川崎市が公害の歴史的経緯を踏まえない誤ったテロップを付けた動画を、JR川崎駅の大型スクリーンに流していたことが9日、分かった。公害対策の原動力となった被害住民や市民の運動に一切触れず、「企業と行政などが協力し公害を克服」と表記。公害被害者団体の抗議を受け、先月中旬に放映を中止した。
動画は、大学院生が制作し、2014年度の市イメージアップ事業に選ばれた工場夜景のPR映像(90秒)に、市の広報部門がテロップを付けた。
テロップは〈川崎市は、企業や行政などが協力して公害を克服し、現在では環境先進都市になっています。映像の中で、工場から排出されているのはばい煙ではなく水蒸気です。〉と表記。1時間に4回程度、朝から深夜まで1年間以上流れていた。
川崎公害病患者と家族の会は「市民の運動や被害住民の公害裁判が環境改善に果たした役割を踏まえていない」「工場の煙突から出るのは水蒸気だけではなく大気汚染物質も含まれている」などと問題視。7月4日に表現の変更を求めた。市側は同月7日に誤りを認め、同月15日以降の放映を中止する方針を同会に伝えた。
市シティプロモーション推進室は取材に対し「環境局との調整をせずにテロップを付けた。認識が足りなかった」と陳謝。動画の切り替え時期であることも勘案し、修正ではなく放映中止にしたという。
同会の堀田恵子さんは「世界で通用する川崎発の企業の環境技術は誇らしいこと。でも激甚な公害に市民が被害を訴え、行政を動かしたからこそ、企業が新しい環境基準に合わせる努力をしたという経緯を忘れてはならない」と指摘。「現状でもPM2・5や光化学オキシダントなど大気汚染の課題は残っており、『公害は克服した』というのも納得できない」とし、庁内の認識の共有化も求めている。
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