■地域再生の成功学(4)
市街地の再生計画と言えば、古くなった建物を取り壊し、最新式のインテリジェントビルを新築するという「ゼネコン仕様」が相場である。しかし、利便性・機能性を追求するほど「どこにでもある無個性な街」が出来上がり、かえって「町の賑わい」が失われるケースが多いという。
藻谷浩介×清水義次 トークセッション「地域再生とまちづくりのコツ」詳細
「地元の景観に馴染んだ古い建物を壊すのはもったいない」と指摘するのは、都市再生プロデューサーの清水義次さん。「リノベーションして地域再生の拠点として活用すれば、街に活気が生まれ、コストもわずか5年ぐらいで回収できる」と主張する。
実際、清水さんは、東京神田の閉校した中学校をアートセンターとして再生した「3331 Arts Chiyoda」をはじめ、日本全国で遊休不動産をリノベーションしたまちづくりを実践し、注目を集めている。
ベストセラー『里山資本主義』著者の藻谷浩介さんも、清水さんの仕事を高く評価する1人。両人は7月11日(月)19時から、新宿・紀伊國屋ホールでトークイベント「地域再生とまちづくりのコツ」で共演するが、それに先立ち藻谷さんの近著『和の国富論』(新潮社刊)に収録された2人の対談から、一部を再構成してお伝えしよう。
藻谷 古い建物をリノベーションすると聞いて気になるのが、耐震問題です。古くてちょっと面白い建物って、たいてい建築基準法・消防法上はNGという物件で、建て替えなきゃいけなくなるケースが多い。でも建て替え資金は膨大だし、新築されるのは大概つまらない建物で、「場」が死んでしまう。
清水 これは経済合理性から考えていくことが重要です。
ゼネコンに相談すると、必ず建て直しを前提に話が進みます。でも、解体撤去・新築で投資を回収しようとすると、どうしても20~40年の事業計画になってしまう。これは極めて投資効率が悪い話です。しかも、大型の再開発プロジェクトは共有部分が大きくなるので、その分利回りも悪くなる。本当は最初から不採算プロジェクトなのに、国の補助金をぶち込んで、何とか成り立っているように見せかけているのが実態です。はっきり言って、解体撤去・新築で事業が成り立つのは千代田区・中央区・港区のごく一部だけだと思います。
だから私はまず「リノベーションは最長5年以内で投資を回収できるかどうかで考えましょう」とオーナーに言います。内装や電気系統を改めるだけなら、大抵3年ぐらいで元が取れます。
藻谷 でも耐震補強が必要となる物件が多いですよね。よく「耐震補強は新築よりも金がかかるから、結局更地にして駐車場にした」なんて話を聞きますが。
清水 それは、建物の現状を変えないまま基礎部分から耐震補強をやろうとするからです。今は減築耐震補強という合理的な方法があります。たとえば古いペンシルビルだと、最上階にエレベーターの機械室が載っかっています。でも、今のエレベーターは機械室の無いものがほとんどですから、機械室のフロアを切り取ってしまえばいいんです。
藻谷 最上階の重しを取り除いてしまえば、耐震補強のコストは激減すると。
清水 どの程度減築すれば、エレベーターの入れ替えを含むコストが抑えられるのか、プロと一緒に厳密に詰めていく必要はありますが、極めて経済合理的な方法です。
藻谷 新築か駐車場かの二者択一ではなく、その中間で生き延びていく道がいろいろある。その方が街並みの記憶も残せるし、魅力的なまちづくりができるわけですね。
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