読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ホーサクっ

ホッと一息、サクッと読める400字

『コンビニ人間』が面白かった5つのこと。主人公の笑える10のこと

f:id:hoosaku:20160821181800j:plain

【あらすじ】

36歳未婚女性、古倉恵子。

大学卒業後も就職せず、コンビニのアルバイトは18年目。これまで彼氏なし。日々食べるのはコンビニ食。夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は恥ずかしいと突きつけられるが・・・・・・。

【はじめに】

僕が『コンビニ人間』を買ったのは芥川賞を取ったからではない。毎日、コンビニを利用している身からしてコンビニを舞台にした小説はどんな風に描かれるのだろうと思ったのだ。そう、コンビニ『人間』という視点を持たずに買ってしまった。これはコンビニではなく『人間』を描いた小説だと気づいた時にはページをめくる手は止まらなくなっていた。これは現在を生きる我々を描いた紛れもない傑作である。その理由を5つの視点で伝えていきたい。

1・文章の疾走感がたまらない

 文章のリズム感が気持ちよく2時間で一気に読んでしまった。

ーコンビニエンスストアは、音で満ちているー という冒頭の一文から次の章まで読者は、コンビニの朝を主人公『恵子』の行動とともに迎える。まるで自分がコンビニの早朝アルバイトをまかされているかのような錯覚におちいるのである。それは物語の中で恵子の言動により不気味に変調しながらも、だれることなく続き、ラストは爽快な読後感が得られる。

2・主人公が微妙に変

感情のないマニュアル人間。自我というものがなく人から言われたことをそのまましてしまう。職場で命じられた役割を完璧に遂行することが家族と過ごすより大事というようなことは少なからず誰にでもあるだろう。他人事と笑って済ませないられない歪さが恵子の魅力である。精神疾患とレッテルを貼ってしまうのは簡単。会社の役割を演じるというのは誰にでもあるがそれを極端な人格にまでしてしまったのが恵子であろう。

3・新社会人マニュアルとして使える。

恵子はアルバイトではあるが、社会人としてはとても優秀である。コンビニという小さな社会に限定されるが、パートやアルバイトといった判断業務をしない人たちにとっては主人公『恵子』のマニュアル的な生き方はある意味、とても模範的とも言えるかもしれない。

4・登場人物が現代的。

恵子(主人公)=自我がなく現代とうまく折り合えないが、マニュアル的な行動をすることで社会との接点を見いだそうとしている。

白羽(彼氏?)=自己中心的で労せず成功したいバカ男。金にがめつく恵子に寄生することで社会との接点を見いだそうとしている。

5・主人公『恵子』の笑える言動

最初はサイコっぽい言動と思い怖かったが、恵子の思考が分かってくると共感することができてだんだんと笑えてくる。中でも面白かったエピソードを10個あげてみた。

①幼少期、死んだ小鳥を焼き鳥にして食べようと言う。

②取っ組み合いをしている男子を止めて!と言われ、スコップで殴る。

③ヒステリーを起こした女教師のスカートとパンツを勢いよく下ろす。

④学生時代は「黙る」ことに専念していて友達が殆どいなかった。

⑤普通の人を演じるために会話やファッションを吸収し、成長する。

⑥他人と同じ表情を模倣することでその場を和ませる。

⑦体が弱いと言いながら、長時間立ち仕事のコンビニで働いている。

⑧コンビニで売られているものだけを食べて18年間生きてきた。

⑨白羽がコンビニ店長を「底辺の社畜!」と言い放つのを平然と聞く。

⑩他人から普通に見られるために白羽と結婚してもいいと言う。

【まとめ】

 僕がこの小説を面白いと思った理由は概ね上記5つの通りであるが、白羽と恵子のやりとりの中で特に印象深かった会話があるので少し長くなるが書いておこうと思う。35年間女性とつき合ったこともなく働いたこともない白羽が「金持ちの女性と結婚してネット企業で成功して見返したい」と言う。それに対する恵子のセリフと心理描写。

P84「え、自分の人生に干渉してくる人たちを嫌っているのに、わざわざ、その人たちに文句を言われないために生き方を選択するんですか?」それは結局、世界を全面的に受容することなのでは、と不思議に思った。

白羽も恵子も形は違ってもこの世界を全面的に受容することを避けることができなかった。この小説で言いたかったのは『この世界を受容することは難しいけれど、受容の仕方はさまざまで自由でいいんだよ』ということだと、僕は受け取った。