ある家族が「寒そうだから」とバイソンの赤ちゃんを車のバックシートに乗せ、結局、安楽死させなければならなかった悲劇を覚えている人もいるでしょう。ビーチでイルカの赤ちゃんをよってたかって触って死なせた海水浴客や、セルフィーを撮るために白鳥を無理やり湖から引きずり出し死亡させた女性など、野生動物に対する虐待の認識がない人が存在します。

可哀相だからと思っても、野生動物に情けをかけるのは結局虐待に繋がり、最悪の結果を招いてしまうことになります。野生動物に対して人間はあくまでも「見守る」姿勢を持たなければいけません。もし、救助が必要な場面に遭遇しても素人判断で勝手に手を出すべきではないのです。

このほど、悲しい事件がまた起きてしまいました。米ワシントン、ウエストポートのビーチに一匹のアザラシの赤ちゃんがいるのを見つけた女性。「親に見放されて捨てられているのかと思った」という女性は、自身のビニールのトートバッグに赤ちゃんを入れ、自宅へ持ち帰ったのです。

既にぐったりしていたアザラシの赤ちゃん

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自宅にアザラシを持ち帰ったところで、どうしていいかわからなかった女性は地元の水族館に連絡。事情を話してスタッフに来てもらったのですが、既に赤ちゃんは水のない場所でぐったりしていたそう。女性の家のデッキにぐったりと横たわるアザラシの赤ちゃんの写真を見ると胸が痛みます。

女性は、アザラシの赤ちゃんがこうなることを全く予想していなかったのでしょうか。

「野生の動物は絶対に触ったらダメ!」

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AP通信によると、今シーズンだけでもワシントン州のビーチで5件、野生動物が持ち帰られる事件があったそう。持ち帰った人みんなが「捨てられていると思った」「助けようとした」という善意のジェスチャーでしたこともわかっています。

それでも、専門家は言います。「人の善意は野生動物にとって致命的となる場合があります。大きなストレスを与えたり、命を落とさなければならないことになるので絶対に触らないで。」

今回も、女性が一旦家に持ち帰ってしまったために水族館スタッフが海に戻そうとしても、赤ちゃんは受け付けなかったそう。仕方なく安楽死させられてしまいました。女性が拾わなければ、このアザラシの赤ちゃんは死ぬ必要はなかったでしょう。良かれと思ってしたことが、命を奪う結果になってしまった今、彼女はどんな気持ちでしょうか。

ビーチからアザラシを引き離してしまうことこそが、アザラシの赤ちゃんの親にとって育児放棄をする原因となってしまうのです。去年、カリフォルニア州では、野生のアザラシを掴んだり勝手に餌を与えたりする事例が60件以上もあったそう。

「National Oceanic and Atmospheric Administration Fisheries (NOAA)」アメリカ海洋大気庁の職員は訴えます。「救助してあげないとと焦って野生動物に触ってしまう人が増え、人の手によって動物たちが傷つき死に至るケースは年々増加しています。野生動物は、放っておくことこそ最善の保護方法なのです。」

可愛いけれどペットではないことを認識しよう

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先週もこのビーチでは、一匹のアザラシの赤ちゃんが海水浴客の膝に乗せられて撫でられ触られ、長い間母親アザラシから引き離されるというハプニングがあったそう。そのおかげでアザラシはかなりのストレスがたまってしまい、母アザラシからは放棄され、死にはしなかったもののリハビリセンターに搬送されることになったのだとか。

また、あるカップルはアザラシをビーチタオルでくるみ、車に乗せて自宅まで連れ帰りシャワーを浴びさせたという例もあるようで、親切がとんでもない大きなお世話と虐待に繋がっていることに気付かない人が多く、連絡を受けたスタッフが海に返すも、翌朝死んでいるのが発見されたという悲しい結果になってしまうのです。

小さな野生動物の赤ちゃんは確かに可愛いですよね。つい、触ってみたくなる気持ちもあります。でも、それが彼らにとっては命を縮める行為になるのだということを今一度、私たち人間はしっかりと認識しなければいけないのではないでしょうか。今後、このような悲劇が起きないことを願う筆者です。

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Mayo このユーザーの他の記事を見る

公式プラチナライター。英国に住んで足掛け22年目に突入。前半ロンドン、後半ヨークシャー在住。ロンドンでの出版社勤務経験を生かして記事を書かせて頂いています。その昔英国ほとんどの場所を一人旅した経験あり。住んでいるからこそ見える英国の様々なこと、その他の海外の様子をお伝えできればと思っています。人として考えさせられる記事を中心に書いてます。いつも読んで下さる皆さんに感謝!

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