低価格のアパレル大手、しまむらの業績が絶好調だ。その絶好調の秘密は低価格品ではない。意外なことに「高価格なパンツ」が牽引車になっているのだ。
【グラフ】 右肩上がりの成長はいったん挫折、そこから見事に復活を果たした
まずは直近の"絶好調ぶり"を見ておこう。しまむらが6月27日に発表した2016年3~5月期(第1四半期)決算は売上高が前年同期比6.7%増の1404億円、営業利益が同38.5%増の120億円と、いずれも過去最高を記録した。
しまむらは1988年の上場以来、低価格衣料を武器に、30年近くにわたって右肩上がりを続けてきた。ところが2013年度、2014年度は上場以来初の2期連続減益に沈んだことがある。消費税増税後も値上げをせずに低価格路線を維持したが、円安の進行で仕入れの調達コストが増加。不良在庫の値下げ処分も増加するという悪循環に陥ったためだ。
この難局をどのように乗り越えたのだろうか。
■ ヒット商品の育成が復活の端緒
苦境に陥ったしまむらが昨年から推し進めたのが、商品開発と品揃えの改革だ。特に業績への貢献が大きかったのは、ヒット商品の存在である。
これまでの多品種少量生産のトレンド商品を中心としたモデルから、単品で大量に売れるコア商品の育成に力を注いできた。
販売の主力商品をコア商品に位置づけ、1モデルあたりの数量を増やすことで、現場の商品管理の強化や、調達コストの削減も期待できる。
実際、昨年に110万本を売る大ヒットとなったのが「裏地あったかパンツ」の存在。通常の1900円という価格に対して、3900円という値段で展開(いずれも税込み価格)。機能性が評価され、値下げをほぼすることなく売り切った。
その流れを今期も継続する方針だ。夏場に向け、力を入れるのは「素肌涼やかデニム&パンツ」とキャラクターTシャツのT’s(ティース)だ。暑い夏でも涼しく、ベタつきにくいデニムパンツは今期、87万本の販売を計画していたが、第1四半期の販売好調を受けて、年間販売計画を94万本に上方修正した。
一方でT’sはしまむらの得意な少量多品種の品ぞろえを活かした商品だ。1000種類に及ぶ今回のT’sでは常に新しいデザインのTシャツが店頭に並んでいる。これまでTシャツは低価格路線の代表的な存在で、バーゲン商品の目玉として安く売られてしまうことも多かった。
今期はディズニーやスヌーピー、ゴジラといったキャラクターやアディダスといったスポーツブランドとコラボしたTシャツで税込980円を底値として、同1900円といった価格帯でも展開する。キャラクター商品の強みを活かし、極力値引きを控える方針だ。
■ 販売好調で値引き抑制も可能に
さらに春物・夏物といった季節商品を夏のバーゲンセールに入る前に値引き前の価格で売り切り、値引きを抑えたことが大きな要因となった。
また、今年の春先は、天候や気温に恵まれ、春物商戦が例年に比べ比較的早めに動いたことや、ゴールデンウィーク以降も気温が高めに推移したことで、夏物の販売も好調だった。
同社は店舗の改装にも着手している。回遊性の向上や在庫の圧縮を狙って、通路の拡張や什器の移動などの改装を進めている。すでに、全国1350店舗のうち、1割ほどでこうした改装を完了。今後2年かけて、全店舗で実施する計画だ。
会社側は今2017年2月期の業績について、4月に発表した売上高5742億円(前期比5.2%増)、営業利益462億円(同15.8%)という期初の見通しを据え置いている。
出足の業績は好調だったことで、過去最高益達成に一歩近づいたといえる。はたして、しまむらはこの勢いを維持できるのか。
菊地 悠人
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