせるアラームが鳴りました。

これに看護師が気付き、八巻さんの救命措置に当たりましたが、午前4時55分、死亡が確認されました。

午前10時40分ごろ、病院は「点滴に異物が混入された可能性がある」と警察に通報しました。
警察が、点滴に残っていた成分や、遺体の状況を詳しく調べた結果、死因は中毒死の疑いがあることがわかり、23日、特別捜査本部を設置し、殺人の疑いで捜査を始めました。

この病院では、八巻さんが亡くなる前に今月18日以降、入院していた男女3人が死亡していました。いずれも八巻さんと同じ4階に入院していました。

3人のうち、80代の男性2人は今月18日に、90代の女性は八巻さんが亡くなる2時間ほど前に亡くなっていました。
3人は病死と診断されましたが、警察は改めて遺体の状況を詳しく調べています。