オーストラリアの国立サンゴ白化タスクフォースは、グレート・バリア・リーフにおけるサンゴの白化状況を示す、初の包括的な地図を公開した。大半が大なり小なり損傷している様子が見て取れる。(参考記事:「世界最大のサンゴ礁で大量死、豪政府が緊急対応」)
グレート・バリア・リーフはオーストラリア北東部沿岸に2300キロにわたって広がるサンゴ礁エリア。地図は、潜水調査と上空からの観測を幅広く実施することで作成された。
911のサンゴ礁を調査
グレート・バリア・リーフは、2900の小規模なサンゴ礁から構成される。今回調査したのは911のサンゴ礁で、このうち実に93%に上る843のサンゴ礁が、何らかのかたちで白化していることが判明した。さらに、主に北部にある手つかずの316のサンゴ礁において、そこに生息するサンゴの60~100%が白化していた。一方、南部のサンゴ礁の大半は、深刻な損傷を受けていなかった。(参考記事:動物大図鑑「サンゴ」)
サンゴ白化の拡大によって、副次的な影響が大きくなることは明らかだ。というのも、グレート・バリア・リーフには1500種を超える魚、世界のウミガメ7種のうち6種、30種のクジラやイルカが暮らしている。それに、ユネスコの世界遺産にも指定されている同リーフは、オーストラリアにとって観光業の中心であり、約7万件の雇用と500万ドル以上の現金をもたらしている。
米国海洋大気局のサンゴ礁監視プログラムに携わるマーク・イーキン氏は、「これほど広い範囲で、特に人間による影響が少ない北部で深刻な影響が出ていることは大きな問題です」と警鐘を鳴らす。
死亡したサンゴの数はまだ確定されていないが、初期の見積もりでは、グレート・バリア・リーフ北部で白化したサンゴのうち、およそ半分が死に瀕していると言われている。今回の調査に参加しているオーストラリアのサンゴ礁研究機関ARC Centre of Excellence for Coral Reef Studiesは、プレスリリースの中で、一部のエリアでは最終的な死亡率は90%を上回る見込みと述べている。(参考記事:「海の酸性化からサンゴを守る応急処置」)
同機関のアンドリュー・ベアード氏は「ここまで白化が深刻になると、ほぼ全てのサンゴ種に影響があります。これには古くからある成長の遅いサンゴも含まれ、ひとたび失われると回復には10年以上かかるでしょう」と言う。
問題は、今回のグレート・バリア・リーフの例は氷山の一角にすぎないことだ。2014年中頃から、太平洋全域でサンゴの白化が継続的に進んでいる。米領サモア、キリバス、仏領ポリネシアなどのサンゴが、水温上昇による被害を受けている。(参考記事:「気候変動 瀬戸際の地球 沈みゆくキリバスに生きる」)
サンゴ礁に未来はあるか
イーキン氏は、気候変動によって海水温が底上げされ、白化を起こす温度まで上昇する頻度が増えていることが問題であると指摘する。さらに、気温上昇によってエルニーニョも起こりやすく、ますます危険が高まっている。
「21世紀中ごろまでには、世界中のほとんどのサンゴでゆるやかな白化が見られるようになるでしょう。条件がよくても白化の回復には10年以上かかります。今後、白化現象の頻度がさらに高まるようであれば、十分な回復時間が得られないことになります」
炭素排出量を削減しない限り気温上昇が止まることはない。そして、気温上昇が続く限り、世界中のサンゴ礁で白化が進行するだろう。
しかし、COP21で締結されたパリ協定を実施できれば、まだ救いはあるかもしれない。この国際協定では、世界の気温上昇を産業革命前に比べて+1.5℃に抑えることを掲げている。これが実現できれば、世界のサンゴの少なくとも一部は暗い未来を迎えずに済むだろう。「地球温暖化を1.5℃以下に抑えることは必須です。現在のままでは、サンゴ礁にとってチャンスはありません」(参考記事:「【解説】COP21「パリ協定」歴史的な合意を勝敗と意外性の観点から解説」)