検査院へ「提供」 事前通知、骨抜きに
内閣官房、会計検査院との事前合意に反し
国の全ての会計検査を定めた憲法90条に特定秘密保護法の条文が反すると会計検査院が指摘した問題で、内閣官房が条文によらず会計検査に応じるよう関係省庁に通知するとした検査院との事前合意に反し、通知を骨抜きにしていった過程が明らかになった。法施行直後の2015年1〜2月、通知を16年の通常国会終了後に先送りし、通知内容も後退させると検査院に通告していたことが、毎日新聞の情報公開請求で検査院が開示した内閣官房との協議記録で判明した。実際に通知を出す際も検査院に事前相談していなかった。
特定秘密保護法は、行政機関が「我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ」があると判断すれば、国会などの求めがあっても秘密の提示を拒めるとしている。内閣官房は会計検査への秘密指定書類提供を優先した場合、国会側から異議が出ることを恐れたとみられる。憲法の規定を軽視する姿勢が改めて浮き彫りになった。
検査院は法案閣議決定前の13年、憲法に照らし問題があると条文の修正を求めた。内閣官房は修正しない代わりに施行後遅滞なく関係省庁に通知することを約束し、合意した。
今回開示された協議記録によると、内閣官房内閣情報調査室(内調)の担当参事官(課長級)が法施行直後の15年1月に検査院を訪れ、第三者に漏らさない条件で外国から入手した情報など特定秘密には国会にも提供できないものがあると説明し、「合意通りの通知発出は国会との関係で極めて高いハードルがある」と述べた。検査院側は憲法90条ができた歴史的経緯に触れ「行政機関の判断で提供を拒めるというのは容認できない」と反発した。
翌2月、内調の担当審議官(局長級)が検査院を訪問し「検査院に提供できない特定秘密はないとの通知を発出することは困難」と伝えた。発出時期は「衆参両院の(法の運用をチェックする)情報監視審査会が審査を終える頃が一つのタイミング。16年の通常国会終了後か」と説明した。検査院幹部は「適宜の段階で当初の通りに発出していただきたい」と要望した。
この問題を毎日新聞が報道した後、内調は昨年12月25日付で通知を出したが、13年の合意で確認された通知文案中にあった「検査院が特定秘密を利用するときには『我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれ』はないと解される」との一文は削除された。検査院が通知発出を伝えられたのは今年1月8日だった。
内調は取材に「国会での議論や法の運用を見た上で適切な時期に通知を出そうと考えていた」とした。【青島顕】
元会計検査院局長の有川博・日本大教授(公共政策)の話 将来、特定秘密に関する会計検査が拒否される余地を残した。検査院に相談なく、後退した通知が出されたことも問題。
右崎正博・独協大教授(憲法)の話 憲法と特定秘密保護法の規定が対立する場面を通知で取り繕う対応は限界がある。憲法が優先で検査院は毅然(きぜん)とした態度を貫くべきだ。