【前回】「野球少年が絵画に出会い、ピクサーのアートディレクターに。そして独立。アカデミー賞ノミネート監督、堤大介さんに聞く。」はこちら
「Yuri Suzukiという面白い作品をつくるアーティスト知ってる?」
二年ほど前に、そんなメールが社内のメーリングリストで流れてきました。調べてみると、どうやらロンドンで活躍している日本人のメディア・アーティストらしい。作者のWebサイトを覗くと、日本的なミニマルなデザインでいて、音楽とガジェットを融合したような実験的な作品をいくつも発表されている。どれもとても創造的で面白い。いつかお会いしたいなと思っていたところ、昨年ミネアポリスで行われたクリエイティブ・コーダーのカンファレンス Eyeo Festivalの講演を見る機会に恵まれました。ユーモアに富んだプレゼンテーションは、終始満員のお客さんの感嘆と笑い声、そして暖かい拍手に包まれていました。
僕も学生時代からメディア・アートと呼ばれる作品を制作してきました。そしてそれがきっかけで、広告クリエイティブの世界に潜り込みました。ところが最近では日々の仕事と生活に忙殺され、だんだんとアート作品をはじめとする個人制作のペースが落ちているのが、恥ずかしながら現状です。(時間が無いというのは悪い言い訳ですね。)
しかしながら、このスズキ・ユウリというアーティスト、ポートフォリオをのぞくと、すごいペースでアート作品を発表しつつも、オリンパスやコカ・コーラといったブランドのクライアントワークもこなしている。いったいこの人はどうやって仕事をしているのだろうか?そんな疑問と興味が湧いてきました。というわけで、今回はロンドンで活躍するアーティスト、スズキ・ユウリさんにお話を伺いました。
「偽」明和電機が、明和電機のリアルメンバーに
川島:そもそもユウリさんが、アート作品を作りはじめたきっかけを伺ってもよろしいでしょうか?
ユウリ:中学生の頃から明和電機というバンドが大好きで、高校生になって明和電機のいろいろな楽器を見よう見まねで自作して、明和電機のコピーバンドをやっていました。バンド名は「偽・明和電機」(笑)。高校生ながらきちんとバンド服まで作ってめちゃくちゃ真剣にやっていた。
川島:すごい!あの青のつなぎですか?
ユウリ:そうです。自重堂っていう作業着を扱うメーカーがあるんですが、そこから同じ作業着を購入してつなぎを身にまとってライブをやってました(笑)。そんなコピーバンドをやっていたら、ある日、本物の明和電機が僕らを取材に来てくれた。
川島:えー本物が偽物を逆取材!
ユウリ:当時、明和電機の土佐さんが雑誌の連載を持っていて、実はもう一つ「偽・明和電機」を名乗るバンドが名古屋にもいたんですが、彼と僕らを取材してくれました。それがきっかけにとなり、大学に入ってから明和電機でアルバイトをはじめました。
川島:すごい展開ですね。偽だったのが本物に!
ユウリ:そうなんです、夢が叶ったんです。もうすごく面白くてずっと明和電機に入りびたる生活になり、ほとんど大学には行かなくなっちゃいました。そのまま大学を卒業した後も明和電機に残り、結局トータルで5年ぐらいお世話になりました。はじめは「工員」といって裏方のバイトだったのが、メンバーとして舞台で楽器を引いたりもするようにもなりました。出会った当時市ヶ谷に工房があったんですが、そこで夜な夜なクラフトワークのビデオを一緒にみたり、シンセサイザーの知識を教わったり、すごくかわいがってもらいました。
それで2003年に明和電機のツアーの一環でロンドンに二週間滞在しました。それがすごく刺激的で楽しかった。またそれをきっかけに当時RCA(Royal College of Artロンドンにある名門美術大学) の学生たちとの交流が生まれ、ツアーの後にも明和電機の工房へRCAの学生や卒業生がたくさん遊びに来るようになりました。そこでRCA出身の人たちと仲良くなるにつて、自分もRCAに留学したいという思いが強くなっていきました。
名門美術大学院RCAへの入学
川島:RCA は名門の美術大学ですが、入学準備などはどうされましたか?
ユウリ:ロンドンへは2004年に来ましたが、最初の2年は語学学校で英語の勉強に費やしました。なのでRCAに入学したのは2006年のことです。そこから2年間、修士過程に通いました。はじめは手探り状態でしたが、2年のときにIndustrial Facilityのサム・ヘクト(工業デザイナー。代表作には無印良品の電話機など。)が担当教授になり、かなり自分の方向性が定まってきました。卒業制作ではSound Chaserという作品を作り上げましたが、今振り返れば常に四苦八苦しながらの大変な学生生活でした。
川島:四苦八苦という言葉が出ましたが、僕もこの12年間海外で生活していて、常に四苦八苦しながら生きていると、折に触れて感じています。僕はもともと芸術やデザインを子供の頃からやってきたわけではないし、また留学時代には大したプログラミングの知識もないのに、インタラクティブ性のあるメディアアート作品を課題として制作しなければなりませんでした。そういったときにゼロからつくるのではなくて、既存のものをうまくハッキングして組み合わせながら制作をする術を、ある意味必要に迫られて身につけてきました。そのアプローチは今でも続いてます。四苦八苦ならぬ「四苦ハック」ですね。それはこの連載でもテーマにもしています。
例えばユウリさんのColor Chaserは、モーターがついた既存の電車のおもちゃを分解、つまりハックして、それをうまく使っていらっしゃいます。そういう制作過程を聞いて、ユウリさんも同じようなアプローチで作品を制作されているのではと感じました。
ユウリ:そうですね。日本のものって中身がすごく細く作られていてハッキングしづらいんですね。例えば集積回路にしても、すごく細かく作り込まれていてなかなか分解できない。でも海外のものってすごく単純にできてるのでハッキングがしやすい。中身を開けてみると、なんとなく仕組みがわかるものが多い。そうやってColor Chaserも制作しました。
川島:ユウリさんはハードウェアをハッキングした作品が多いですが、ソフトウェアに関してもGitHubやStack Overflowなどオープンソース化されている誰かのコードをベースに作っていくことが当たり前で、すべてをゼロからつくるということは、もはやほとんど無いと思います。むしろ、すでにあるものをいかにうまく組み合わせて作っていくか、プログラミングに限らず、あらゆる分野でそういうスキルが重要になってきていると思います。ユウリさんの作品からも、それが感じ取れると思います。
「四苦ハック人生 in Sanfrancisco」バックナンバー
- 野球少年が絵画に出会い、ピクサーのアートディレクターに。そして独立。アカデミー賞ノミネート監督、堤大介さんに聞く。(2016/3/21)
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