今から2200年以上も昔に地球の長さを測定しようとした、ギリシャ人のエラトステネスという男がいる。当然歩いて測ったわけではない。当時はまだ全世界が全て明らかになっていない時代で、ギリシャ人は南北アメリカ大陸やオーストラリア大陸の存在を知らなかった。さらに地球が丸いということすら半信半疑の状態だった。そんな時代に彼は地球の長さを測定しようとしたのである。
エラトステネスは、ある場所の夏至の南中時刻に太陽は丁度真上にあり、影ができないことを知っていた。しかし、それが約800km離れた別の場所では違うことに気づいた(驚くべき観察眼だ)。もし、地球が平面だとするならばこんなことは起こり得ない。2点間の距離がどれだけ離れていても、真上から当たれば影はできないはずである。
ここから彼は、地球は平らではなく球形をしているという仮説を立てた。球形ならば太陽光が当たる時の角度が変わるため、離れた場所で影のでき方が異なっていても不思議ではない。そして、彼は影の長さから幾何学的方法で2つの物体が作る角度を約7°と導き出した(今では中学校で習う平行線の性質を彼は知っていたのだ)。
次に彼は大胆な推論を立てる。2つの物体がつくる角度が約7°ならば、物体を延長して地球の中心で交わった時もやはり7°のはずだ。円一周は360°である。したがって360÷7≒50になり、2点間の距離を50倍すれば地球一周の長さが導出できる。結果、800km×50で地球一周の長さを約4万kmと推定した。実際に地球一周は約4万kmでありエラトステネスの推論はほぼ当たっていた。これは天才の所業としか言いようがない。
しかし数学の知識を使わなければこの推論は不可能だった。ギリシャ人はプラトンを初めとしてこぞって数学を研究していたそうだが、彼らは数学を使って世界のありとあらゆる仕組みを解明したかったに違いない。そして古代ギリシャ人の数学レベルは現代にも通じるものだったのだそうだ。古代ギリシャ人恐るべしである。
僕が数学好きになったのは大人になってからだが、読書によって数学にまつわる数々のエピソードに触れたことが大きい。これまでに数学が生み出した奇跡はたくさんあるが、そういうエピソードを知れば知るほど楽しくなる。日本では数学は嫌いな教科No1の常連だそうだが、あまり子供を追い立てずに面白い話をどんどんすればいいのにと思う。楽しくなれば放っておいても子供は自然と知りたくなるはずだ。
・・・と書くと本書が数学の本のようだが、実際には宇宙の本である( ̄ー ̄;ただし、自然科学全般に興味が持てるようになるエピソード満載の素晴らしい本だ。万人にオススメしたい。