山口組総本部が異例のコメント発表――「ヤクザジャーナリズム」の功罪
2016/7/9 09:02 日刊SPA!
分裂から10か月、射殺事件まで勃発した山口組分裂騒動の緊迫はピークに達している。報復の連鎖も懸念されるなか、“当事者”たる山口組総本部が本誌取材に重い口を開いた。
◆矛先は暴力団報道の第一人者に――“菱のカーテン”の知られざる内幕
岡山で神戸山口組系池田組のナンバー2が射殺され、実行犯として六代目山口組の弘道会から組員が出頭した。銃器による殺人事件が起きたことで、捜査当局は両団体の特定抗争指定を急ぐと見られる。
これまで、和平の道がなかったわけではない。射殺事件が起きる前に両団体の幹部同士が顔を合わせて交渉する席が設けられたという話が漏れ伝わった。六代目山口組側からは高木康男・清水一家総長、神戸山口組からは織田絆誠・若頭代行が出席し、落としどころを話し合ったとされる。この会談について、二次団体幹部が語る。
「山健組の若頭補佐の1人が清水一家の重鎮に『高木総長にご相談があります』と連絡を入れたのが発端だった。『織田と会っていただけないか』との申し出に、全権を委任された立場で来るなら話を聞こう、と会ったのは事実。ただし、いざ会ってみると何の権限も持たず、『どうすれば(山口組に)戻れますか』と聞いてくる。六代目山口組としては『ポツダム宣言なら受け入れる。若い者は救えても絶縁者は救えるわけがないだろ』と蹴って終わった」
噂は瞬く間に広まった。ただし、巷に流布されたのは、極端に歪曲されたものだという。
「そんな経緯が織田にかかると、『親分(井上邦雄・神戸山口組組長)の若頭での復帰案を司六代目が呑み、総裁職に退くことになった。ところが獄中にいる高山若頭が拒絶して破談になった』というフィクションにすり替わる。さも事実であるかのように吹聴するので、始末に悪い」
神戸山口組サイドのキーマンとして挙げられる織田若頭代行だが、二次団体幹部の心証は極めて悪い。
「自分の経歴や武勇伝をネットに書き込ませ、神戸山口組系のまとめサイトも存在するほどネットの情報戦に力を注いでいる。内容はショーンKが可愛く見えるほどの詐称っぷりですよ。岡山の件で彼らがやった返し(報復)を知っていますか? 石で車を壊し、糞尿を組事務所に送りつけただけです。ヤクザ者のすることではない」
憤る彼の口からは、暴力団報道の第一人者とも言うべき著名ジャーナリストの名前も挙がった。溝口敦氏である。
『荒ぶる獅子-山口組4代目竹中正久の生涯』(徳間書店)など、山口組関連の著作も多い溝口氏もまた“印象操作”の一翼を担っていると語るのだ。
「分裂以降、『週刊現代』や『日刊ゲンダイ』で彼が書いている内容は非常に危険です。弘道会が絶対的な悪で、神戸山口組に勢いがある。こうした主張をたびたび繰り返しているが、記事には明確な事実誤認が含まれる。例えば昨年の12月に六代目山口組の新人事として『竹内照明の本部長就任、藤井英治が統括委員長に就任。これでトップ4役を独占するフォーカードを作り上げた。露骨きわまる弘道会一色人事である』と、こう書いている。そうなってますか? なっていないでしょう。こうしたデタラメな記事で対立を煽れば余計な喧嘩も起きるし、血も流れる」
幹部の主張は、ヤクザジャーナリズムの功罪を問うている。
◆ヤクザジャーナリズムにおける“公平性”とは?
取材する側の立場からすれば、“菱のカーテン”と形容される情報統制を敷いた山口組は、神戸山口組と比べ距離感が遠い。原則としてマスコミへの接触を禁じているため、実情はかなり見えづらい。
六代目山口組として、昨今の報道情勢をどう考えているのか――取材意図を説明したうえでコメントを求めると、山口組総本部は「今回に限り、責任ある幹部に答えさせる」と応じた。以下は山口組総本部とのやりとりである。発せられたメディア批判は時に語気が荒くなるが、山口組の“温度”を知るうえで貴重な証言と考える。
――分裂以降、メディアで報じられてきた内容についてどう思うか。
「向こう(神戸山口組)はインターネットでガシャガシャ書いて、ウソばっかりやんか。ネット部隊雇うて、1行100円で書かせてるらしいわ。『織田は100年に一度の侠客』とか『大親分』とかな。合併の話もそうや。『そっち(神戸山口組)がどうするか、答えられる全責任負った者が出てこい』いうたら来たのが織田や。けど、何一つ決められへん。織田は井上に報告せんといかんやろ。それで作り話をしているだけのことやないか。『誰それは引退させます、何年たったら譲ります』ゆうて」
――神戸山口組サイドが発信する情報は正確でない、と。
「トバシ記事ばかりや。先頭きって書いてるのが溝口やないか。溝口はな、司馬遼太郎とよう似てんねん。ウソを面白おかしく書くからみんなが読むだけの話で。読んでみぃ、面白いし、文章は上手や。でもデタラメやんか」
――具体的にはどの部分が?
