4月から部下がひとり増えた。正確にいえば自分は上長ではないから後輩にあたる。ちなみに彼の前職は超一流広告代理店の営業職だったのだが、なにを思ったか、渋谷のまちづくりに携わりたいという熱い想いで転職してきた方。
これまでデジタル媒体担当やクライアント営業を経験してきた29歳で、スキルはそれなりにあるのだろう。まだよく理解してあげられてないけど。ごめん。まったく異ジャンルのこっち側にきたわけなので、いわば異国の地ともいうべき場所。まずは言語(単語)に慣れることにあっぷあっぷする毎日のようです。アーバンデザインセンター、まちづくり調整会議、地元調整協議会、国家戦略特区、エリアマネジメント、BID、TFI、PPP、PFI、COC、CCRC、シティフューチャーギャラリー。聞いたことないよね。で、ようやく1週間たったので、
「そろそろ目標を立てようぜ」
ということで今日は話しあってみた。という自分用メモ。以下。ちなみに彼が想像する直近のなりたい(未来)像は、「うまくプロジェクトを差配できるようになりたい」「プロデューサー的な」というもの。いいじゃない。なので問うてみた。
「そうなるためにはどうやったらいいと思う?」
彼の答えはステップアップ。1.まず単語を覚えることで→2.要素をなんとなく理解できたら→3.日程調整のお手伝いができるようになり→4.関係者や登場人物やお金の流れを把握できるようになって→5.関係者との会話に参加できるようになり→6.議事をまとめられるようになるから→7.マップが手に入れられて→8.ゴールを把握できるようになり→9.自分でうまく差配できるようになるのではないか、というようなことだった。自分の能力を段階的に考えてるね。
思ったのが、日本人の多くは、与えられた課題を効率的に解くことを良しとするような教育を受けてきている。模範解答や前例を頼りに、最短コースで目的地に到着する力を伸ばす教育ともいえる。改善が得意で、同じようなコンセプトをより安くより早く、かつ高品質にしていくことで日本企業は世界を席巻してきた。行動の改善。ステップアップ式。課題解決型。
行動 → 結果
こういった考えは、ゴールや前例が用意されている場合はよいのだと思う。広告コミュニケーションの世界でも、広告主や依頼主からオリエンテーションを受けることがほぼほぼだ。先方から目的(≒ゴール)を最初に提示してもらうことが多い。最適な手順を探すことに日々勤しんでいる。個人的な認識ではあるが、アドマンは課題解決をかなり得意としていると思う。広告主⇔生活者の二者間のコミュニケーションを取り持つお手伝いが多かったりするので、構造も見えやすい。
一方で、昨今は先がまったく読めないような世の中だ。
混沌としてて複雑で不確実。答えがない。いいかえれば自由に考えるしかないわけだが、自由に考えていいよと言われると思考停止してしまう。たとえば、会社で新規事業に自由に取り組む部署に配属され、自由に検討していいと言われてるのに頭を抱えて困ったり、大学の卒論で自由にプロジェクトに取り組んでいいと言われているのに、事例をマネたり書籍を探し出してきて文言だけ入れ変えてパクったり、小学校の夏休みの自由研究で、自由な研究でいいと言われているのになにやっていいかわからなかったり。
そういや彼のステップの最後のほうにも、「8.ゴールを把握できるようになる」というのがあった。「目標を立てるのが目標です」と言ってるのに等しく、はて?と思えた。
仮に、自身で設定した課題をクリアしながら進んでいったとしても、途中で目的地を見失ってしまいそうで、目的(地)に到達する日が永遠にこないようにも思われる。ではどうする。それが問題を定義するデザイン。価値創造型。
今足りないこと(現在)→ 将来ありたい姿(未来)ではなくて、
将来ありたい姿(未来)→ そのためにいまできること(現在)
結果 → 行動
逆算で考えること。バックキャスティング。未来思考ともいう。たとえば「小学生がプロ野球選手になりたい」という夢があったとして、6.将来プロ野球選手になるためには、→5.そのまえにドラフトに選ばれなければならないから→4.甲子園や大学野球で活躍することで、→3.常にスタメンに選ばれて試合にでるためには、→2.日々自己鍛錬をしなければならないので、→1.じゃあ今は素振りを毎日300回やろう。というのがバックキャスティング。
一緒にバックキャスティングしてみた。
6.うまくプロジェクトを差配できるようになりたい(かっこいい自分!)、→5.論理的に話しができるようになる(プレゼン上手)、→4.論理的に考えることができる(企画書づくり)、→3.情報整理ができる(議事まとめ)、→2.構造が理解できる(全文理解)、→1.そのために今は要素を覚える(単語/登場人物/時系列の把握)。バックキャスティングのよいところは、
逆順で考えることで、ポジティブの連鎖を想像しやすい。
たとえば、まちづくりには利害関係者が多い。住人がいて、商売をしている人がいて、働いている人がいて、遊びに訪れる人がいて、たまに遊びに来る旅行者もいる。納税する人がいて、行政職員がいて、生活保護を受けている人がいて、費消するだけの人がいて、享受少ないひとがいて、真摯に提供するだけの人もいる。利害が一致することは難しい。
「現在→未来」という思考だと、
現在の問題/課題を抽出するネガティブな共有会になりがち。それぞれ足りてない差分(≒ネガティブ)を出し合うことになって、誰かにとってメリットがあったとしても、ほかの人にとってデメリットだったりする。たとえば、公共空間を使ってにぎやかしのイベントをやりたいと思っている人がいた場合、商店主や参加者は賑やかで喜んだとしても、片や住人は閑静な暮らしをもとめていたりする。
あちらを立てるとこちらが立たぬ。多数決で決めるか、先送りするか、誰かが大ナタを振るうか。決着させることが難しい。そこで、
みんなで「未来→現在」で思考するのがおすすめ。
未来を想像すると、素敵(≒ポジティブ)であるというのが普通というものだ。たとえば、子どもたちの笑顔が絶えない町内になってほしいだとか、周りのひとと声を掛け合うご近所でありたいだとか、明るく未来を考える人がほとんどでしょ。
未来/理想から逆算することで、そのために「いま」できることを考えるので、立場の異なるさまざまな人の中において、自分ができることを考えます。アイディア/仲間/機会/場所/資金/だったりとか。
まとめ。
今の足りない能力をがむしゃらに埋めようと努めるより、「2.構造を理解したい」から「1.要素を覚えたい」、という前提(次の行動)を想定できるので、理解の質があがる。
こっち(まちづくり)界隈は、あっち(広告コミュニケーション)界隈とちょっと違うので、「うんうん」と頷いてばかりのような政治的調整業務は多い。本質は同じだったりするのだが、主張は少なめ。多様な考えが渦巻く時代では役立つ思考法じゃないかな、と思うので取り組んでみるとよいのでは。
そんなことより、目的地に早く着くことが人生の目的ではないわけで、目的地までの旅を楽しむことこそが人生の目的と思うわけなので、楽しみながらともにダラダラ行きましょう。あと、頼られるのは嫌じゃないのでぜひ頼ってくださいな。
以上自分メモ。
参考リンク: 「課題」と「問題」の違い。
参考リンク: 広告代理店の仕事を「おら東京駅さ行ぐだ」で説明する。