2016.07.06 08:00
コピーライターでwebサイト『ほぼ日刊イトイ新聞』主宰の糸井重里氏が犬や猫と人間が仲良くなるためのアプリ『ドコノコ』をリリースした。犬や猫の写真にちょっとコメントをつけて、自分の「本」を作り上げるように育てていける楽しみと、ご近所登録できるので近くに住んでいる飼い犬・猫や野良の子とも仲良くなれる仕組みが売りだ。迷子探しのときにも役立つらしい。2年もの歳月をかけたという渾身のアプリの背景と開発意図を取材した。
犬・猫と人間がつながるアプリ『ドコノコ』企画・監修の糸井重里氏
筆者の家には猫がいる。名前は『イカ』。いままでもInstagramなどの人間用のSNSに愛猫の写真をあげることはあるが積極的に毎日あげることはなかった。また、海外にあるペットのためのSNS(例えば『Unitedcats』)に愛猫を登録したり、他のwebサービスで日記をつけたりもしてみたが、全て続かなかった。ただ『ドコノコ』はダウンロードしてからほぼ毎日、愛猫の写真をポストしている。眠る前のリラックスタイムに開いてアプリ内に並んでいる犬や猫のまぬけでかわいい写真を見て癒やされている。
なぜ『ドコノコ』は毎日使いたくなるのか?眠る前のリラックスタイムに見ても疲れないのか?それは犬や猫が主役で、人間が脇役であるという立ち位置が明確になっているからである。数多あるペットアプリやサービスの中で、犬や猫たちが喜んで登場してくれるアプリはどのようにして生まれたのか?企画・監修を手がけた糸井重里氏に伺った。
『ドコノコ』に投稿された糸井重里氏のブイヨン(中央)と筆者のイカ(右)。
"ひろば"ではみんなの投稿写真が楽しめる。"エリア"では近所の犬猫を知ることが出来る。
『ドコノコ』ユーザーから投稿される犬・猫写真はチームで丁寧にチェックされる。左手前の後ろ姿は企画を手伝う小説家の浅生鴨氏。
糸井氏は犬や猫が保健所に連れていかれてしまうのは「無関心」が原因ではないか?と考える。家の無い犬や猫でも、誰かが掃除をしていたり、餌をあげていたりするのを「知る」ことで、その犬や猫に関心が行き、気になり、愛が生まれる。その愛を生む装置として『ドコノコ』アプリを位置づける。それはアプリの中で積極的に「自分の家の犬・猫」と「街で見かけた犬・猫」を同様に扱うことにより地域みんなで犬・猫を愛すように仕向けている。糸井氏はこの犬や猫に「戸籍」を提供しているのだと語る。
糸井氏は自身の愛犬「ブイヨン」との触れ合いや、動物愛護団体『ランコントレ・ミグノン』の活動を支援することにより心が変化したという。どのような体験が糸井氏の心を突き動かしたのか?犬・猫を「知る」ことが彼らの「命を救う」事に繋がると考えるに至った経緯を、老犬「イーさん」との出会いのストーリーにより読み解いてみたい。
『ランコントレ・ミグノン』の「イーさん」
"生命アート"イーさんは色々と気づきをくれる。
糸井氏の話を聞いていると家の愛猫も近所の猫も同じように愛おしく感じてくる。旅先で出会った犬や猫を登録しても楽しいという。そうなると『ドコノコ』が結ぶ犬・猫・人間とのやさしいつながりは世界中に広がっていく。
『ドコノコ』開発チーム。中心の糸井重里氏から時計回りに松本氏、佐藤氏、ゆーないと氏、星野氏。
『ドコノコ』の開発時のタイトルは『KAZOK』つまり「家族」だった。
ただ、アプリのミッションやテーマが丸見え過ぎるのでライトなユーザーにも喜んでもらえるものにしたいと考え変更したらしい。
ただ、この『ドコノコ』の根底にあるのは「家族」であることは変わらない。家族は家に住んでいる家族(犬・猫含む)はもちろんのこと近所の犬や猫、そして『ドコノコ』に登場する世界中の犬・猫も家族であるという意識が芽生えてくる。
そのような視点で世界を見回すと、世の中には沢山の♡を付けたくなるシーンがあり、優しい気持ちになる。
『ドコノコ』からはじまる平和というものもあるかもしれないな、と糸井氏とチームとの取材を経て感じた。
いままでのアプリよりもアナログで優しさとぬくもりを感じるアプリなのは、テクノロジーに踊らされずに企画をしっかりと考えた上でリリースした結果だろう。
これからの時代、優しさをもったアプリやテクノロジーがより多くの人を巻き込むことになる。
SENSORS.jp 編集長
国際基督教大学(ICU)卒。IBMでエンジニア、Adobeにてマーケティングマネージャー、デジタルクリエイティブカンパニー(株)バスキュールにてプロデューサー従事後、2014年に株式会社HEART CATCH設立。 テクノロジー×クリエイティブ×マーケティングを強みにプロデュース業や執筆活動を行う。スタートアップ向けのデザイン&マーケティングアクセラレーションプログラム「HEART CATCH 2015」総合プロデューサー。 http://events.heartcatch.me/