印南敦史 - アイデア発想術,スタディ,仕事術,働き方,書評 06:30 AM
IoTはこれからのビジネスをどう変える?
以前にも関連書籍をご紹介したことがある「IoT(Internet of Things)」は、一般的に「モノのインターネットという意味」と解説されることが多いと思います。しかし、そもそも直訳でしかない「モノのインターネット」とは、なんともわかりにくい表現ではあります。
端的にいえばIoTとは、「ありとあらゆるモノがインターネットに接続する世界」のこと。でも気になるのは、それが私たちにどのような影響を与えるのかということではないでしょうか? そこで、聞くに聞けない純粋な疑問を解消したい方におすすめしたいのが、『2時間でわかる 図解「IoT」ビジネス入門』(小泉耕二著、あさ出版)。『IoT NEWS』というIoT専門のサイトを運営している著者が、IoTについての基礎をわかりやすく解説した書籍です。
そもそもなぜ、これほどまでにIoTが騒がれるのかというと、IoTによって起きる衝撃が、「すべての人に関係すること」だからなのです。(中略)IoT社会の到来は、インターネットと社会の変化、技術の進歩などの歴史を考えると必然であり、決して「バズワード」「流行語」と揶揄するようなものではありません。実際は、すべてのビジネスマンがIoTによる変化を真摯にとらえ、自らのビジネスに取り込んでいくことが必要なのです。(中略)モノづくりの方法から、サービスの提供の仕方、資金や人材の調達の仕方まで世界規模で変わろうとしています。(「プロローグ IoTとは?」より)
きょうはIoTがビジネスにもたらすメリットに注目し、第2部「IoTが生み出す産業の変化」の第1章「IoTで変わる産業構造」からヒントを探ってみたいと思います。
IoTによるビジネスモデルの変化
センシングとは、センサーがデータを取得すること。たとえばいい例は、温度センサーが計測した体温を表示するデジタル体温計です。いずれにせよ、IoTが既存のビジネスモデルを大きく変化させる可能性があるということを実感するためには、まずセンシング技術の向上について理解する必要があるそうです。
「ヒトがやらないといけないけれど、時間がかかる保全作業」「本当はしばしばチェックしたほうがよいけれど、チェックできていないこと」は、どんな仕事にもあるもの。事実、メーカーはこれまで「つくったら売って終わり」という発想だったはず。なぜなら、やるべきだとわかってはいても、実際に24時間体制で保守・メンテナンスし続けることは、人件費もかかり、大変なことだったから。
しかしIoTによって「売ったモノの状態」を日々センシングできるようになると、その情報から、
「調子が悪くなってきているから、お伝えして修理を促そう」
「システムが古いので、更新をお勧めしよう」
「新しいサービスと提携したから、紹介してもっと使ってもらおう」
「旧製品は不満があるみたいだから、新しいのに交換してもらおう」
など、「モノの利用者がどうすれば自社製品を使い続けてくれるか」を意識したサービスも当たり前のものとなるということ。
いってみれば、自社の製品やサービスについて、「つくって終わり」ではなく、センシング技術を駆使し、解析することで、「保守・改善する」という継続型ビジネスモデルについて考えることが重要なのだということです。
保守・管理が進めば、一度購入したモノを買い換える必要が少なくなります。サービスが日々アップグレードされれば、故障や不安はなくなっていきます。つまり、それらのモノを買った顧客は、他社のモノに変更する必要がなくなるということ。いいかえれば、IoT社会でモノを売るときには、センシングした情報を解析し、大きな問題が起こる前に修復する、常に最新・最高の状態をキープすることが必須になるわけです。(134ページより)
モノの「所有」から「利用」への変化
IoT社会となってよく使われるようになった言葉に、「サブスクリプションモデル」と「リカーリングモデル」があります。どちらにも共通しているのは、「毎月払い(あるいは一定間隔での支払い)であること。
前者は、一定期間ソフトウェアを利用する権利を得るため、毎月支払いを行うようなモデル。たとえば以前なら数十万円を出して買わなければならなかったソフトを、毎月数千円程度のお金を払えば使用でき、しかも毎月無償でアップデートできるのです。
対する後者は、電気代やガス代のように、金額は固定ではないけれども、将来にわたり一定の利用金額の支払いが毎月期待できるような、安定した収入を得られるビジネスモデル。将来の収益が継続的に得られるので、売上が安定的になるわけです
そして、こうした考え方が注目される背景には、現代が「モノの売れない時代」だといわれていることと関係しているのだとか。テレビや冷蔵庫などを買い換える周期が長くなっていることもあり、「一度買ったら長く使ってもらいたい。使いこなすことで愛着をわかせてほしい。そのために、毎月お金をもらって、きめの細かいサービスなどの付加価値をモノの上につけ加えたい」という思惑が働くということ。
また今後は、十何万円もするモノを一括で買うのではなく、月額数千円で利用するタイプのモノも出てくるといいます。つまり、モノは「所有」するものではなく、「利用」するものへと変化してきているというのです。(140ページより)
