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2016/08/08new

「象徴天皇のあり方についての天皇陛下のお考え」を憂慮する

Tweet ThisSend to Facebook | by suzumura

本日15時、今上陛下が象徴天皇のあり方に関して所感を公表されました1


今上陛下が国事行為以外に自らのお考えを国民に向けて発せられるのは、2011年3月16日(水)に東北地方太平洋沖地震とその後の原子力発電所の災害などを含む東日本大震災に際して所感を示されて以来、5年ぶり2回目となります。


今回のおことばの中で、今上陛下は「現行の皇室制度に具体的に触れることは控えながら」という前提を示されつつ、「社会の高齢化が進む中、天皇もまた高齢となった場合、どのような在り方が望ましいか」について自らのお考えを開陳されました。


すなわち、「伝統の継承者として、これを守り続ける責任に深く思いを致し、更に日々新たになる日本と世界の中にあって、日本の皇室が、いかに伝統を現代に生かし、いきいきとして社会に内在し、人々の期待に応えていくかを考えつつ、今日に至って」いるものの、「次第に進む身体の衰えを考慮する時、これまでのように、全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが、難しくなるのではないかと案じ」、「天皇が健康を損ない、深刻な状態に立ち至った場合、これまでにも見られたように、社会が停滞し、国民の暮らしにも様々な影響が及ぶことが懸念され」るため、「象徴天皇の務めが常に途切れることなく、安定的に続いていくことをひとえに念じ」1ているというのが、今上陛下のお気持ちです。


確かに、「社会の高齢化が進む中、天皇もまた高齢となった場合、どのような在り方が望ましいか」という視点は、現在の日本の社会のあり方を考えれば、議論の対象となってしかるべき事項といえます。


また、今上陛下が皇太子時代も含め、絶えず「国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし」てこられたことは、広く国民の知るところであり、そのような従来の態度を維持することが難しくなれば、今上陛下が国民統合の象徴としての天皇の位に対して自ら求められる務めを十分に果たし得なくなると懸念されることも、当然のことでしょう。


さらに、本欄も、健康問題を抱える今上陛下のお立場を慮り、ご意向が実現されることを否定するものではありません。


しかし、日本国憲法と皇室典範は天皇が自らの務めを十分に果たせない場合に摂政を設けることを明記していますから、もし今上陛下が「天皇が十分にその立場に求められる務めを果たせぬまま、生涯の終わりに至るまで天皇であり続けることに変わりは」ないことを憂慮するのであれば、そのような考えは、たとえ自らが昭和天皇の折衝を務めた際に実感したものであるとしても、私情に基づくものであることは明らかです。


また、根拠となる規程がない中で譲位の意向を示唆する、あるいは天皇のあり方に今上陛下自らが考えを示すことは、すでに本欄の指摘する通り、たとえいかなる動機や背景があるにせよ、法の定めに従い国民統合の象徴として国事に携わられた今上陛下のこれまでの取り組みを否定することにつながりかねません2


今後、主な議論の焦点は以下の5項目に集約されるでしょう。

 

  1. 日本国憲法と皇室典範に定められた摂政を設けず、規程外の「生前退位」を認めてよいのか。
  2. 世論調査の結果は8割以上が「生前退位」を肯定しており、国民の雰囲気としては「生前退位」を容認していることが推測されるものの、「国民の雰囲気」が果たして「生前退位」を認める根拠となりうるのか。
  3. 皇室典範の改正せず、「生前退位」を今上陛下のみの特別な措置として適用することは可能か。
  4. 皇室典範を改正する場合、退位に関する規定を設けるだけでよいのか。「女性天皇」や「女系天皇」、さらに1947(昭和22)年に皇籍を離れた旧皇族を復籍させることも検討すべきか否か。
  5. 皇室典範を改正する場合、改正の正当性をどのように担保するのか。


今後、関係者は「生前退位」の問題をこれからの日本における天皇制のあり方だけでなく、国民と天皇の関係、あるいは皇室内の諸課題とも深く関わる問題として捉え、拙速な議論を避け、慎重で入念な検討を重ねることが求められます。


1 象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば. 宮内庁, 2016年8月8日, http://www.kunaicho.go.jp/page/okotoba/detail/12 (2016年8月8日閲覧).
2 鈴村裕輔, 「天皇陛下の生前退位の意向」を深く憂慮する. 2016年7月14日, https://researchmap.jp/jo1tlgl55-18602/#_18602.
3 日本国憲法第五条.


<Executive Summary>
What Shall We Examine Emperor's Wish to Abdicate? (Yusuke Suzumura)


His Majesty the Emperor of Japan showed his hidden intention to abdicate the throne on 8th August 2016. We fear His Majesty's intention deeply, since it is not adequate for the Emperor who has been obeyed the regulations of the Constitution of Japan and other laws.


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