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米スペースX社のロケット「ファルコン9」が打ち上げられた8分後、1段目ロケットがケープカナベラル空軍基地の着陸ゾーンに戻ってきた。(PHOTOGRAPH BY JOHN KRAUS)

16歳の少年が撮ったドラマチックなロケット打ち上げ写真

2016.08.10
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 ジョン・クラウス少年は7月18日、フロリダのビーチで砂まみれになって、空を見つめて過ごした。

 それだけ聞くと、ほかの10代の若者たちと同じだが、違っていたのは彼の活動時間が深夜だったことだ。

 クラウス少年の目標は、深夜0時45分にスタートするファルコン9ロケットの打ち上げと着陸を撮影すること。その日は、型破りな航空宇宙企業である米スペースX社が、再利用可能なロケットを宇宙に送り、ケープカナベラル空軍基地の発射台に戻ってこさせるミッションが行われていた。陸上への着陸は2度目の試みだ。クラウス少年は、宇宙へと飛びたち、再び地球に下りてくるロケットが描く軌跡を写真に収めたいと思っていた。

機密衛星NROL-37を搭載したデルタIVヘビーロケットの打ち上げ。2016年6月11日に撮影。(PHOTOGRAPH BY JOHN KRAUS)
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 少年は16歳。ケープカナベラルに近い米フロリダ州サテライト・ビーチに住んでいる。その日は地元周辺を車で回りながら、1時間かけて撮影のためのロケーションを探した。「発射台から離れて南に行きすぎていたら、打ち上げと着陸の軌跡が近すぎて、見分けがつきにくくなっていたと思います。逆に近すぎたら、軌跡の全体を画角に収めることができなかったでしょう」

国際宇宙ステーションへの貨物船を打ち上げるアトラスVロケット。長時間露光で撮影。(PHOTOGRAPH BY JOHN KRAUS)
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 やがてクラウス少年は、撮影によさそうな場所を見つけた。その夜、発射時刻の1時間前にビーチへ戻り、Nikon D7100をセットした。レンズの曇りを取り、焦点を合わせ、あとは発射を待つのみ。

 一連の行動は、熟練のプロを彷彿させる。しかし、秋に高校2年生になる彼が、「基本的に思い付きで」写真を始めたのはつい昨年のこと。ケータイのカメラに飽きた彼は、誕生日とクリスマスにもらったお金の残りを、デジタル一眼レフにつぎ込んだ。彼が住むのは「スペース・コースト」とも呼ばれる宇宙センター近隣エリアなので、ロケットは身近な存在だ。新しいカメラを手にした少年が、打ち上げを撮ろうと思うまでに時間はかからなかった。彼は今や、「AmericaSpace.com」で最年少の打ち上げフォトグラファーとして定評があり、打ち上げのたびに取材に出かけている。

衛星NROL-37を搭載したデルタIVヘビーロケットの打ち上げ。2016年6月11日、音を検知して自動撮影するカメラで撮影した。カメラはロケットからわずか数百メートルの位置にあったが無事だった。(PHOTOGRAPH BY JOHN KRAUS)
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 この夜のスペースX社の打ち上げは、低コストで手軽な宇宙飛行を実現する一連の取り組みのひとつ。少年は、その素晴らしい瞬間を写真に収めるチャンスを得たのだ。

 クラウス少年は、ファルコン9が空を照らしている間、3枚の写真を長時間露光で撮影した。それらを写真編集ソフトのLightroomで編集し、Photoshopを使って3枚の写真を重ね合わせた。「実は、ビーチでタオルの上に寝転がって写真を編集しました。暗くてよく見えなかったので、砂まみれになっちゃったんですけどね。最後の露光が終わったのが午前0時53分、処理を終えて写真をオンラインに上げたのが、午前1時前でした」

 その写真では、輝くロケットの軌跡が、大西洋上に立ち込める雲を突き抜けている。まるで、宇宙飛行の進歩を表しているかのようだ。

2015年12月9日に初めて成功したファルコン9による陸上着陸。長時間露光で撮影した写真を合成。(PHOTOGRAPH BY JOHN KRAUS)
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 ナショナル ジオグラフィックのデジタル写真副ディレクターを務めるパトリック・ウィティ氏は、少年の写真についてこう述べた。「ジョンが撮ったファルコン打ち上げ、そして着陸の写真を初めて見たのはTwitterです。私はすぐに心を奪われました。たった1枚の写真に、空で起こっていることの複雑さと素晴らしさが美しく描かれていたのです。それを撮ったのが16歳の少年だと知って、さらに感動しました」

 クラウス少年はプロの写真家を目指しているわけではないが、結果には満足している。「ここ数カ月、ずっとこの写真のことを考えていました。その出来栄えに、とても満足しています」

衛星モレロス3を打ち上げるアトラスV。長時間露光で撮影。ユナイテッド・ローンチ・アライアンス社による100度目の打ち上げだった。
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参考記事:「ロケットの垂直着陸に成功、ファルコン9で2例目」

文=Nadia Drake/訳=堀込泰三

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