【宮下瞳騎手インタビュー】国内最多626勝の女性騎手が出産を経て17日に名古屋競馬で復帰!
女性騎手として国内最多の626勝を挙げた宮下瞳騎手(39)=名古屋・竹口厩舎=が、17日の名古屋競馬での現役復帰を前に、スポーツ報知の単独インタビューに応じた。11年に引退後、2人の男児を出産。妻として家族を支えてきたが、昨年10月に名古屋競馬で厩務員として復帰し、今年の騎手免許試験に合格した。ママさんジョッキーとして戻ることを決めた理由や、競馬への思いなどを聞いた。(聞き手・内尾 篤嗣)
―17日に現役復帰します。今はどんな心境ですか。
「引退前、韓国の釜山で乗っていたんですが、そこで騎手を全うした感じがあり悔いなく引退できました。でも、まさかこんな日が来るとは。ワクワク感というか早く乗りたい気持ちです。95年のデビュー時と違って緊張、焦りはないです」
―国内では浦和の牛房(ごぼう)由美子元騎手(現厩務員)に続いて2人目のママさんジョッキーです。優心くん(4歳)、健心くん(1歳)の2人の息子を出産後、復帰を決めた理由は。
「昨夏、私が馬に乗っている写真を息子(優心くん)が見て『これ誰?』と言ってきて。『ママだよ。お馬さんに乗っていたんだよ』と言うと『優心も見てみたい。ママが走ったら応援してあげるよ』と言ってくれました。そこから復帰を真剣に考え始めました」
―夫の小山(おやま)騎手をはじめ、周囲の反応はどうでしたか。
「周りの方はみんな驚いていました。最初に旦那に相談した時もビックリしていました。旦那は私のことを一番分かってくれていて、一番頼れる存在です。『子供がいるからやめた方がいい』と言うと思っていたのですが『いいんじゃない。頑張って』と言ってくれ、逆に私が驚きました」
―師匠の竹口勝利調教師のもとで再デビューします。
「竹口先生も最初はびっくりされていました。年齢(72歳)的なことがあって、引退を考えておられたのですが、私が『復帰する』と言ったら『それなら、もうちょっと頑張ってみようかな』と言ってくださって。本当に感謝しています」
―復帰に向け、昨年11月に厩務員登録をしました。
「厩務員をするには、私が仕事に行っている間、子供たちを見てくれる人が必要でした。もちろん旦那は攻め馬(調教)があります。父(宮下健二さん)に相談すると『分かった』と言って、鹿児島の実家から来てくれました。今、一緒に暮らしていて仕事の間、子供たちを見てくれています。父のサポートがなければ復帰は実現していませんでした」
―厩務員として再び馬に携わって、どのように感じましたか。
「中学を卒業して最初に厩舎に来た時はカイバ付けをやっていましたが、騎手になってからは(カイバ付けが)減っていて、久しぶりにやりました。人間の子供もですが、愛情を注いだら、その分だけ、馬も返してくれます。カイバを付けに行った時、私の顔を見ると鳴いてくれます。改めて馬と近くで接して、自分は馬を好きだなということを再認識しました」
―騎手免許の試験で何が大変でしたか。
「学科が大変でした。ずっと遠ざかっていて、ゼロから覚え直さないといけませんでしたから。久しぶりに攻め馬に乗ったときは全身、筋肉痛になりました。引退後は出産、育児に専念して、ほとんど馬と携わってこなかったけど、乗ってみてすごく楽しく、気持ち良かったですね」
―どのような体づくりをされたのですか。
「まずランニングを始めました。妊娠して騎手時代の筋肉が脂肪に変わっていたので、それを筋肉に戻すためにバランスボールを使った体幹トレーニングを始めました。試験に飛び乗りがあるのですが、最初は全然届きませんでした。でも体の芯を鍛えたことで、できるようになりました」
―今春、JRAから藤田菜七子がデビューしました。
「すごくいいことで、どんどん女性騎手に活躍してほしいです。藤田騎手はプレッシャーに負けず落ち着いて乗っているから、すごいと思います。若い子が頑張っているのは刺激になります。まだ名古屋に来ていないので早く会いたいです」
