2016年4月27日10時34分
◆近隣住民 「身近にあってこそ」
都内で公立図書館を削減しようとする動きが相次いでいる。財政難の自治体が公共施設を駅近くの拠点に集約する見直しの一環だが、住民からは「身近にあってこその図書館なのに」と不満の声があがる。
◇新施設、大通りの先へ
□中野
中野区立本町図書館前で24日夕、図書館存続の署名活動をする「本町図書館とあゆむ会」のメンバーの姿があった。「えっ、なくなるの?」と驚いた表情で署名に応じる利用者たち。代表の本間裕子さん(62)は「みんな、まだ知らないんです」と話した。
今年1月、区の「10カ年計画」の素案に、本町、東中野の二つの図書館の廃止が盛り込まれることがわかった。代わりに区立第十中と第三中を統合した新校などが入る複合施設に新たな図書館を設ける。開館は2020年度。中野坂上駅に近い山手通り沿いで、オフィス街にも近い。区の担当者は「ビジネス支援や教育などの専門性がある地域課題解決型のより充実した図書館にしたい」と話す。
住宅街にある本町図書館は駅から徒歩10分弱の距離にあり、2階建ての建物は築50年近く。だが、本間さんは「5千人以上が利用者登録し、身近な施設として愛されている」と言う。
新たな図書館は山手通りと青梅街道という交通量の多い幹線道路を隔てた先にある。「子どもや高齢者など弱い立場の人たちが通いづらくなってしまう」。本間さんはそう訴える。
◇4館廃止 撤回へ運動
□多摩
「地域の図書館は空気のような存在。なくなるなんて考えられない」
多摩市立聖ケ丘図書館の近くに住む辻山妙子さん(68)は言う。
1995年の開館以来、ボランティアで「おはなし会」を続け、子どもが絵本や昔話に夢中になる姿を見てきた。赤ちゃん連れのママ同士が知り合う場にもなってきた。
市が廃止の方針を打ち出したのは13年11月。市内7カ所の図書館のうち、東寺方、豊ケ丘、聖ケ丘、唐木田4カ所の地域館をなくし、本館と駅に近い関戸、永山の拠点館の計3カ所に集約する案だ。
反発した住民が廃止の撤回を求める運動を起こした。豊ケ丘図書館が入る複合施設の存続を求める陳情が市議会で採択され、市は方針の修正を迫られている。
一方、市は今年度、新たな本館の建設に向けた基本構想をつくる。現在は廃校になった旧中学校舎を改修した暫定利用。所蔵資料が保管でき、最新のサービスが提供できる施設の検討を進める。市の担当者は「限られた財源の中で公共施設を維持するには、新たに造るときに古いものを整理するのが原則」と説明する。それが辻山さんらにとっては「立派な本館を造るために身近な地域館を犠牲にする」ように映る。
◇公共施設見直し 統廃合促す背景
なぜ、地域図書館の削減の動きが相次ぐのか。日本図書館協会の元事務局長、松岡要さん(69)は「全国的な公共施設の見直しの動きが背景にある。都内の自治体の大半は図書館が複数ある。統廃合の対象になりやすいのだろう」と話す。
都立図書館のホームページによると、図書館が5カ所以上あるのは、23特別区のうち20区、多摩地域26市のうち15市を占める。分室を含めればさらに多い。協会の調査では5館以上の図書館がある市区町村は全国の1割強にすぎず、都内は恵まれているといえる。
中野区と多摩市の動きで共通するのは駅に近い拠点への集約だ。松岡さんは「図書館は歩いていける生活圏内にあるのが望ましい。公共施設の見直しは必要だが、拠点化で周辺地域が疲弊しかねないことも考慮すべきだ」と話す。
(武井宏之)