[PR]

 激しい雨が降る中でのレースだった。2009年に「最多勝利騎手」に輝いた中央競馬の内田博幸さん(45)は11年5月11日、東京・大井競馬場の夜間競馬「トゥインクルレース」の途中で、落馬した。

 全長1200メートルの砂のコースは、大井競馬に所属していた地方競馬時代から知り尽くしている。

 「きょうは雨が強いから、滑りやすいな」

 雨が降るコースは、砂が流されてスピードが出やすい半面、滑りやすくもなる。気持ちを引き締めて、臨んだレースだった。

 ゴール前の最後の直線。乗っていた馬は、後方につけていた。

 「よし、ここからだ」

 追い込みをかけるため、馬にむちを入れた。その瞬間、わずかに馬とのバランスがずれ、重心が合わなくなった。

 「あっ!」

 体が右に傾く。右足で踏ん張ろうとしたが、輪に足をかけて体を支える「あぶみ」が外れていた。

 「ドーン」

 体に激しい衝撃が走った。足から落ちた後、頭が地面にたたきつけられた。コース上で倒れたまま、自分の体に呼びかけた。

 「意識は、はっきりしているな。手足の骨折も、なさそうだ。ただ、首がまずいな……」