―登録名は本名の小山ではなく、どうして旧姓の宮下でされたのですか。
「宮下瞳で自分自身、みなさんに覚えていただいたので、その名前と勝負服のカラーでまた行きたいと思いました。勝負服は兄(兵庫所属の宮下康一騎手)と同じ模様(胴紫・桃一文字、袖白)で、カラーは自分の好きな色を入れたものです」
―宮下康一騎手は8月3日に腰痛から3か月ぶりに復帰。その日に勝ちました。
「勝てて本当によかったです。兄も再デビュー(14年に11年ぶりに現役復帰)するまではいろいろ大変だったので、当時のことなどを教えてもらいました。兄が名古屋に所属していた時、よく一緒に乗っていたので、また同じレースで乗れたらいいですね」
―息子さんは将来、騎手を目指してほしいですか。
「母親としては騎手になってほしいけど、やっぱりケガがあるので微妙です。でも、子供は本当に馬が大好き。厩舎に連れて行って、飼っているポニーに乗せて散歩させたりしています。上の子(優心くん)は全然、怖がらないですよ。でも、下の子(健心くん)は怖がります。自分から騎手になってとは言えないので、子供が『騎手になりたい』と言ったら止めることはなく、できる限りサポートをしてあげたいと思っています」
―今後、どんな騎手生活を歩みたいですか。
「一鞍一鞍を大事に乗って、自分の記録をひとつひとつ更新できたらいいなと思います。私にとって競馬はかけがえのないものというか、なくてはならないもの。もう一回、頑張って取った免許なので何歳までというのはなく、乗れる限りは乗り続けたいです」
【17日の騎乗馬】
2R(3)ダンスダンスダンス
3R(5)トナンナースナオミ
6R(7)ソラニサクハナ
【宮下瞳(みやした・ひとみ)アラカルト】
★生まれとサイズ 本名・小山瞳。1977年5月31日、鹿児島県生まれ。39歳。152センチ、46キロ。血液型A。05年に名古屋競馬所属の小山信行騎手と結婚。子供は男児2人。
★生い立ち 小さい頃、鹿児島の実家で隣に住む祖父(大久清春さん)が馬を飼っていた。「生まれたときには馬が身近で自然に乗ったり世話をしたりしていました」。のちに、兄の宮下康一(現兵庫所属)が名古屋競馬で騎手になったこともあり、自身も同じ道を歩むことを決めた。
★騎手歴 1995年10月22日に名古屋・竹口勝利厩舎所属でデビュー。同24日の名古屋6R(ショウワミラクル)で初勝利。09年から韓国で短期免許を取得して1年間、騎乗。帰国後は荒尾、金沢、名古屋でプレー。11年に再び韓国に渡り、その年の8月に現役を引退した。地方通算7795戦626勝。JRA2戦0勝。韓国662戦56勝。06年には夫婦で1着同着がある。
★会ってみたい人 ニュージーランドの女性騎手、リサ・オールプレス。「お互い子供がいて騎手をしているので、体力面や子供たちの話をしてみたいです」
JRA・藤田菜七子騎手「宮下さんは、同じ女性として、憧れて、尊敬している騎手のひとりです。同じママさん騎手として活躍されているリサ・オールプレス騎手のような存在ですね。結婚、出産を経て、もう一度騎手として戦うためにターフに戻ってくる。すごいことですよね。女性騎手として国内最多勝記録の626勝も想像できないくらいすごい数字だと思います。いつか私も、その数字に並んで超えられるように、頑張っていきたいなって思います。直接お会いしてお話したことはないのですが、ぜひ同じレースに乗ってみたいと思います。(仲の良い)木之前葵騎手も含めて3人で同じレースなんてことが実現したら、すごく楽しそうですよね」
◆名古屋競馬 愛知県名古屋市港区で行われている地方競馬。1949年6月から開催された。1周1100メートルの右回りダートコースで、直線距離194メートルは現存する競馬場の中で日本一短い直線となっている。交流重賞は、かきつばた記念(G3)、名古屋グランプリ(G2)、名古屋大賞典(G3)。