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2016年04月25日(月) 伊坂幸太郎,佐々木敦

伊坂幸太郎×佐々木敦「面白い小説は"文学"ではないのか?」

エンタメと文学のあいだ

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Photo:iStock

伊坂幸太郎はミステリ作家なのか?

佐々木 拙著『ニッポンの文学』では、2010年代の小説の世界はどうなっていくのか、ということに言及したエピローグで伊坂さんのことを取り上げさせていただきました。

この本では、いわゆる文芸誌に載っている小説しか「文学」の賞(芥川賞)の候補にならない、という身も蓋もない現実をまず指摘しました。その上で、そういったカギ括弧つきの「文学」と、その下位に位置づけられもする「ミステリ」や「SF」という他ジャンルの「エンタメ小説」とを同列に扱って、少なくとも70年代から今に繫がる小説シーンを自分なりに系譜立ててみたんです。

だから、僕にとっては伊坂さんと阿部和重さんの合作『キャプテンサンダーボルト』(2014年)は、「エンタメ」と「文学」というジャンルの壁を越える試みとして映ったんですね。

伊坂 僕のことに触れていただいただけでも嬉しいです。佐々木さんはあまり僕に興味がないだろうなと思っていたので(笑)。

佐々木 以前も「佐々木さんは「文学」の批評家だと思っていたから僕のことを書いてくれてびっくりした」とおっしゃっていましたよね。それは僕が批評を書く媒体が主に純文学を扱う文芸誌だからだと思います。

けれど僕個人は、とりわけ「ミステリ」と「SF」に関しては、子どもの頃から「文学」と同じように、面白がって読んできた。だから、「ミステリ作家」とも言われる伊坂さんの小説を読むことも自然なんです。

伊坂 確かに『ニッポンの文学』は、「新本格ミステリ」まで詳しく扱っていますよね。「文学」と「エンタメ小説」を分け隔てなく、同じように楽しんでいるのが分かって、おこがましいんですけど、僕も読者としてはそういう部分があるので、嬉しかったです。

佐々木 伊坂さん自身もいわゆる「本格ミステリ」や「新本格ミステリ」を読まれてきたと思うんです。けれど、新本格の牙城とされた講談社ノベルスのようなレーベルで活躍されてきたわけではなく、2000年のデビュー以来独自のポジションに立ち続けている。

伊坂さんの登場は、日本の小説の歴史の中でも、一つの結節点だと思っています。ご本人としては最初からガチの、「本格ミステリ」や「新本格ミステリ」を書こうという意識はあったんですか?

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