読書人の雑誌『本』より
2016年04月12日(火) 酒井崇男

「世界最強企業」トヨタ、成功の秘密
〜だから「売れるモノ」を作り続けられる!

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〔PHOTO〕gettyimages


(文/酒井崇男・人事・組織戦略コンサルタント)

トヨタ成功の秘密は「リーン」にある

私が小学校に入学するまで面倒を見てくれた曾祖母は、96歳まで生きた。彼女がまだ20代だった明治時代後半、愛知県の矢作川に沿って豊田市西側に広がる「論地が原」と呼ばれる原野は大変危険な地域だったそうである。

背の高い草が生い茂り、耕作には適さず、狐や狸だけでなく追剝や強盗の類も一緒に住んでいた。彼女の親類が強盗の被害に遭ったことがある。そのため「論地が原」には行ってはいけないよ、というのが彼女の口癖になっていた。

その「論地が原」の小高い平山に現在のトヨタ自動車の本社がある。愛知県西加茂郡挙母町「論地が原」とは現在の愛知県豊田市トヨタ町一番地のことである。

トヨタ自動車の創業者・豊田喜一郎が自動車産業を作ろうと決意し、この地に工場の建設を開始したのは1935年のことである。それから80年後の現在、トヨタ自動車は世界最大の自動車会社に発展した。

売上は27兆円、利益は2兆円を超えている。生産・販売は年間1000万台を超え、600万台は海外で外国人が製造している。国内生産の半分は輸出なので、80%が海外市場向けである。トヨタ本体の社員数はすでに外国人の方が多い。「論地が原ベンチャー」であったトヨタは、現在では日本最大の企業であるだけでなく典型的なグローバル企業でもある。

そのトヨタの秘密を海外の学者やコンサルタントが説明しようとしてきた。最初から資金があったわけでも技術蓄積があったわけでもない。あったのは、人間の頭脳と情熱のみである。さらに言えば、あったのは「ある種の価値観をもった人間と人間集団」である。

米国ではトヨタの成功の秘密を「リーン」という言葉で説明しようとする。リーンとは「贅肉がない」という意味の英語である。

トヨタ生産方式はToyota Production System(TPS)であり、トヨタ流製品開発はToyota Product Development(TPD)である。米国人はそれらをそれぞれ「リーン生産」、「リーン開発」と呼んでいる。最近ではシリコンバレーでもリーン・スタートアップ、リーン・ローンチパッドなどという言葉を聞く。またデザインシンキングと呼んでいるものも元をたどるとリーン派生である。

ソフトウェア分野でアジャイル、XP(エクストリーム・プログラミング)、スクラムなどと呼んでいるものもルーツはすべてこの三河の「リーン=トヨタ」なのである。しかしこれらはどれもTPSではなく正確にはTPDをルーツとしている。

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