2016年全日本選手権は、 初山翔が優勝、西薗良太は2位。これまでにない最高の勝ち方でした。そのレース中、いったいなにが起こり、チームはどう勝ったのか。開催地・伊豆大島からの帰りのフェリーの中、勝利のビールに酔った選手に聞いた話をご紹介します。
2016年6月26日(日)、東京都伊豆大島にて開催された全日本選手権。ブリヂストン アンカー サイクリングチームは、全日本チャンピオンの称号を、初山翔選手の優勝にて手に入れました。さらには2位に、初山をアシストしきった西薗良太が入るワンツーフィニッシュ。チームにとって12年ぶりとなる全日本タイトルは、これまでにない誇らしい勝利となりました。
その模様は、チーム公式ブログにて。
http://www.anchor-bikes.com/race/blog/2016/06/26_2215.html
レースが終わって勝利の余韻にひたる間もなく、表彰台、記者会見、ドーピングコントロール、片付け、輪行、午後4時にはフェリー乗船というバッタバタをくぐり抜けたチーム。フェリーに乗ってようやくビールで乾杯、ゆったり揺れる船室の中で、「チーム力の勝利」と評されることの多かったレースを、みんなに振り返ってもらった模様をお届けします。
いわゆるレーサー言語が多いので、よくわかんないかもしれませんが、そのへんの感じも含めてどうぞ。
参加者:初山翔(優勝)、西薗良太(2位)、井上和郎(32位)、椿大志(DNF)、内間康平(DNF) 、【鈴木龍(6位)は未参加】、辻カメラマン
西薗:基本的にまず、ボクが逃げに乗ろうっていう作戦で、カズオさん(井上和郎)とか椿に手伝ってもらいながらという話があったんで。
例えば登り区間とかで、逃げになんとかトライしたんですよ。まあ有力選手の中でも、淳哉さん(佐野淳哉選手=マトリックス パワータグ)とかが逃げたそうな雰囲気があって、ニッポ勢(チーム ニッポ ヴィーニファンティーニ)も何人か、1人は入れたいっていう空気があったし。
で、結果的に逃げた譲さん(鈴木譲選手=宇都宮ブリッツェン)は、別にそんなガチガチに入りたいって雰囲気でもなかったんですけど、やっぱりコースが初めてですし、逃げに乗せた人がいると、かなり主導権が握れるんじゃないかなーって、どこも思ってたみたいで。
同時に、うちのチーム、結構マークされてたと思うんですね。誰かしらが入るとやっぱり追われるし、入らないと外そうとして動いてくるみたいな空気がすごくあって。それを繰り返してたんですが、なかなか決められませんでした。
ボク自身も、勝つ動きをしなければいけないんで、アクセル加減を調節しながら様子見てた感じですね。
それが長引いちゃったんで。ボクも疲れた時に、しんどいなって時に、譲さんと中根くん(中根英登選手=愛三工業レーシング)がポンと行っちゃった。
辻:その後の下りで先頭を走るのが良太。
西薗:これ下りで潰せるんじゃないかなと思ったんです。『サガン走り』とかを駆使しながら、下りも結構がんばったんですけど。2人が結構いいペースで、見える位置にはなかなか来なかったんで、これは行かせるしかないかなーっていう雰囲気になりました。
それに2人だったし、放っていてもなんとかなるかもと思ったんで。キナン(キナン サイクリングチーム)とかマトリックスもいるんで、共同コントロールもできるし。決定打にはならないなと思ったんですよね。ブリッツェンを遊ばせるのは嫌だったんですけど。
辻:で、結果的には2分半まで開いた。
西薗:2分ぐらいまで開くまでは、なんとなくマトリックスが回してるだけで、特になんかすごいコントロールしてるチームってのはなかったんですけど、それでもなかなか開き方が遅かった。開き方の具合からいって、向かい風とかで苦しんでるなってのがなんとなく見て取れたし。
その直後内間が落車して、ボクらも焦ったんですね。
集団も、ある程度話をしたら、内間が復帰できるんなら待ってくれるって話もあって。少なくとも俺らは待つよって伝えた時に、(集団が)緩んだんですけど、劇的には開かなかったんで。多分しんどいんだなってのは思いましたね。
辻:結果的に康平が復帰できないってなっても継続してたよね?
