宇宙飛行士の大西さん ソユーズであす宇宙へ

宇宙飛行士の大西さん ソユーズであす宇宙へ
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元旅客機のパイロットで日本人11人目の宇宙飛行士、大西卓哉さんが、日本時間の7日、ロシアの宇宙船ソユーズで国際宇宙ステーションに向かい、およそ4か月間の長期滞在を始めます。大西さんは日本時間の6日午後、打ち上げ前最後の記者会見に臨み、「子どものころからの夢だった宇宙飛行が24時間以内に迫っているが、自分でもびっくりするくらい落ち着いている」と今の心境を述べました。
元全日空のパイロットで、日本人11人目となる宇宙飛行士の大西卓哉さんは、日本時間の7日午前、中央アジアのカザフスタンにあるバイコヌール宇宙基地からロシアの宇宙船ソユーズで、初めての宇宙飛行に臨みます。
打ち上げを前に大西さんは、日本時間の6日午後2時から滞在先のホテルで、一緒に宇宙船に乗り組むロシアとアメリカの2人の宇宙飛行士とともに、記者会見に臨みました。
会見場は、宇宙飛行士の席と記者席との間がガラスの板で仕切られ、宇宙飛行士が感染症にかからないようにしています。会見で大西さんは「子どものころからの夢だった宇宙飛行が24時間以内、あしたに迫っているが、自分でもびっくりするくらい落ち着いている。これは、厳しい訓練が精神と肉体を作り上げているのだと思います」と今の心境を語りました。そのうえで、7月7日、日本の七夕の日の打ち上げとなったことについて、「私自身はこの任務の成功を祈って飛びたい。また、世界中の、特に日本の夢だったり希望だったりを載せて、フライトできたらいいと思います」と述べました。
現地には、大西さんが通っていた横浜市の中学・高校の同級生や、全日空に同期で入社したパイロット、合わせて12人が応援に駆けつけ、7日の打ち上げを見守ることになっています。
大西さんは「すごく多くの友人がこの場に駆けつけてくれました。彼らは皆、大きな飛行機に乗っていますが、彼らに負けないように頑張りたい。打ち上げという特別な日に現地に来てくれることをうれしく思います」と感謝の気持ちを表しました。

大西さんは、日本時間の7日午前4時すぎに滞在先のホテルを出発し、宇宙服に着替えて午前8時半ごろ宇宙船に乗り込む予定です。そして、天候や機体に問題がなければ、大西さんが搭乗するソユーズ宇宙船は、日本時間の7日午前10時36分に打ち上げられる予定です。
大西さんらが乗り組む宇宙船ソユーズは、今回から、宇宙ステーションとのドッキングのための機器などを新しくした改良型が使われるため、国際宇宙ステーションまでのフライト時間は、最も急ぐ場合の6時間ではなく、余裕を持った2日間に設定されています。
ソユーズは、日本時間の今月9日の午後に国際宇宙ステーションに到着し、大西さんは、ことし10月下旬までのおよそ4か月間の長期滞在を始める予定です。
宇宙ステーションでの滞在中、大西さんは、日本では初めてとなる哺乳類での宇宙実験として、マウスの飼育実験に臨むほか、がんなどの新しい治療薬の開発を目指す実験などに取り組むことになっています。

大西さん パイロットから宇宙飛行士に

大西さんは、東京・練馬区の出身の40歳。横浜市にある中高一貫校の聖光学院や東京大学工学部の航空宇宙工学科で学んだあと、平成10年に全日空に入社しました。
5年間訓練を積んだあと、平成15年からボーイング767型機の副操縦士となり、およそ6年間、国内線と国際線のパイロットを務めました。この間、32歳のときに、滞在先のホテルで「JAXAが宇宙飛行士の選抜試験を実施する」という新聞記事を読み、大学時代から将来の目標になっていた、宇宙飛行士を目指す気持ちをより強くしたということです。
そして7年前、日本では10年ぶりに行われた宇宙飛行士の選抜試験で、コミュニケーション能力の高さや、チーム全体で最大の結果が出せるように努める点などが評価され、およそ1000人の応募者の中から選ばれました。
全日空を退社する前の松山空港から羽田空港への最後のフライトでは、松山市出身の父親の宏一さんを乗せて、自動操縦装置をほとんど使わず、自分で操縦かんを握りました。
その後、JAXA=宇宙航空研究開発機構に入り、およそ2年にわたって、NASA=アメリカ航空宇宙局などで訓練を行い、5年前の2011年に宇宙飛行士に認定されました。

打ち上げの成功を こんな験担ぎが

バイコヌール宇宙基地は、1961年に、人類で初めて宇宙飛行に成功した旧ソ連の宇宙飛行士、ガガーリンが出発した場所で、今回初めての宇宙飛行に臨む大西さんも、ガガーリンと同じ発射場から出発します。
バイコヌール宇宙基地からロシアの宇宙船ソユーズで打ち上げに臨む宇宙飛行士たちは、ガガーリンが打ち上げ前に行ったことや、その後、慣習として加わったことを、験担ぎの“儀式”として行うのが伝統になっています。
打ち上げの数日前には、滞在先のホテルの近くで記念の植樹を行います。ここには、ガガーリンをはじめ歴代の宇宙飛行士たちが植樹した木々が並び、「宇宙飛行士並木」と呼ばれています。
打ち上げの前夜には、旧ソ連時代のアクション・コメディー映画「砂漠の白い太陽」を見てサウナに入ります。
打ち上げ当日は、ホテルのドアにサインし、神父から聖水をかけてもらいます。
ホテルを出発する際には、旧ソ連時代のテンポのよい音楽が流れます。宇宙から地球を懐かしむ気持ちを歌った曲だということです。
そして、バスに乗って発射場に向かう途中、男性宇宙飛行士は、最後の儀式として、いったんバスを降り、バスのそばで用を足します。ガガーリンが、打ち上げの直前、どうしてもトイレを我慢できず、途中でバスを降りたエピソードから、ガガーリンの成功にあやかろうと今も続いているということです。
こうした験担ぎが、打ち上げを落ち着いて迎えるのに欠かせない慣習になっているということです。

ソユーズ改良型 何が変わったか

大西さんが搭乗するソユーズ宇宙船は、今回から機器の一部を新しくした改良型になっています。
ソユーズ宇宙船は旧ソ連時代に開発されたもので、1967年に1号機が打ち上げられ、今回の打ち上げで130回目です。全長およそ7メートルで、エンジンなどを搭載した部分と宇宙飛行士が乗る部分、国際宇宙ステーションにドッキングする部分の3つに分かれていて、最大で3人が乗ることができます。ソユーズ宇宙船の基本的な構造は、これまで半世紀近く、ほとんど変わっていませんが、内部の機器の改良や軽量化などはたびたび行われています。
今回の改良は、2010年以来6年ぶりです。これまで、ロシア上空を通過する際にかぎられていた地上との通信が、人工衛星を経由することでより広い範囲でできるようになったほか、2種類あった姿勢制御用のエンジンを1種類に統一して、できるだけ単純な構造にしました。また、国際宇宙ステーションにドッキングするためのシステムも新しいものになり、宇宙船が飛行している位置について、これまでは地上からデータをもらわなければ分かりませんでしたが、GPSを活用することで、宇宙船みずから認識できるようになりました。こうした機器の更新に伴って、改良型としては初飛行となる今回は、機器が正常に作動するかどうか、慎重に確認しながら飛行する必要があるため、国際宇宙ステーションまでのフライト時間は、最も急ぐ場合の6時間ではなく、余裕をもった2日間に設定されています。