7月28日のコラム「サムスンのBYD出資は中国市場成功への布石?」では、中国BYD(比亜迪)に出資を決めたサムスングループの置かれている状況と今後の展望について執筆した。そこには、同社が中国政府から車載用電池のメーカーとして指定されていない問題に絡んだリスクを論じた。この施策には、明らかにサムスングループの焦りが見え隠れする。
サムスングループには追い打ちをかけるような話であるが、台湾紙「旺報」7月28日付の記事によると、上海では新エネルギー車の累計販売台数が増えるにつれ、補助金を減額する制度を導入しているとのこと。それまで、新エネルギー車の販売を順調に伸ばしてきたBYDだが、この制度によってエコカーに対する補助金が減額されており、上海での販売が急減している模様と報じている。
上海ではBYDの新エネルギー車に対しての補助金が1台当たり2万元(1元=約15.4円)減額されたという。これで受給できる補助金は1台当たり1万元になったとのこと。現在、販売累計4万台まで迫っているが、4万台に達すると、さらに5000元減額するという。
そして上海では、累計6万台になった時点で補助金の支給を打ち切るという。同紙によると、この補助金減額の影響で、上海におけるBYDの新エネルギー車販売は急減し、16年上半期は4000台の販売にとどまっているという。市場シェアで首位だったBYDが、上汽集団にその座を譲ったとも報じている。
中国政府は2020年まではエコカーに対する補助金政策をうたっている一方、上海ではすでに減額制度も導入していること、そして21年には補助金制度自体がなくなることを考慮すると、エコカーの急減速は避けられないのではないか。いわゆるエコカーバブルがはじけることが想定される。電池事業も、その余波をまともに受けることになるだろう。
そうなると、サムスングループのBYDへの出資の意義や効果が大幅に薄れそうだ。前回のコラムでも、出資リスクを述べたが、上海の事例を勘案すればするほど、そのリスク度は高まる方向にあるようだ。
一方、先のコラムの直後、7月29日にはソニーが電池事業を村田製作所に売却譲渡することを発表した。そして立て続けに連鎖するかのように、日産自動車がNECと合弁で設立したオートモーティブエナジーサプライ(AESC)を、売却する検討を始めていると報道されている。
しかし、ソニーの件もAESCの件も唐突にわき出た話ではなく、このような状況に陥らないような次善の策を描くプロジェクトが、2013年には本格的にスタートしていたのである。