JRが運行する豊肥線の代替バス。利用者は大半が通学者で、一般客の姿はほとんどない=9日、阿蘇市の宮地駅前
熊本地震後、列車が停車したままの赤水駅。線路は赤茶色にさび、雑草が生い茂る=6日、阿蘇市
豊肥線は4月16日の地震による同村立野の土砂崩れで、並行する国道57号とともに崩落。宮地(阿蘇市)-肥後大津(大津町)間は不通が続く。このため、JR九州熊本支社は代替バスの運行を5月に始めた。
だが、被災する前に宮地発の列車が1日15本あったのが、代替バスは平日でも8本にとどまる。それも高校生など通学者が利用する朝夕中心のダイヤ編成で、日曜は走らない。
このため、阿蘇市で飲食店を営む吉田美代子さん(75)は「バスの時間帯が限られ、気軽に熊本市方面へ買い物に行けなくなった」と嘆く。また、同市の眼科に列車で通院していた阿蘇市の松下松子さん(75)は「地震の後は受診していない。高齢者にも大切な足なのに」と声を落とす。
豊肥線は甚大な被害が出た2012年の九州北部豪雨でも不通になった。その際、宮地-肥後大津間で列車のダイヤに合わせた形で臨時バスが走った。それだけに、宮地駅近くの主婦(50)は「なぜ今回は減らしたのか」と首をひねる。
JR九州熊本支社は「地震で国道57号も寸断した。時間がかかる迂回[うかい]路を経由するため4年前と事情が違う」と説明する。その上で「ダイヤには一般客の要望もできる限り反映させているが、一義的には県教委の要請がある」と弁明。実際、通学の足として県の補助金を受けている。
九州運輸局によると、JRは不通となった列車の代替策を確保する法的義務はない。それでも学生以外が置き去りになっているだけに、ある阿蘇市議は「公共交通機関としていかがなものか」と批判する。
線路が傷んだままの同市の赤水-阿蘇間で復旧工事が始まる気配がないのも、地元の空気を重くする。同支社は「全線復旧の見通しは立っていない」と話し、阿蘇駅より西側は雑草が伸び放題だ。
こうした現状に、県内の交通関係の労組などでつくる「国民の足を守る県民会議」会長の坂本正熊本学園大教授は苦言を呈す。「地域住民の生活を安定させるのが公共機関の務め。豊肥線は観光や経済面でも阿蘇を支えてきた。阿蘇の5~10年先を見据え、早期復旧させるかどうか、その覚悟を問われている」(上杉勇太)
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