CULTURE
「ゼロ」から「イチ」を生み出せる、人工知能に負けない脳のつくりかた 森川亮×林要 特別対談(第3回)
Text by Yuko Tanaka 田中裕子
林要氏
ロボットと人工知能の急速な進化を前に、「人間だからできること」とは、「ゼロ」から「イチ」への飛躍、つまり「ゼロイチ」だ。そのために何を鍛えるべきかを伝授する、「Pepper」の元開発リーダー林要氏と元「LINE」CEOの森川亮氏の特別対談、前回に続く最終回!
人工知能は仕事を奪うのか?
森川亮氏(以下、森川) ロボットに対する恐怖のひとつとして、「ロボットに仕事を奪われる」と叫ばれることもあります。でも、僕は割と楽観的なんですよ。人間が不得意なところを人工知能が担うようになれば、人間がより人間らしい仕事に集中できるだろう、と。
林要氏(以下、林) ええ。
森川 たとえば車の登場によって、飛脚の職は奪われました。でも、車が「運ぶ」という仕事を代替したからこそ、元飛脚だった人たちは、人間ならではの作業、つまりクリエイティブな仕事に従事するチャンスを得たとも考えられるわけです。
林 飛脚の話でおもしろいのは、インターネットでモノを売るというイノベーションが起こった21世紀のいま、再び「運び手」が足りなくなってきているということです。そのソリューションはもちろん飛脚ではなく、ロジスティクスの分析と改善かもしれないし、ドローンの開発かもしれない。
結局、そこにまた人間の仕事が生まれるんですよ。
森川 一時的に仕事を奪われたように感じても、中長期的には、新たな価値に基づく仕事はまた必ず生まれていくわけですね。
林 そうですね。とはいえ、人工知能が本格的に普及しはじめると、短期的には仕事を奪われる人も出てくると思います。そのことは、社会的には充分に配慮しなければならないでしょう。
そのうえで、僕は、ロボットに仕事を奪われないためには、マニュアル化できない「感性領域」を伸ばすしかないと思っています。たとえば、人工知能に「かわいいもの」をつくらせると、過去にかわいいと評価されたもの、たとえばピンクで丸っこいものを一律で「かわいい」と判断してしまう可能性があります。なぜか? 「過去数年間の『かわいい』の平均値」だからです。膨大なデータから「いままでのかわいい」を抽出することができても、「新しいかわいい」を切り拓くことは人間の方が圧倒的に得意です。
森川 たしかに、C CHANNELのオフィスがある原宿には、人工知能が考えもつかないような「かわいい」がたくさんあります(笑)。
そうそう、音楽市場では「儲からない」という理由でミュージシャン志望の若者が減っているんですよ。
林 へえ、そうなんですか?
森川 それで、いわゆる人手不足のため、人工知能が作曲することが増えているんです。人工知能は、「サザンオールスターズっぽい」音楽はいくらでもつくることができます。それこそ、桑田佳祐さんが亡くなったあとも永遠に。「○○っぽい音楽」の量産は、人工知能に任せれば事足りるわけです。
けれど、人工知能はまったく新しいトレンドを生み出すことはできない。それはあくまで人間の仕事です。その意味では、人工知能が生まれたことで、人間がやるべき仕事の領域が明確になりつつあると言えるのかもしれません。
林 そうかもしれません。ゼロイチも同じですよね。ゼロイチって、常識では “おバカ”とも言えるような、その時点においては不合理ともいえるチャレンジをしたことによって生まれるケースが多いと思うんですよ。
それに、たとえばイチローが自分の遺伝的特徴や怪我のリスクを考慮して合理的に計算した結果、野球選手がベストな選択として挙がったのかというと、私は怪しいと思うんですよ。彼は野球がやりたいからやった。いわば、この非合理性に人の強さはあるんだと思うんです。
その不合理なチャレンジを人工知能にやらせようとすると、それはただランダムにあらゆる可能性を試させる必要がある。そうすると、あっという間に、コンピュータの処理能力を超えてパンクしてしまうんです。だから、人工知能は人間のように“ブッ飛んだ”アイディアをポンッと置くことができないんです。
森川 そう考えると、人間は不合理な衝動をもとに不合理なことにトライできる、ものすごい生物かもしれません。これは、「正しいかどうかわからないけれど、やりきることで正しくしてしまう」とも言えるかな。不合理な判断にこそイノベーションがあり、人間の価値はそこにあるということですね。
林 そう思うんです。だから、その人のなかでやみがたく湧き出してくるような「ひらめき」こそが人間にとっての武器になるし、それを、どんなに荒唐無稽に思えてもやってみるという、ある種の“おバカ”さをもった人に価値があるような気がしますね。
逆にいえば、人工知能と同じような能力ばかり磨いている人は、危険な状況が近づいているかもしれません。受験勉強なんて、その最たるものかもしれません。
森川 そうそう。「上司」なんてのも、危ないかもしれませんね。決裁や評価を下す上司の役割……とくに財務部長のような仕事は、人工知能でもできるでしょうね。いや、むしろ、人工知能のほうが向いているかもしれない(笑)。状況に合わせた的確な指示を出すのも、数字の管理も得意ですから。
林 実際、気分屋な人間の上司より、人工知能の上司のほうがいいというアンケート結果もあるんですよ。人間は、自分が想像したとおりに相手が動かないことにストレスを感じる生き物です。「昨日言っていたことと違う」なんて、本来、脳の構造的に耐えられないわけです(笑)。
森川 人工知能は、褒めるのだって人間よりよっぽど得意でしょう。褒め言葉のバリエーションを100パターン持っていれば、適切なタイミングで相手の性格やタイプに応じた言葉をかけることができる。コーチングくらいなら、ロボットができるようになるんじゃないでしょうか。
林 気分屋の上司危うし、ですね(笑)。
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