西薗:内間のことをカズオさんと椿がケアしながら、ちょっと復帰がきびしいってなって、じゃあ、エースをタイプ別に、最後はどういう展開になるかわかんないけど、オレと龍で分担しながら、残りの2人を前にコントロールしてくしかないねってコントロールしました。
辻:井上さん、そのときどんな気持ち?
井上:内間が転んだのはすぐわかったんで、いったん内間のとこ戻って。内間の顔をみたら「もう行ってくれ」って感じだったんで。椿と2人で集団戻って西薗に伝えて。まあその状況で1分開いた。結局3分半まで開いたんだよな?
西薗:でもボクは逆に1分しか開かなかったんだよな、って思ったんですよね。アレぐらいの状況であれば2分ぐらい開いてもおかしくない。
井上:でも3分半で、残りまだ90km。
初山:海岸線の向かい風がキツかったですね。風向きが違ってればまた違ってたんでしょうけど。
西薗:とりあえず初山に「まだあと100kmありますよねー」ってチャラっと言われて。「おおう、そうだな」って思って。
井上:逃げが2人だし、後半になればなるほど脚を使っているんで、前を捕まえるのは、その気になれば時間はかからないだろうと。でもあんまり離すのもどうだろうと。
初山:万が一がありますからね。
辻:残されたメンバーで立て直す、というのは、どういう感じで決まったんですか?
西薗:内間が帰ってこなかった時点で、プランBみたいなことは決まっていたんで。内間のアタックとか独走がなければ、とか。プランBの一環で。
そこからカズオさんと、椿のカッコいい走りが始まった。アイサンは出さないし、ブリッツェンは譲さんが一種の本命だってのはあるんで、当然出さないし。
初山:カズオさんと椿の2人だけで、着実にタイム差を詰めてくれたのがホントに助かりましたよね。あれで詰まらなかったら、俺らが登りで追走を作らなきゃいけなかったんで、焦らないといけなかった。かなり。
西薗:もしかして、ラス4ぐらいから、登りでドンパチみたいな、恐ろしい展開が待ってるのかなと思ったんですけど、着実に詰まったんで安心できました。
井上:計算しながら詰めてたから、むしろね、余計なのが来てね、乱される方がやだよね。
辻:レースが動いたのは?
西薗:ラス3に入ってから登りで上げたんですけど、その前の登りで監督から指示を受けたんですよね。
初山:その前の周で、「翔、ラスト3」て言われて。悩んだんですよね。そのまんま、カズオさんとかがペースを詰めてって貰えれば普通に捕まるし、それにゆるい展開になったとしても、スプリントになれば龍で勝てる可能性もあるし。俺らが無理にペース上げると、よそのチームのアシストになる可能性も高いんで。悩んだんですけど、人数があまりにも多かったんで。西薗さんと話をして、結果ラスト3で行く、っていう。
辻:それはカズオさんには伝わってなかった。
井上:引いてたんでね。
初山:伝えられなかったです。
西薗:で、しばらく走って、初山から「水谷さんがラス3で行けって言ってます」って相談を受けたんです。
初山:あの人はこう言ってたんですけど、どうしますか、って。
西薗:僕は「まあ龍がいるし、いいんじゃね」って返事したんですけど、でもちょっと多すぎるなって。じゃあオレが、ラス3の入り口で奇襲をかけると。なんかあそこで、雰囲気的に譲さんは回収できるってのがわかったんですよ。
見えてはいなかったんですけど、完全にカズオさんと椿も余裕を持って回収できるぐらいの余裕を感じたんで、回収はわかっていて、すごいペースもゆるくなって、みんなが元気になっていたと。
そういうときにはみんな、補給を取りに行くって思ったんですね。
一同:おー。
西薗:だからみんなその後の細い上りで、あまり警戒してないなと思ったんです。前に行くと怪しまれるんで、ゴールラインを過ぎてから、上がっていくからってのを、初山と龍にしか言えなかった。
