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僕はその道をもう通らない

僕はその道をもう通らない

7月7日は七夕。

毎週木曜日が休日の僕は今年珍しく七夕に休みがかぶり、生まれて5か月の息子と初めての七夕に最寄駅のショッピングモールに来ていた。

その日はとても暑く、天気予報では34℃と言われていた。まだ5ヶ月の息子にはこの暑さは辛かっただろうけど、保冷剤のおかげもあってか1日ぐずることもなく大人しくしてくれていた。

日が長くなっていたが時間は夕方になり、日も沈みかけてきた夜7時前には幾分過ごしやすい気温になっていた。

そこで今夜の晩御飯のおかずを買おうと、目当てのお店に向かっている途中だった。

駅の改札を抜け、直結になっている駅とショッピングモールとを結ぶ地下道に差し掛かった。ちょうど帰宅ラッシュと重なってしまったせいか、その地下道はいつにも増して通行人でごった返している。

僕は息子を抱っこ紐でだっこして、奥さんと歩いていた。休みの日は僕が息子を抱っこする。それが僕と息子の大事なスキンシップであり、成長を確認できるコミュニケーションでもあるからだ。

息子は1日の疲れからか、僕のTシャツの裾を両手で掴みぐっすりと眠っていた。僕にとって幸せな瞬間。

地下道からショッピングモールに行くためにはその二つをつなぐエスカレーターを利用する。いつものように僕らはそこに向かっていた。


地下道に響く音

そのエスカレーターのちょうど手前に差し掛かった時だった。

ガガ…〇〇党をよろしくお願いしまーす!△△と申します!』

心臓が飛び出るかと思った。スピーカーを使い大きな声で威勢良く、行き交う人に何かしゃべっている人がいる。その周りには10〜15人くらいだろうか?ビラのようなものを掛け声とともに差し出しながら、ある党を勧めてくる選挙運動の人達がいた。

(…ああそうか、もうすぐ選挙なのか)

地下道にはそのスピーカーの音が跳ね返り、耳を塞ぎたくなるほど響いていた。ライブ会場さながらのこの事態は、きっと帰宅ラッシュのこの時間を狙ってのことだろうと容易に想像がついた。

その音に驚いて息子の体がビクンと動いた。Tシャツを掴んでいた手により力がはいり、密着している僕の体に今まで感じたこともない力でしがみついてくる。

眠っていたのを起こされた不快感と、止むことのないスピーカーの轟音とで、息子はどうしていいかわからず僕に助けを求めていた。

『お仕事お疲れ様です!ガガ…〇〇党の△△と申します!皆様のために全力を尽くします!』

言っていたセリフは忘れてしまったけど、確かこんなことを言っていた気がする。全力尽くすのはいい、その前にちょっとでいいからスピーカーのボリュームを下げてくれ。

不安いっぱいの表情を浮かべ、今にも泣き出しそうにキョロキョロする息子を抱いて僕はそう思った。

早くこの場を通り抜けて静かなところに行きたい。僕は寝ぼけながらも恐怖を感じている息子の表情に焦った。

そんな思いとは裏腹に帰宅ラッシュの人混みと、ビラ配りの選挙運動の人でまっすぐなんて進めない。ましてやここは地下道、歩くスペースだって限られている。

早く通り過ぎたいのに目の前に差し出される〇〇党のビラ。耳元で叫ぶ大きな声。

『よろしくお願いしまーす!』

もうやめろ、やめてくれ。息子が泣き出してしまう。

一人をやり過ごしてもまたその先にはまたビラ配り。もらったかどうかなんてきっとこの人たちには関係ないんだろうな。大人しくもらったとしても、きっとまた次の人に差し出されるんだろうから。

怯える息子が可哀想で、少しでもうるさくないようにと僕は子供の耳の周りを手で覆った。これで少しはうるさくないだろう。

『よろしくお願いしまーす!』

両手を子供の耳に当てて、できるだけ選挙運動の人から離れるように歩いていても、彼らは僕の元に近づきビラを差し出してきた。恐怖感に近いものを感じた。

受け取ろうとするまで目の前にティッシュを差し出し、後をついてくるティッシュ配りとこの人たちは何も変わらないじゃないか。いや、むしろ静かに差し出してくるテッシュ配りの人たちの方が良く思えてくる。

 

なんとかやりきってエスカレーターに到達した。

ありがたいことに少しすると息子も落ち着き、また眠りについた。目に涙をためて。

そしてその頃には僕は疲弊し、いつもなら気にしないはずなのに、その胸の中が妙にざわついていた。

僕はもうその道を通らない

今まではなんとも思っていなかった街頭での選挙活動。

大人の耳にはスピーカーの音など気にならないのかもしれない。僕自身もここまで感じることもなかった。

それでも自分も子供を授かり、守るものができた。するとどうだろう、今までなんでもなかったものがそうじゃなくなっている。

あの時間のあの場所を通った僕が悪いんだけど。

 

今僕たちがこうやって幸せに暮らせるのも政治家の人たちが努力してくれているからだとは思うし、きっとあの選挙活動もあってこそのものなのかもしれない。素晴らしいことを説いてたのかもしれないし、実際にその話を立ち止まって真剣に聞いている人もたくさん居たんだと思う。

それでも僕はもう二度と、選挙活動中にあの地下道を通ることはないだろう。

もう息子にあんな顔をさせたくはないから。恐怖に怯える我が子を見たいとは思わないから。

あの選挙活動の人が雇われてやっているのか、ボランティア活動なのかは知らない。きっと立候補する人も真剣にやっているからこそ、訴えかける声に熱が入ることだとは僕も大人だからわかる。

でももしその人たちにも家族がいたとして『僕らのような思いがしたいですか?』と尋ねられたら『イエス』と答える人がいるだろうか?

みんなそれぞれ立場や仕事、守るべきものがある。それはみんな違うと思う。

でももしあの選挙活動の人の中に一人でも『お騒がせしてすみません』と言ってくれる人がいたら。スピーカーの音を下げてくれる人がいたら。手がふさがっている人にビラを差し出すのをやめる人がいたら。

もっと日本は今よりも素敵な国になるんじゃないかなと思った。

 

そんな未来になればいいなと、思った。

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帰り道に拾った笹の葉に短冊を吊るして、願い事を家族で書いた。

この子がこんな風にずっと笑っていられるように、ずっと幸せで入られますように。

そしてその幸せがずっと続きますように。

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