「分裂直後から国税が動いて親分(司組長)が逮捕される、向こう(神戸山口組)は証拠を持っていて警察に出す、書いているやろ。工藤会の親方が脱税で起訴されてるけど、同じことになるぞと。言うたら、これは脅しや。だったら出せばいいやんか。山口組は明朗会計なのに。組織の動揺誘うための記事と違う? 溝口は息子が刺された件(※)で山健組に使用者責任で裁判起こしたやろう。これが和解金500万円で手打ちにしてしもうたんや。けどな、これとは別に井上から2000万円が出ていると井上自身も言うてた。溝口が情報源にしとる正木(神戸山口組総本部長)もな。その後からや、『六代目山口組は名古屋方式』とかトバシの記事書き出したのは。ここ最近の溝口の記事は特にひどいが、正木に誘導されているようにしか見えんよ。言論の自由があるんやし、書くのはええ。でもトバシ記事で胸が痛くなったり、死人が出たらどうするの。書くなら平らに(公平に)せなアカンでしょう。組織の動揺狙った記事書くなんて、ジャーナリスト構成員やないか」
およそ30分にわたって語った内容の大半は、溝口氏に向けられたものだった。前出の二次団体幹部も含め、六代目山口組の主張を溝口氏はどう捉えるのか。取材を申し込むと、自宅で応対した。
「記事を公平に書け、というのはヤクザの言い分かと疑う。世間がどう見ようと、わが道を行くのがヤクザの美意識ではないのか。
六代目山口組は組を割って出られたほうだから、当然、神戸山口組からは批判の対象にされる。問題はどちらから発信された情報が具体的で、読者に対して説得力があるかだ。メディアは山口組の内部紙誌ではない。読者の興味を引きそうな記事を選んで載せる。情報面で公平、均等に扱われるためには、神戸山口組と同等以上に、具体性あるヴィヴィッドな情報を出し続けることである。新鮮で面白い情報を出してくれるなら、メディアは六代目山口組を大事にする。
私の書くものも同じである。具体性があり、信用できそうな事柄を書く。どちら寄りかということはまず意識しない。たまたまそのとき選んだテーマと情報源で、そうなっただけの話だ。
私の書いた人事情報が予測通りに動いていない、間違いだというのは少し筋が違う。予測が出たことで人事は変え得る。問題はその予測が組織の本質を突いているかだ。(六代目山口組の)竹内氏が本部長にいつ就こうが、就くまいが、彼は山口組内で次代を託された特別な幹部ではないか。
あとハッキリ言っておくが、私がお金をもらうのはメディアからだけだ。息子を山健組に刺された事件で組長の使用者責任を問い、山健組に裁判を起こし、裁判長の勧めで和解した際に和解金は受け取ったが、これは分裂の前、8年も前の話。裁判は息子刺傷事件に対する損害賠償請求訴訟であって、もともと山健組からお金を取ることを目的としている。和解金をもらって何一つ恥じる必要はない。
和解金と私の筆先とは無関係だ。それを言うなら、山健組は息子を刺した憎き仇という考えはどうすると言いたい」
六代目山口組のコメントを報じた小誌もまた、神戸山口組から見れば溝口氏と同様の批判を受けかねない。ヤクザジャーナリズムにとって公平性の非実現は、宿痾と言えるのかもしれない。
※’05年12月、渡辺芳則・五代目組長引退の内幕を暴くルポを月刊誌に溝口氏が発表すると、内容を巡り山健組と衝突。直後の’06年1月、山健組組員によって溝口氏の息子が刃物で刺される事件が発生した。溝口氏は山健組井上組長を提訴。使用者責任を巡る裁判として注目され、最終的に和解に至った
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