ゴメンナサーイとか思いながらも、カーブを過ぎて、ツーって前に行って、一気に上げて。
井上:シッパーンって。あの登りで譲を食ったから。
西薗:頂上過ぎた時には10人いなかった。淳哉さんも同じタイミングで上げようとしてたらしくて、それでタイミングよくて。1人で下から上までやるのは大変だなと思ってたら、淳哉さんが半分ぐらいかわってくれた。
辻:で淳哉さんが一気に落ちた。あの時の失速ぶりは凄かった。
井上:だってオレ、西薗の動きで遅れてたのに追いついたもん。
西薗:あんなにグリグリ踏んでたのに? じゃあ完全に土井さん(土井雪広選手=マトリックス パワータグ)のアシストですね。相当無理してたんだ。なんかダブルエース体制だなと思ったんですが、淳哉さんがかわってくれたんで。油断した選手には、そうとうダメージがあったんですよね。きっと。
井上:諦めるに十分なダメージがあった。
辻:残り3で一旦ペースがバーって上がって。
西薗:下りはみんなガンバって追いついたんですよね。ただ基本的に、追いつけた選手には死相が浮かんでた。
井上:メイン集団はメイン集団で、向かい風だから止まっちゃうんですよね。下りで。でドンパチになっちゃう。
西薗:で普通、そこでドンパチになっちゃうんだけど、カズオさんが下りで追いついて来たやいなや、コントロールを再び始めるというスーパーマンをやっていたんで。
井上:怒りに身を任せて追いついた(笑)。
西薗:ブリッツェンは安定化させたがってましたよね。増田さん(増田成幸選手=宇都宮ブリッツェン)の脚を無駄に使いたくない。
初山:アベタカさん(阿部嵩之選手=宇都宮ブリッツェン)、戻ってきて、ラスト2の登り口まで踏み倒してきた。
西薗:そこはブリッツェンが担ったんですよ。けど、もう最後まではいなかった。枚数を残していなかった。
ラス2はやっぱりカズオさんが追いついてきてコントロール。そんときはカズオさんがほとんどコントロールしたんだよね。ラス3はアベタカさんで。
井上:ナカジ(中島康晴選手=愛三工業レーシング)も協力してたけどね。
西薗:それでラス1は、小石くん(小石佑馬選手=ニッポ ヴィーニファンティーニ)が攻めてきた。
初山:1回登りの途中で、緩むのがわかった。あの前に、小石が行ったんです。
西薗:そう、行ったよね、「自分で行くんだー」って思って。でも無理してる感じはあるんですよね。例えば元喜(山本元喜選手=ニッポ ヴィーニファンティーニ)とか石橋(石橋学選手=ニッポ ヴィーニファンティーニ)とかが、エースなのかアシストなのかってのがボクにはちょっと判断つきかねて。
辻:最終周回に入った時に怖かったのは誰?
西薗:増田さんに、ゴリ押しで行かれることだけは避けようと思っていた。でも、龍がいるんで、増田さんに行かれても、付いて行くだけだったらいけるだろうって思いましたし。ラスイチの登りに入る前の海岸線の、まだそんな後ろが追いついてない段階で、一回一番後ろまで下がって、スプリンターが誰か残ってるか確認したんですよ。そしたらいなくて。
もう龍で勝てるなってのが、まず確認できたんで。登りで仕掛ける必要もないなって、ラスイチも落ち着いて迎えて。
で、ラスイチの登り切りぐらいで、増田さんとか土井さんが、一番キツい区間で行ったんですよ。これなら詰められるなーって、まず落ちついて思って。詰められるんだけど、って思って、ぱっと後ろ見たら初山いたんで。連れて行きました。
初山:勝ち誇りました。
一同:(爆笑)
内間:プレゼン始まったよ(笑)。
初山:まあアレは西薗さんが別に引かなくても、ボクは普通に追いついたんですけどね。
一同:(爆笑)でたでた!
