役員=経営陣にまで出世できる人は一握り。部課長止まりの人と、どう違うのか。正念場の行動パターンから読み解いてみよう。
■トップの不興を買ったとき
防衛大学校出身で外資系企業での経験が長いストラテジックパートナーズジャパン代表取締役の兼本尚昌氏は、経営トップや上司との関係を重く見る。日本企業は外資系や自衛隊と比べて上下関係があいまいで、命令系統を甘く見る部下が多いと感じるからだ。
たとえば、秘密裏に進めていた大口契約の仕掛けがばれて、社長の逆鱗に触れたとしたらどうだろう。
「日本人はつい『きちんと仕事をしていれば、必ず誤解は解ける』という甘い見通しを持ってしまいがち。しかし実際には、本人が釈明しないかぎり誤解は解けません。この場合、誤解された人は社長にとっては敵であり、何をするかわからない“テロリスト”。トップが持つこうした感覚は、古今東西を問わず普遍的なものです。釈明しなければ永遠に再浮上できません。現代の会社だからそれで済みますが、戦国時代だったら間違いなく切腹もの。そのことをもっと重大に考えるべきです」(兼本氏)
したがって、懸命に釈明するか、そうでなければ辞めるしかないというのが兼本氏の考えだ。
プロノバ社長の岡島悦子氏も「もし創業者タイプの社長で、権限が集中している場合は、理由がどうあれ不興を買ってしまったら再浮上はできないと思うべき。いくら仕事で挽回したくても、チャンスは回ってこないかもしれません」と厳しい見方を示す。
ただ、トップが強権的ではなく、話が通じるタイプであったら謝罪と釈明をするべきだ。
「日本人の美学として、言い訳をしないことに価値を見出す人もいるかもしれません。しかし、誤解があるなら、きちんと話を聞いてもらう努力をするべきです」(経営者JP社長 井上和幸氏)
■事と次第では自宅に日参も
では、どうやって釈明したらいいか。兼本氏が勧めるのは「手書きのわび状をしたためる」ということだ。メール全盛の時代であるだけに、全文手書きの手紙は異彩を放つ。直筆で切々と訴えれば、少なくとも書き手の真剣さは伝わるだろう。
「大企業の社長だった人の話です。その人はオーナー会長に諮らずに投資を決めたとして、突然解任されてしまいました。その後、私とキャリア面談を重ねるなかで、『やはり元の会社に戻りたいので、直筆の手紙を書いています』といわれました。少し経ったころ、その人は本当に元の会社のグループ企業に復帰しました。オーナー会長に直筆のわび状を届けたことで、誤解が解けたのだと思います。同様の話は、ほかでも聞いたことがあります」
兼本氏のいうとおり、トップの不興を買うということは「戦国時代なら切腹もの」。そこまで重大なことなら、トップの自宅に日参して、面会を願うということも「極端かもしれませんが、事と次第によっては考えるべきかもしれません」(兼本氏)。
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経営者JP社長 井上和幸
1989年、早稲田大学政治経済学部卒業後、リクルート入社。人事部門、広報室、新規事業立ち上げを経て、2000年に人材コンサルティング会社取締役就任。現在のリクルートエグゼクティブエージェントを経て、10年から現職。著書に『社長になる人の条件』など。
プロノバ社長 岡島悦子
筑波大学国際関係学類卒業。三菱商事、米ハーバード大学経営大学院(MBA)、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2002年、グロービス・マネジメント・バンクの設立に参画。05年代表取締役。07年から現職。アステラス製薬などの社外取締役もつとめる。
ストラテジックパートナーズジャパン代表取締役 兼本尚昌
山口県出身。防衛大学校人文社会科学科国際関係論専攻を卒業後、ダンアンドブラッドストリートジャパン、ガートナージャパンなどを経て、ストラテジックパートナーズジャパンを設立。著書に『プロ・ヘッドハンターが教える 仕事ができる人のひとつ上の働き方』など。
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久保田正志+本誌編集部=文 宇佐美雅浩=撮影
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