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認知症への無理解、痛感 遺族が講演

JR東海認知症事故訴訟で、逆転勝訴した内容について講演する遺族の男性=京都市中京区で2016年6月12日、三村政司撮影

 愛知県大府市で列車にはねられて死亡した認知症男性(当時91歳)の遺族がJR東海に賠償を求められた訴訟で、今年3月に最高裁で勝訴した男性の長男(66)が12日、京都市で講演した。介護家族の責任を認めなかった最高裁判決を「画期的」と振り返る一方、判決後も、事故になれば賠償責任を負わされる不安から認知症の人を閉じ込める動きが出ていると指摘した。

 男性の遺族が講演するのは初めて。支援を受けてきた公益社団法人「認知症の人と家族の会」の総会で約250人を前に語った。

 事故は2007年12月、妻(93)がまどろんだわずかな間に男性が外出して起きた。列車の遅れを理由にJRから請求された約720万円について長男は「振替輸送にかかった実損分の534万円は払っても仕方ないと思っていた」と明かす。

 だがJR側は、遺族が提出した認知症の診断書の内容を疑問視して提訴。裁判では男性が日中は施設に通っていたことをとらえ、見守りを「過大な負担ではない」と主張した。「認知症への無理解がひどすぎる」。長男は憤り、裁判所の和解打診も断ったという。

 1審は男性の妻と長男に全額賠償を命令。2審も妻に約360万円の賠償を命じたが、最高裁は家族の監督責任を認めなかった。

 長男は逆転勝訴を喜びつつも「同居の有無や介護実態などを総合考慮して、特段の事情があれば事実上の監督義務者として責任を問える」とした判決の一部分が過剰に取り上げられ、不安や閉じ込めを生んでいると指摘。「介護は大変なものなので、それを伝えれば裁判所は理解してくれる」と訴えた。

 また、岐阜県の鉄道会社が事故死した認知症男性の遺族に賠償請求するとの報道を紹介し「家族を失い、請求を受ければ遺族はダブルショックになる。鉄道会社は請求をやめていただきたい」と求めた。【銭場裕司】

「損害を補填できる、なんらかの制度を」

 認知症の当事者は一連の裁判をどうみたのか。仙台市の会社員で若年性認知症の丹野智文さん(42)は「家族の責任を認めた1、2審判決通りだったなら、家族に迷惑をかけないように外出しなくなる認知症の人が増えてしまう。安心して外に出られる世の中になることが大切」と話した。

 最高裁判決を評価しつつも「例えば家を勘違いして鍵を壊したり、お店の売り物を間違って食べたりして、損害を出した時にどうするかはこれから考えなきゃいけない。事故になって誰かの生活を壊すようなことはしたくない。損害を補填(ほてん)できるなんらかの制度を作ってもらいたい」と課題も指摘した。

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