西薗:で、最終周回の登りをクリアした時点、初山と、オレと、土井さんと、増田さん、木村(木村圭佑選手=シマノレーシング)が一応いたのか、で下りに入る感じで、空港横の前ぐらいで、龍とかその辺の集団が追いついてきたよね。
初山:オレ知らないです、もうそんとき行っちゃってたから。後ろ見なかったので。
上り切った後の下りきりで微妙にアタック合戦とかあったんですけど、ボクらは2人いたんで、順番じゃないけど対応できて、で、その後の空港に向かう直線で、木村が一気に行って。
西薗:そうそう、あの直線で、木村が行ったんですよ。「おお勇敢だな」と思ったんですよ。キツそうだったのに。で、すぐさま初山がフォロー入ったんで、これは安心だと思って。
そうしたら次は石橋くんが行ったんですね。それにすぐ反応したら、なんか行かせてくれた。10人ぐらいの集団が、龍が後ろにいる状況で、それ以上の動きがなかったんです。キツかったんですね。
それで、2、2になって。2人は適当にローテーションする。
初山:後ろから来てるのはわかったんですけど、西薗さんが来てるってのは全くわかんなかったです。
で、ボクも残り7kmだけど、海岸線すごい風強いし。スプリントで勝てる自信はあったんだけど、そんなに無理してガンガン踏む必要はないなと思って。木村に合わせる程度だったんです。
2人はキツいけど、後ろから2人来てたから、4人になったらゴールまでイケるなという感じになったら、まさかまさかの西薗さん1人で追いついてきて。
西薗:こっち見て、「ああコイツは引かないな」と思ったのか、なんとか2人に追いつこうとしてたんです。ニッポも3人いて、誰かを追いつかせざるをえなかったので。
だけど下って登り返しのところで行って、単独で追いつきました。石橋くん結構踏んでましたけど、それを許さないスピードで行きましたからね。残り5kmで。
初山:だって前アンカーいるって知ってたら、西薗さんに引いてくれって言ったって、絶対出てこないって思うでしょ。
西薗:3人になってからは、落ち着いて回れば、追いつくのはかなり難しいと思ったんですよ。まず石橋くんが一人になってるのは分かったし、彼は吸収されるなーとボクは思ったんです。で、その後ろはかなり離れてるのは確認しましたし、しかも龍がいるっていう状況で、じゃあひとり30秒ぐらいで落ち着いて回ろうと思ったんですよ。
初山:オレは西薗さん来て、「よーし、これで西薗さんゴールまで連れてってくれるぞ」って(笑)。
西薗:ちょっとは働けよ。
初山:と思ったら、そんなことはなく。
一同:(爆笑)。
初山:最初2人で行った時に、木村がすごい踏んでくれたんですよね。でおれはこのまま2人で行くのはちょっとどうかなー、って思ってたんですけど、彼はガンガン踏んでくれて。
そのあと西薗さんが追いついてきてから、反動で今度は木村が引けなくなって。でまあ、オレと西薗さんが淡々と回って。
西薗:とりあえず回したら、1回だけ石橋くんが後ろから近づいたんです。で、容赦なく踏み倒しました。
それで、最後の登りの始まるところで、スプリントになったら初山の方が絶対もがけるんで、初山に「お前勝て」って言って、下から一本引きで。
まずペースを安定させて追いつかれないことを優先しつつ、初山がスプリントで刺しやすいようにコンディションを作って、行った感じですね。
初山:それ聞こえてなかった。でも、結果うまく決まりましたけどね。
西薗:木村くんが1回カケてきましたね。ラス300ぐらいでカケてきて、それに合わせてオレも踏んだんですけど、初山はそれを上回るすごいスプリントを出してくれて。
もうゴール前で初山が確実に勝つというのを確信したんで、ガッツポーツです。
辻:最後7人に3人入ってたのは大きいですよね。
井上:それで負けたら、目も当てられない。
初山:去年、沖縄で似たようなことやりましたよね。
井上:そうそう、4,5,6位って(笑)。
辻:決まりましたね、最後は。
初山:ピットについた時、カズオさん大号泣でしたよね。
井上:だってね、ゴールラインで誰も教えてくれないんだよ! ナカジと「おつかれさん」って握手して、そのまま誰も教えてくれなくて。ゴールしたあとにフッと見たところにいた浅田さんに、「ワンツー」って言われて、『これ、ギャグか?』って思って。(一同笑)
辻:これ、龍です、龍。膝にチェーンリングのあと、ガッツリつけてる。
初山:アマチュアだな。(笑)
西薗:メガネがないとね、オレじゃないよね。
一同:誰これ!
辻:そして、これ。ソックス。プロとしてのね、アマチュアじゃないふたりの比較を撮ってみた。
一同:あー。
(参照:『2016TTチャンプ西薗、ルーズソックス事件』
http://www.anchor-bikes.com/race/blog/2016/06/24_2251.html)
井上:こんなところまで合わせなくていいんだよ!
初山:こんなの撮んないでよ!