急速に進むパーソナライゼーション
インターネットを介してモノを「利用」する社会においては、「パーソナライゼーション」も重要。これは、モノひとつひとつについて状態を把握し、"個別対応"を行うこと。ある一定の嗜好に基づいた「グループ」向けにサービスを提供してきたこれまでとは違い、今後は「個人」に寄り添うことが可能になるのです。
たとえばFacebookを利用する際、タイムラインを「興味のありそうなものを優先」にすることもできれば、「すべて最新投稿順に表示」することも可能。他にも数え切れないほどの設定項目がありますが、Facebookはそれらの設定項目に従い、情報を個人ごとに出し分けているわけです。
少し前なら、細かな設定項目を管理するのは困難だったものの、最近では「パーソナライズ」情報を管理することが、クラウドの世界では当たり前になってきているということ。(144ページより)
「真・第四次産業」が登場する
第一次産業(農業など)から第二次産業(工業など)、第三次産業(サービス業など)へと移り変わってきた流れのなか、IoTによって「第四次産業」というべき産業が生まれようとしているといいます。といってもドイツを中心とした「インダストリー4.0」のような製造業の進化ではなく、IoTの社会における第四次産業とは、消費者を巻き込んだもっと大きな動き(これを本書では「真・第四次産業」と呼んでいます)。
代表例は、タクシー配車サービスに端を発した「UBER」や、民家の空き部屋を貸し借りできるサービス「Airbnb」など。これらの企業はデジタルの力によって、これまでになかった新しい産業を生み出しており、その影響は製造業のみならず、流通業などさまざまな産業を巻き込んでいます。いわば、産業構造の変革を生み出しているわけです。
これらの産業の特徴は、デジタルをフル活用していること。たとえば「UBER」は、利用者に対してもドライバーに対しても、必要な情報はすべてスマートフォンで提供しており、スマートフォンアプリを持っていればサービスを簡単に利用できる構造になっているのです。
そして、このように、デジタルの力によって仮想空間上ですべてのビジネスを回すこと、すなわち商品やサービスの開発から製造、販売、配信、最終顧客が受け取る体験に至るバリューチェーンの隅々にまでデジタルを適用することが「デジタライゼーション」。第四次産業については諸説あるものの、このデジタライゼーションこそが、真・第四次産業の核になると著者は考えているそうです。(146ページより)
家ナカでデジタライゼーションを考える
では、どのようにデジタライゼーションを果たせばよいのでしょうか? このことを説明するために、著者は「もしも自分が家ナカの家電メーカーで、デジタライゼーションを果たそうとする企業の経営者だったとしたら、どういうことをやりますか?」と問いかけています。
まずは、クラウドサービスを立ち上げる必要があるでしょう。インターネット上に巨大なデータベースを持ち、家電がセンシングしたデータを集めるのです。そして、すべての家ナカ家電の情報を集められたとしたら、次に提供すべき価値として思いつくのは「省エネ」。「HEMS(Home Energy Management Systemの略。家庭で使うエネルギーを節約するための管理システム)」で電力の供給状態や使用状況も把握できるので、無駄な電気は自動的に利用を控え、必要なときに利用するということを、人工知能を使ってコントロールできるわけです。
また、すべてがつながっているわけですから、ヒトがどの部屋にいるのか、外出中なのか、どういうことをやりたいと思っているのか、なども検知することが可能。ヒトが指示をしなくても、家ナカ家電自体が気を回せるので、快適な暮らしを提供できるのです。
冷蔵庫は、冷やすという機能はモノ側で担当するとしても、保存されているドレッシングやマヨネーズなどの残量はクラウドで管理され、足りなくなるとECサイトで自動的に発注。商品を送るタイミングを在宅時に合わせるため、スマートロックが住人の家にいるタイミングを学習し、クラウドサービスでその情報を保管。こうして、家ナカは会社のクラウド上で管理され、モノは人工知能を通してコントロールされることに。
かくして、圧倒的な利便性と省エネ等によるコスト削減効果から、利用者は増加していきます。するとクラウドサービスを展開する他企業がどんどん参入してくるため、自社のサービスにはさらなる付加価値が追加されるわけです。
簡単な流れでご説明しましたが、つまりこのように、IoTを包含したデジタライゼーションによって、会社はこれまで考えられなかったような変革を起こすことが可能になるということ。もちろん現実的にはすべてが簡単に進むわけではないでしょうが、それでもここに大きな可能性があることは事実。その証拠に、この立ち位置を狙う企業は、グローバルレベルで相当数存在するといいます。(152ページより)
タイトルどおり図版も豊富で、解説もシンプルにわかりやすくまとめられているところがポイント。ページ数も決して多くないので、抵抗なく受け入れることができるはず。さっと目を通してみるだけで、IoTの全体像を理解することができることでしょう。
(印南敦史)
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