2000年以降急騰 「分子標的」開発高額
国内外で抗がん剤の価格が急激に高額化している実態が、米国や日本の医師の分析で明らかになった。日本では2000年代以降、がん細胞を狙って攻撃する「分子標的薬」の登場によって新たに承認された抗がん剤の価格が急上昇している。米国でも、10〜14年には月額約1万ドル(約110万円)となり、00年以前の約5倍に急騰。さらに、最近発売された免疫の仕組みを利用する新タイプの薬が高額化に拍車をかけている。
国立がん研究センターの後藤悌(やすし)医師が国内の肺がんの抗がん剤について、平均的な体格の日本人男性が使用する場合の1カ月当たりの薬価を集計。1983年に承認された「シスプラチン」など、がん細胞の増殖を抑えて死滅させる抗がん剤は、ほとんどが月額10万円以下だった。しかし、肺分子標的薬「イレッサ」(一般名ゲフィチニブ)が登場した02年以降は同数十万円に上がり、最近2〜3年は同70万〜80万円になるものも出ていた。さらに、15年に同300万円を超える新タイプの抗がん剤「オプジーボ」(一般名ニボルマブ)が適応になった。日本は、高額療養費制度によって患者の所得に応じて自己負担には上限があり、70歳未満(夫婦と子ども1人の世帯)では月3万5400円〜約25万2600円。差額は医療保険者が負担する。
米ニューヨーク市のメモリアル・スローンケタリングがんセンターのチームは、新たに承認されたがん新薬の価格を75年から5年ごとに比べた。その結果、75〜79年は同約130ドル、30種類の新薬が登場した95〜99年は同1770ドルに上昇。その後も価格は上がり、00〜04年に同4716ドル、直近の10〜14年は同9905ドルと急激な価格の上がり方になっている。
抗がん剤が高額化する背景には、新たな仕組みの抗がん剤開発の成功確率が低く、開発期間、研究費がかかることがある。その上、分子標的薬は対象となる患者が少ないため、薬価が高額化しやすい傾向がある。【下桐実雅子】