日本ではあまり馴染みがないが、海外では政治家や企業が自分に有利な情報操作を行うことを「スピンコントロール」と呼ぶ。企業戦略には実はこの「スピン」という視点が欠かすことができない。
「情報操作」というと日本ではネガティブなイメージが強いが、ビジネスにおいて自社の商品やサービスの優位性を顧客や社会に伝えるのは当然だ。裏を返せばヒットしている商品や成功している企業は「スピン」がうまく機能をしている、と言えるのかもしれない。
そこで、本連載では私たちが普段何気なく接している経済情報、企業のプロモーション、PRにいったいどのような狙いがあり、緻密な戦略があるのかという「スピン」を紐解いていきたい。
「水素水ビジネス」がかなりアツくなってきた。
4月に「水素水」を全国のスーパーなどで発売した伊藤園は、5月の販売状況でミネラルウオーター部門の売上高が前年同月比49.7%増。これを受けて6月8日には株価が年初来高値を更新している。
伊藤園は、少し前にあった伊勢志摩サミットの国際メディアセンターにも「水素水」を無償提供。世界中から訪れた報道機関関係者の興味をひいたらしく、早々と品切れしたらしい。
そんな空前の「水素水ブーム」の兆しがある一方で、その熱気に水をかけるような報道も出てきている。その代表が、5月31日の『東京新聞』だ。『健康効果 実証されず 医薬品でもトクホでもなく メーカーも「ただの水」 識者は「水道水で十分」』という見出しの記事が注目を集めた。
ネットでも批判的な声が多い。3月にはマルチ商法大手「ナチュラリープラス」の水素水「イズミオ」を、勧誘員が「心筋梗塞とか動脈硬化が治る」「薬と一緒に飲めば効果が増す」などと宣伝。これに対し消費者庁が9カ月の業務停止命令を下したことから、「エセ科学」「インチキ」などと叩かれている。伊藤園の「水素水」が売れていることもこの動きをさらに加速させる。
というのも、伊藤園は昨年7月、通販で「高濃度水素水」を売り出しており、一部ネットユーザーからボコボコに叩かれ、「不買運動」の呼びかけまでされている。それが「水素水」のヒットで完全に蒸し返された形なのだ。
では、このようにネガティブなムードに押され、「水素水」が徐々に市場から駆逐されていくのかというと、それはなかなか難しいと思っている。
断っておくが、なにも「水素水」を擁護(ようご)しているわけではない。「製品に効果がある」ということと、「消費者に受け入れられる」ということは必ずしもイコールではない、ということを申し上げたいのだ。
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